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ユメカマコトカ 第1話
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※こちらは『ウソカマコトカ1』の続編となります。
※BL作品のため、BLが苦手な方はご遠慮下さい。
※今回は性描写なし。
------------------------------------------------
ドアを開けて入ると、診察室特有の消毒液のような匂いがした。
「どうぞ」
促されて、丸椅子に座る。
足元のカゴにリュックを置いた。
「えーっと……」
白衣姿の医師が、問診票のはさまれたバインダーを手に取る。
ざっと目を通すと「不眠、ですか?」と聞いたので、「あ、はい」とだけ答えた。
問診票の書き込みをしばらく読むと、パソコン画面に向き直り、何かを打ち始めた。
後ろに立っていた看護師が部屋の奥へ行き、窓を少しだけ開け、カーテンの向こうへと消えて行った。
窓の隙間から吹き込んだ風が、大きなプリンターの上に重なる紙を音を立ててめくる。
射し込んでくる午前の光は、この部屋の空気に漂白されたかのように病的に清く、診察室は白かった。
「お酒と煙草の量は、日にどれくらいですか? ざっとでいいので」
ぼんやりしていたら、急に聞かれて驚く。
「え、……っと。缶ビール1本、とか、煙は1箱くらい……だと、思います。最近はあんまり……。しんど過ぎて……」
片言のように言うと、医師は「そうですか……」と、またキーボードを叩く。
それからまた問診票のバインダーを持ち上げた。
「悪夢を見る、と書かれてますが、眠る事自体は出来ているって事ですか? 目がさえて眠れないとか、何度も目が覚めるとかでは無くて?」
「はあ……、まあ、たぶん」
「寝れはするけど、夢を見て眠りが浅い……?」
こちらをちらりと振り返った。
「たぶん……そうだと、思います」
「2週間ほど前からって事ですが。何か、そのあたりで思い当たるような原因とか、ストレスになるような事はありました?」
「はあ……まあ」
ああ、あるんだ? そうぽつりと言い、医師はエンターキーを軽く弾くと、回転する丸椅子の音を立てて、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「ちなみにその悪夢というのは――どんな、感じの?」
「え……っと……」
俺が言葉に詰まると「あ、差支え無ければで結構ですよ?」と素早く言葉が返ってきた。
「なんていうかその……。いつも同じような内容で……、過去の記憶? みたいなのが、蘇ってきて。何度も繰り返し夢に見て……」
思い出すと胸がずんと重くなる。
日がかげって、急に部屋が暗くなった。
他人に自分の夢を話すというのは、どこか気恥ずかしくて、難しい。
とりあえずと、途切れながら言葉を紡ぐ。
「毎回、同じ相手が、出てくるんです……。毎回同じ、いくつかのシーンを、順番に見る、みたいな感じで……」」
視線を落とし、白い床の汚れを眺める。
「同じ、相手――?」
「……はい」
「何かこう、トラウマ的な?」
若い医師は聞いた。
トラウマ……? とは、少し違う気がする。
答えられずにいると、違う質問を投げてよこした。
「辛い状況が何度も繰り返されたり。その……同じ相手? が毎回出てきて、怖かったり、嫌な思いを繰り返す、とか?」
「まあ……怖いとか、嫌とかは……、確かにあるけど。あ、でも……それは、相手じゃなくて――」
相手じゃなくて――。
続きの言葉が出てこない。
沈黙が流れる。
雲の切れ間なのか、急に光が射し、また視界が明るくなった。
「その相手って、もしかして――恋人?」
しばらくして、唐突に医師は聞いた。
医療の現場にしては、やけにイタヅラな響きだった。
「え……?」
恋人?
彼女、ではなく?
