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18.秘密の恋はカーニバルの夜に

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甘くシビれるほどの喜びの後に、もがくような胸の苦しみが襲ってきた。

エリクサーを飲んでも治す事の出来ない病があるなんて、こんな気持ち知らなければ良かった。

------------------------------

【おじさんside】

女だ、俺は女を抱けば大丈夫なんだ。まだちゃんと、女を抱ける!!

焦燥に駆られて、俺は部屋を飛び出した。

街は魔動灯の明かりに照らされて、サンバの曲が流れている。

仮面をつけた若いカップル達が手を取り合って踊り、女達のスカートがくるくると回ってふわりと広がる、男たちが手のひらを叩いて軽快なリズムを刻む。

どこだ、どこかにいるんだ!俺が抱ける女が、何処かにいるはず。なのにすれ違うどの女を見てもアレがピクリとも反応しない。ちゃんと淫紋付いてんのかよ!!

それに何より、ガキよりも美しいと思える女がいないなんて・・・。

カーニバルは終盤に近づき、野外広場に作られたバーから、ゆったりとしたテンポの曲が流れてくる。

俺はどさりとその店の椅子に腰掛けた。胸の軋みを誤魔化す為に、酒を飲む。

「テキーラをくれ。」
一気に煽ってタン、とショットグラスをカウンターに叩きつける。喉の奥がヒリついて、レモンのかけらを齧った。

テーブルの上の蝋燭が微かな風にゆれ、不意に隣の男が話しかけてきた。

「なあ、あんたも賭けに乗らないか?」

「何の掛けだ?」

店は賑わっていて、売り子の女達は艶めかしいウサギ獣人の衣装を身につけている。

「しつこいな!はなしてったら!」

向こうの方で店員と客が揉めている。
客が女の店員の腕を掴んで、引き寄せた。

「ねえ!そんな彼氏捨てて、俺に乗り換えない?君の為にスイートを取ってあるんだ、行こうよ。」

『バチン!!』

「興味ないって言ってるだろ。仕事の邪魔しないで!フン!」

すげぇ痛そうなビンタ、気の強そうな女だな。

「なぁ、あの女。良い女だと思わないか?気が強くて、たまんないだろ?あれで、15人目だぜ。今誰が落とせるか皆んなで掛けてんだ!お前もどうだ?」

俺は男が差し出して来たつまみの干し肉を口に咥えた。

「どうせ大した事ないんだろ。」
あいつよりな。

「待ってろよ!すっげー美女、今呼んでやるよ!間違いなく今夜のオカズになるぜ。おーい。オリビア!こっちだ!」

彼女がゆっくりと振り向いた、長い黒髪が風に靡いて毛先が舞い上がる。一瞬。

俺はあんぐりと口を開いて、咥えていた干し肉をぽとりと床に落とす。

女の美しさに目を奪われて、俺の周りだけ時が止まったかのように音が消えた。

長いまつ毛を下げ気味に、彼女がカツカツとヒールを鳴らしてこちらへ向かってくる。

キュッとしまった足首、白い太もも、歩くたびに揺れるヒップ。ふわふわと尻に付いた丸いシッポを見ているだけで、すぐにでも勃起しそうだ。

床に頭を擦り付けて土下座したら、今晩抱かせてくれるだろうか。

目の下のほくろが婀娜っぽくて、彼女から目が離せない。まるで、彼女の周りにだけ月の光が集まっているようだ。

彼女は、顔を向けず目線だけでチラと俺を流し見た。

その途端。『ドッドッドッ』と、
血液が沸騰する音が聞こえる。
俺は酔ったのか。
なんだか、胸が苦しい。

打ち上げられた魚みたいに、上手く呼吸ができない。これは、なんなんだ?

