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第二章 目覚め
六.西洋館の秘密
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横浦に着いた時には、日が傾きかけていた。
だが一行が宿に向かう様子はない。
そのまま、ある西洋館へと向かった。
立派な建物だ。
中へは、清名、藤堂など、雪原に最も近い、ごくわずかな者だけが供をした。
もちろん柚月もだ。
それも、外で待っていようとした柚月を、雪原がわざわざ呼んだ。
ますます柚月に箔が付いたのは、言うまでもない。
館の中は、柚月からしてみれば見たこともない、きらびやかな世界だった。
隅々まで細かい装飾が施され、天井はどこまでも高く、壁には多くの異国の絵画が飾られて、豪華なシャンデリアが吊り下げられている。
物珍しそうにきょろきょろする柚月を、清名がたしなめた。
雪原に言われているのか、清名は館に入ってからずっと、柚月の隣についている。
大きな扉の前まで来ると、異国の男が両手を広げて雪原を出迎えた。
恰幅のいい、金色の髪をした中年の男だ。
この館の主だろうか。
柚月がそう思っている目の前で、その男は雪原と抱き合った。
突然のことに、柚月はぎょっとすると同時に、やはり雪原は、と一瞬男色を疑ったが、清名がすっと顔を近づけ、「あれは挨拶だ」と耳打ちして教えた。
「そ…っすよね」
柚月はちらりと清名を見上げたが、ここでもやはり、清名は前を見たまま、柚月をちらりとも見返してこなかった。
扉の向こうは、これまた豪華なつくりの客間だった。
そこで雪原は、さっきの異国の男とその男の国の言葉で話し合い、時々笑いあった。
柚月には二人の会話は全く分からない。
が、二人は通じ合っている。
それに素直に感動した。
世界は広く、自分が知らないことが、まだまだたくさんある。
その実感と沸き起こる好奇心から、柚月の中にわずかに光が差した。
しばらくの歓談の後、雪原は供の者を客間に残し、清名と柚月だけを連れて、男について部屋を出た。
前を行く雪原と男は、相変わらず楽しそうに話している。
が、裏腹に、清名の顔が緊張に染まっている。
柚月も、はしゃぐ気持ちが収まった。
廊下は進むほどに、窓が少なくなっていく。
まるで何かを隠しているかのようだ。
やがて、行き止まりになった。
突き当りの壁に一枚、絵が飾られているだけ。
何もない。
窓さえない。
ただの薄暗い廊下だ。
こんなところで、何があるというのか。
不審に思う柚月の前で、男は壁の絵をわずかにずらした。
すると、どうだ。
絵の後ろから、人ひとり入れる程度の穴が現れたではないか。
驚く柚月を置き去りに、男は穴にランタンを置くと、自身の体をひょいと持ち上げ、中に入った。
雪原も続き、清名も入っていく。
柚月も穴の前まで来た。
柚月の胸より、やや低い程度の高さだ。柚月は唾をごくりと飲み込むと、中に入った。
中には階段があり、男のランタンの灯りが上の方に見える。
柚月はその明かりを目指し、真っ暗な階段を上った。
一歩踏み出すたび、階段がギシギシなる。
自然と忍び足になりながら登りきると、上は部屋になっていた。
おそらく、屋根裏部屋。
倉庫のようになっている。
窓一つなく、暗く、誇りっぽい。
男が持つランタンの微かな灯りだけが頼りだ。
柚月は目を凝らした。
何か、ある。
それも、たくさん。
生き物ではない。
だが、蠢くようにソレらはいる。
男の持つランタンが、部屋の中の物を照らし出す。
どれも隠すように布がかぶせられて、その下に何があるのか分からない。
徐に、男が近くにあったテーブルの布をはいだ。
舞い散る埃。
その中に、隠されていた物が姿を現す。
柚月は埃にせき込んだが、ソレを見た瞬間、咳をすることも忘れ、目を見開いた。
テーブルの上に現れたのは、大小さまざまな銃。
続いて、男が別の布を剥がすと、その下からは小型の大砲のような物が現れた。
どうやって使うのかは分からない。
だが、放たれる威圧感。
計り知れない破壊力を持っている。
そのことだけが、柚月の脳に、直接、強い衝撃となって伝わってきた。
もしも異国と戦争になることがあれば、この国は確実に負ける。
冷たい汗が、柚月の首筋を伝った。
――このままじゃだめだ。この国は、変わらないと。
未来はない。
柚月は強い思いが湧き、硬く拳を握りしめた。
雪原と男は、テーブルの銃を手に取りながら真剣な面持ちで話し込んでいる。
「ここで見たことは、他言無用だ」
清名が耳打ちしたが、柚月は言われるまでもなく、口にする気になどなれなかった。
銃を見た瞬間に直感した。
雪原は、なぜ、自分をここにつれて来たのか、疑問でならない。
かつて、同じようなものを、同じような感覚で見たことがある。
まだ萩にいた頃。
楠木の屋敷でだ。
どこからやってくるのか。
なぜあんなものがあったのか。
詳しいことは聞かされなかったが、楠木の家にはそういう物がたくさんあった。
そして何も言われなくても、他言してはならない、ということは幼い柚月にも分かった。