「それって――恋の病?」
可笑しそうに、そいつは囁いた。
俺は、はっとした。
ゆっくり視線を上げる。
白衣の上。
整った口元が、にやりと笑みを浮かべている。
明るい髪が、診察室の白い光を乱反射して揺れる。
医師だと思って話していた相手は、白衣を着たクラブの後輩だった。
そしてそれは、俺の悪夢にいつも登場する唯一の、相手であった。
俺は腑に落ちた。
まただ。
また、いつの間にか夢の中にいる。
とっくに悪夢は始まっている。
全身の力が抜けていく。
白衣の腕がゆっくりと、こちらに伸びた。
長く形のよい指先が、俺の前髪をかすめて、優しく撫でる。
そのまま頬を伝い、首から肩へ滑り落ちてきたその手は、俺の腕を優しくつかみ、引き寄せた。
「向こうへ、行きましょう」
静かに言うと、そいつは立ち上がった。
微笑みながら、こちらを観察するように見下ろしている。
言われるまま俺は力なく立ち上がった。
夢の中の俺は何も抵抗できない。それを、この身体はよく知っている。
神代は、こちらに顔を寄せた。
柔らかな髪が頬をかすめる。
耳元で囁く。
「大丈夫。痛みもすぐに快楽になりますよ」
よく見知った綺麗な唇が、目の前で満足気に笑った。
俺は全てを諦める。
ぼんやりと、また床に視線を落とす。
相変わらず、部屋は痛いほど真っ白のままだった。
処刑台に連れられるように、腕を引かれて歩みだす。
また、悪夢に引きずり込まれていく。
------------------------------------------------
【後書き】
こんばんは。
こんな、この世のはずれの、へき地のBLの続編だなんて、偏食なものを読みに来て下さった物好きなお方。そこのあなた。
お久しぶりです。
こんな場所まで迷い込んで来て下さって、本当にありがとうございます。一人で帰れますか?
誰が読むんだと思いつつも、とりあえず吐き出しちゃわないと自分がしんどいので書き始めた訳ですが、本当に嫌になるほど上手く書けなくて、全く進まず大変でした(TдT)
特に18禁(性描写)は十年ぶりくらい? に下手に手を出したら、全然書けない……かと言って、執筆中に他の人の文章読みに行くと、更に落ち込んで絶対に書けなくなるので、どうにも身動取れず。何度か投げ出しかけてます。
読んでの通りというか、題名のとおりというか、今回は続編というよりは、夢の中で二人の関係を振り返るというシリーズです。その後本編へという流れです。今のところ全5話の予定です。
18禁(性描写)が入る場合、ブログでは、その話数だけ小説家になろう等の18禁OKの閲覧サイトに飛ばすリンク貼らせて頂きます。大した描写じゃないから、期待せずにリンク押して下さいね。
※次話は2~3日中に更新予定です。
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※BL作品のため、BLが苦手な方はご遠慮下さい。
※今回は性描写なし。
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ドアを開けて入ると、診察室特有の消毒液のような匂いがした。
「どうぞ」
促されて、丸椅子に座る。
足元のカゴにリュックを置いた。
「えーっと……」
白衣姿の医師が、問診票のはさまれたバインダーを手に取る。
ざっと目を通すと「不眠、ですか?」と聞いたので、「あ、はい」とだけ答えた。
問診票の書き込みをしばらく読むと、パソコン画面に向き直り、何かを打ち始めた。
後ろに立っていた看護師が部屋の奥へ行き、窓を少しだけ開け、カーテンの向こうへと消えて行った。
窓の隙間から吹き込んだ風が、大きなプリンターの上に重なる紙を音を立ててめくる。
射し込んでくる午前の光は、この部屋の空気に漂白されたかのように病的に清く、診察室は白かった。
「お酒と煙草の量は、日にどれくらいですか? ざっとでいいので」
ぼんやりしていたら、急に聞かれて驚く。
「え、……っと。缶ビール1本、とか、煙は1箱くらい……だと、思います。最近はあんまり……。しんど過ぎて……」
片言のように言うと、医師は「そうですか……」と、またキーボードを叩く。
それからまた問診票のバインダーを持ち上げた。
「悪夢を見る、と書かれてますが、眠る事自体は出来ているって事ですか? 目がさえて眠れないとか、何度も目が覚めるとかでは無くて?」
「はあ……、まあ、たぶん」
「寝れはするけど、夢を見て眠りが浅い……?」
こちらをちらりと振り返った。
「たぶん……そうだと、思います」
「2週間ほど前からって事ですが。何か、そのあたりで思い当たるような原因とか、ストレスになるような事はありました?」