彼女は俺をじっと見つめながら口を開いた。

「それで、なんの用なの?」

隣の男が陽気な声て、返事をする。

「エール2つだ!後、俺と結婚しようぜ!!」

「ふふっ。プロポーズは、今夜初めてかな。でもごめんね。好いた人がいるんだ。」

彼女に恋人がいる事にショックを受けて、俺はテーブルに置かれたエールをぐいっと一気に飲み干した。

「あんたの男、酷い奴らしいじゃないか。酷い噛み跡付けたり、祭りも一緒に行かないし、あんたが養ってんだろ?そんな男やめとけよ!な?おい、お前も黙ってないで何とか言えよ!」

「酷い男だな。俺なら、君を大切にする。俺と付き合えよ。」

俺はじっとりと手に汗をかきながら、震えないようにゆっくり答えた。

「ぷっ。ふふっ、あはははっ。やだなーくすくす誰に聞いたのさ!そんな話。」

美人なのに悪戯な子供みたいに笑った顔が、どこかあどけなく見えてそのギャップに胸が高鳴る。

「あんた、治療院で働いてるって噂のカーテンの女神なんだろ?ジャックが、心配してたぜ。」

「何その変なあだ名。もう!あのオカマとぺぺ最悪、騙された。」

「顔も知らないのに、あんたに会いたい、奴が殺到したんだよ。貴族の坊ちゃんもいたらしいぜ。ジャックに頼み込んだって話だ。まあ、今さっき全員振られたがな。」

「ふーん。」

彼女は、全く興味なさそうに黒髪の毛先を弄りながら返事をした。

しっとりしたリズムが流れ、ステージには、数組の男女が密着してダンスを踊っている。

不意に彼女が俺の手を握った。俺の胸は飛び上がりそうな程跳ねる。

彼女は俺の瞳を覗き込みながら、誘惑する様に親指の腹で手の甲を優しく撫でて甘い声を出す。

「ねぇ。少し踊ろうよ。」

「あっ、ああ。」

俺は彼女に手を引かれてステージへと昇る。俺に気があるのかもしれない。

「あんちゃん、やったな!あんたの一人勝ちだぜ。羨ましい!」

俺はふわふわとした夢見心地で、彼女の細い腰を抱き寄せた。凄く綺麗だ。

「ねえ。と踊って、あなたの恋人は怒らないかな?」

密着した彼女のシトラスの香りが鼻腔を擽り、アレが勝手に反応しだす。

「恋人なんていない。一目惚れなんだ。君を大切にする。」

彼女は、硬くなった俺を気にする事なく、俺の肩をひと撫でして、くるりと回る。

「私ね、治療師だからわかるの。貴方を治療している人は貴方を愛しているみたい。」

彼女の胸をぎゅっと押しつけられ、何も考えられなくなって、しどろもどろに答える。

「うっ。あ、あいつは、男なんだ。友達みたいなもんだろ。」

「っ。そうなんだ・・・。」

不意に彼女の瞳から、宝石の様な涙が一粒、ぽろりと揺らめいて落ちる。

「君もそんな男、捨てて俺と・・。」

「ねぇ。わたしが頼んだら、貴方はその子を捨てられる??」

「あ、ああ!!」

「一緒に何処か遠くに逃げようって言ったら、出て行ける??」

「行こう!今すぐにでも。2人で、何処か遠くへ行こう!!」

それなのに、美しい彼女を見つめると、甘い雰囲気なんか全く無くて、近づいた瞳は涙に濡れて、俺を睨みつけていた。

彼女は何故か、強引に俺を引き寄せ、真っ赤な唇を押し付けて来た。俺は混乱しながら、ぎゅっと彼女を抱きしめた。

近づいた彼女の耳には、酷く痛そうな噛み跡と、紫の耳飾りが付いていた。これには見覚えがある・・。

彼女が俺の耳元でささやく。
酷い男に騙されてしまっていたみたい。別れちゃおうかな。」

どん!と胸を押されて、彼女は走り去ってしまった。訳がわからないのに、家を出た時より酷く胸が軋む。

俺は息苦しさを覚えて、胸の辺りをグッと掻きむしった。

俺は天国から地獄の底へ
一気に叩き落とされたのだった。

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