『ウソカマコトカ(全9話)』

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ウソカマコトカ(7/9)

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「とにかく。幸か不幸か、先輩は覚えてなくても、俺達は――両想い、なんです……」

  神代は首を触りながら、うつむき加減で、やや困った顔をした。なんの照れなんだよ、それは。

「いやお前それ……、幸はねえんだよ。不幸だけなんだよ」

「正直言って、死因として有りなんじゃないかってくらい……、怖いくらいに、ラブラブなんです」

  神代は、困りながらも真剣な眼差しで熱く語る。

「脱法系の柔らかいキャンディを手で潰して、砂糖とぐちゃぐちゃに混ぜてから、シロップ漬けにした感じのヤバいラブラブです。激甘です」

「キモいわ例えが……砂糖に砂糖なんだよ」

「具体的に言うと――例えば、先輩が寝ちゃう時は、いつも俺が手を繋いで、腕枕してあげてます」 そう言って、急にふやけた表情でえへへと笑った。

「どうして俺との惚気けを、俺に自慢すんだよ。今って何の時間?  何聞かされてんの俺」

  前もそうだったが、恋人の話をする時の神代は、こちらがひくほど、ピュアの権化のように惚気けまくる。本人はいたって楽しそうなので放っておくが、やっぱりちょっと阿呆なんだろなと眺める。

  頬を赤らめ、困ったような表情。時々思い出に意識を持っていかれるのか、のぼせたようにぼんやりとして、熱い息を吐き出す。
  先程までのヤバい奴とは別人である。

「俺の事好き……?  って聞いたら、先輩何て答えたと思います?」

「聞けよ、人の話」

「はあー……。まじで、酔った時の先輩が可愛すぎて……卑怯過ぎます……。酔ってない時が全然可愛くなくてバカなのも許せるくらい、可愛いです」

  そんなわけあるかぼけ。

  こんな差し迫った状況の最中さなかであろうと、自分がフラれた直後に降りかかる他人の惚気け程、つまらんものは無いのだと知った。
  なんとかこのまま時間だけが過ぎて、気がつけば身体が動くようになりはしないだろうか。
   
  



  神代は気を取り直したように話し出した。

「この際はっきり言っときます。先輩は、女性とは無理です。これだけモテるんだから俺には分かります。先輩は、確実に女性に嫌われるタイプです。 間違いない!」

「おい、やめろ。断言すんな」

「いや断言します。先輩はこの先、女性に嫌われてその辺の男達に狙われ続けるか、俺の奥さんになるしか道はありません」

「なんだそれ、奥さんて。人の人生いきなり二択にすんなや。他にもいろんな可能性があんだろ、俺にも」

「いえ、二択です。というか、ほぼ一択です。先輩の人生には、何の可能性もありません」





  俺は自分の身体が動かない事も忘れて、出来る限り真剣に後輩の目を見上げた。

  諭すようにゆっくりと口を開く。

「なあ、神代」

「……はい」

「お前さ……、まじで、なんか変な薬やってるだろ?  冗談抜きで」

「は?」

「これはまじで、どう考えても、そっち系の話だ……」

「……」

  神代は押し黙った。

  いくらこちらが毎度泥酔するからといって、気がつけば両想いで、恋人同士でラブラブです、という話があるだろうか。
  酔ってその場限りの関係ならまだしも、どうやら本人は、中学生のような真剣交際を主張している。

  神代側も酔っていたのだろうが、そんな事がまかり通れば、飲み会があるたびに結婚を前提としたお付き合いのカップルが増産されていくし、普通に告白してフラれた俺は何なんだという事になる。

  それとも、アイドルがテレビ画面を通して自分にだけ語りかけている!  とかいう、あのタイプなのだろうか。
  どちらにしても、確実に痛い奴である。





「お前の恋人である俺と、今お前の目の前にいる俺とは別人なんだよ、きっと。お前の恋人は、お前の中にしか存在しない。認めたくないのは分かるけどさ……。早く、目、覚ませって」

「幻覚とかじゃ…」

「いや俺だって可愛い後輩にこんな事言うのは、気が引ける……。でも、なんてか……、妄想とか、そういうレベルじゃないだろ、それ……」

「可愛いと思ってくれてるのは素直に嬉しいです。でもホントに……」

「いや可愛いは言い過ぎた、それはない。お前、今まで女子から貰ったもんとか食って、意識飛んだ事とかないの?」

「だから……」

「いやまじで。ちゃんと一回、思い出してみ?  」
  
  白けた声で言うと、神代は諦めたように不満気な溜め息をついた。

  そして「それはこっちのセリフなんだよ……」と、小さな独り言を吐き捨てた。

  整った口元が僅かに歪む。
  目の前で握られた神代の手に力がこもる。

「先輩こそ。どうして……思い出して、くれないんすか。あんなに……、あんなに俺の事、好きだって……」

  消え入るようなかすれた声。
  神代は、苦しそうに言葉を絞り出した。

「さ、さっき、どれだけ酔ってても、先輩の言葉には本心が隠れてるって……。そう、言いましたよね?」

  そのすがりつくような視線は、何かがはち切れそうなほど、切実であった。





  突然、スマホが鳴った。






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