「はあ……まあ」
ああ、あるんだ? そうぽつりと言い、医師はエンターキーを軽く弾くと、回転する丸椅子の音を立てて、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「ちなみにその悪夢というのは――どんな、感じの?」
「え……っと……」
俺が言葉に詰まると「あ、差支え無ければで結構ですよ?」と素早く言葉が返ってきた。
「なんていうかその……。いつも同じような内容で……、過去の記憶? みたいなのが、蘇ってきて。何度も繰り返し夢に見て……」
思い出すと胸がずんと重くなる。
日がかげって、急に部屋が暗くなった。
他人に自分の夢を話すというのは、どこか気恥ずかしくて、難しい。
とりあえずと、途切れながら言葉を紡ぐ。
「毎回、同じ相手が、出てくるんです……。毎回同じ、いくつかのシーンを、順番に見る、みたいな感じで……」」
視線を落とし、白い床の汚れを眺める。
「同じ、相手――?」
「……はい」
「何かこう、トラウマ的な?」
若い医師は聞いた。
トラウマ……? とは、少し違う気がする。
答えられずにいると、違う質問を投げてよこした。
「辛い状況が何度も繰り返されたり。その……同じ相手? が毎回出てきて、怖かったり、嫌な思いを繰り返す、とか?」
「まあ……怖いとか、嫌とかは……、確かにあるけど。あ、でも……それは、相手じゃなくて――」
相手じゃなくて――。
続きの言葉が出てこない。
沈黙が流れる。
雲の切れ間なのか、急に光が射し、また視界が明るくなった。
「その相手って、もしかして――恋人?」
しばらくして、唐突に医師は聞いた。
医療の現場にしては、やけにイタヅラな響きだった。
「え……?」
恋人?
彼女、ではなく?
「それって――恋の病?」
可笑しそうに、そいつは囁いた。
俺は、はっとした。
ゆっくり視線を上げる。
白衣の上。
整った口元が、にやりと笑みを浮かべている。
明るい髪が、診察室の白い光を乱反射して揺れる。
医師だと思って話していた相手は、白衣を着たクラブの後輩だった。
そしてそれは、俺の悪夢にいつも登場する唯一の、相手であった。
俺は腑に落ちた。
まただ。
また、いつの間にか夢の中にいる。
とっくに悪夢は始まっている。
全身の力が抜けていく。
白衣の腕がゆっくりと、こちらに伸びた。
長く形のよい指先が、俺の前髪をかすめて、優しく撫でる。
そのまま頬を伝い、首から肩へ滑り落ちてきたその手は、俺の腕を優しくつかみ、引き寄せた。
「向こうへ、行きましょう」
静かに言うと、そいつは立ち上がった。
微笑みながら、こちらを観察するように見下ろしている。
言われるまま俺は力なく立ち上がった。
夢の中の俺は何も抵抗できない。それを、この身体はよく知っている。
神代は、こちらに顔を寄せた。
柔らかな髪が頬をかすめる。
耳元で囁く。
「大丈夫。痛みもすぐに快楽になりますよ」
よく見知った綺麗な唇が、目の前で満足気に笑った。
俺は全てを諦める。
ぼんやりと、また床に視線を落とす。
相変わらず、部屋は痛いほど真っ白のままだった。
処刑台に連れられるように、腕を引かれて歩みだす。
また、悪夢に引きずり込まれていく。
------------------------------------------------
【後書き】
こんばんは。
こんな、この世のはずれの、へき地のBLの続編だなんて、偏食なものを読みに来て下さった物好きなお方。そこのあなた。
お久しぶりです。
こんな場所まで迷い込んで来て下さって、本当にありがとうございます。一人で帰れますか?
誰が読むんだと思いつつも、とりあえず吐き出しちゃわないと自分がしんどいので書き始めた訳ですが、本当に嫌になるほど上手く書けなくて、全く進まず大変でした(TдT)
特に18禁(性描写)は十年ぶりくらい? に下手に手を出したら、全然書けない……かと言って、執筆中に他の人の文章読みに行くと、更に落ち込んで絶対に書けなくなるので、どうにも身動取れず。何度か投げ出しかけてます。
読んでの通りというか、題名のとおりというか、今回は続編というよりは、夢の中で二人の関係を振り返るというシリーズです。その後本編へという流れです。今のところ全5話の予定です。
18禁(性描写)が入る場合、ブログでは、その話数だけ小説家になろう等の18禁OKの閲覧サイトに飛ばすリンク貼らせて頂きます。大した描写じゃないから、期待せずにリンク押して下さいね。
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