あれは、決して外に漏らしてはならいない秘密。
そして今、目の前にあるこれは、政府の機密事項だ。
だが一行が宿に向かう様子はない。
そのまま、ある西洋館へと向かった。
立派な建物だ。
中へは、清名、藤堂など、雪原に最も近い、ごくわずかな者だけが供をした。
もちろん柚月もだ。
それも、外で待っていようとした柚月を、雪原がわざわざ呼んだ。
ますます柚月に箔が付いたのは、言うまでもない。
館の中は、柚月からしてみれば見たこともない、きらびやかな世界だった。
隅々まで細かい装飾が施され、天井はどこまでも高く、壁には多くの異国の絵画が飾られて、豪華なシャンデリアが吊り下げられている。
物珍しそうにきょろきょろする柚月を、清名がたしなめた。
雪原に言われているのか、清名は館に入ってからずっと、柚月の隣についている。
大きな扉の前まで来ると、異国の男が両手を広げて雪原を出迎えた。
恰幅のいい、金色の髪をした中年の男だ。
この館の主だろうか。
柚月がそう思っている目の前で、その男は雪原と抱き合った。
突然のことに、柚月はぎょっとすると同時に、やはり雪原は、と一瞬男色を疑ったが、清名がすっと顔を近づけ、「あれは挨拶だ」と耳打ちして教えた。
「そ…っすよね」
柚月はちらりと清名を見上げたが、ここでもやはり、清名は前を見たまま、柚月をちらりとも見返してこなかった。
扉の向こうは、これまた豪華なつくりの客間だった。
そこで雪原は、さっきの異国の男とその男の国の言葉で話し合い、時々笑いあった。
柚月には二人の会話は全く分からない。
が、二人は通じ合っている。
それに素直に感動した。
世界は広く、自分が知らないことが、まだまだたくさんある。
その実感と沸き起こる好奇心から、柚月の中にわずかに光が差した。
しばらくの歓談の後、雪原は供の者を客間に残し、清名と柚月だけを連れて、男について部屋を出た。
前を行く雪原と男は、相変わらず楽しそうに話している。
が、裏腹に、清名の顔が緊張に染まっている。
柚月も、はしゃぐ気持ちが収まった。
廊下は進むほどに、窓が少なくなっていく。
まるで何かを隠しているかのようだ。
やがて、行き止まりになった。
突き当りの壁に一枚、絵が飾られているだけ。
何もない。
窓さえない。
ただの薄暗い廊下だ。
こんなところで、何があるというのか。
不審に思う柚月の前で、男は壁の絵をわずかにずらした。
すると、どうだ。
絵の後ろから、人ひとり入れる程度の穴が現れたではないか。
驚く柚月を置き去りに、男は穴にランタンを置くと、自身の体をひょいと持ち上げ、中に入った。
雪原も続き、清名も入っていく。
柚月も穴の前まで来た。
柚月の胸より、やや低い程度の高さだ。柚月は唾をごくりと飲み込むと、中に入った。
中には階段があり、男のランタンの灯りが上の方に見える。
柚月はその明かりを目指し、真っ暗な階段を上った。
一歩踏み出すたび、階段がギシギシなる。
自然と忍び足になりながら登りきると、上は部屋になっていた。
おそらく、屋根裏部屋。
倉庫のようになっている。
窓一つなく、暗く、誇りっぽい。
男が持つランタンの微かな灯りだけが頼りだ。
柚月は目を凝らした。
何か、ある。
それも、たくさん。
生き物ではない。
だが、蠢くようにソレらはいる。
男の持つランタンが、部屋の中の物を照らし出す。
どれも隠すように布がかぶせられて、その下に何があるのか分からない。
徐に、男が近くにあったテーブルの布をはいだ。
舞い散る埃。
その中に、隠されていた物が姿を現す。
柚月は埃にせき込んだが、ソレを見た瞬間、咳をすることも忘れ、目を見開いた。
テーブルの上に現れたのは、大小さまざまな銃。
続いて、男が別の布を剥がすと、その下からは小型の大砲のような物が現れた。
どうやって使うのかは分からない。
だが、放たれる威圧感。
計り知れない破壊力を持っている。
そのことだけが、柚月の脳に、直接、強い衝撃となって伝わってきた。
もしも異国と戦争になることがあれば、この国は確実に負ける。
冷たい汗が、柚月の首筋を伝った。
――このままじゃだめだ。この国は、変わらないと。
未来はない。
柚月は強い思いが湧き、硬く拳を握りしめた。
雪原と男は、テーブルの銃を手に取りながら真剣な面持ちで話し込んでいる。
「ここで見たことは、他言無用だ」
清名が耳打ちしたが、柚月は言われるまでもなく、口にする気になどなれなかった。
銃を見た瞬間に直感した。
雪原は、なぜ、自分をここにつれて来たのか、疑問でならない。
かつて、同じようなものを、同じような感覚で見たことがある。
まだ萩にいた頃。
楠木の屋敷でだ。
どこからやってくるのか。
なぜあんなものがあったのか。
詳しいことは聞かされなかったが、楠木の家にはそういう物がたくさんあった。
そして何も言われなくても、他言してはならない、ということは幼い柚月にも分かった。
あれは、決して外に漏らしてはならいない秘密。
そして今、目の前にあるこれは、政府の機密事項だ。
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