上 下
9 / 38

9 レベルアップ⑤

しおりを挟む
 シュルシュル、ヌルヌル。
 ボスネロピーの触手に、まるでタコのように絡みつかれて、モツナベとミルクは今にも捕食されそうだ。

「なんで仮面男がここに……」

 モツナベが俺に向かって言う。
 美しい巨乳剣士の触手プレイだが、声が男だからまったく興奮しないんだよな。
 ミルクも同様だ。可愛い少女エルフだが、ショタボで騒いでいる。

「きゃぁぁああ! ツッチーさんよく会うっすねー!」

 たしかに、と思う。
 プロテルを遊んでいるプレイヤーは世界で5000万人いるらしいが、冒険者が少なすぎるからだ。
 モツナベは触手におっぱいを揉まれながら、「うーん」と何やら考えている。

「パラレルワールドだな……」
「なんすかそれ?」
「プロテルにはいくつも仮想世界があって、そのなかでも俺たちは日本人が集まる仮想世界にいるってことだ」
「へー、どうりで外国の人がいないと思ったっす」
「さらにゲームのなかで話が通じやすいように、住んでいる地域が近い人が集まるらしいぜ」
「ツッチーさん、リアルでご近所さんかもっすね……エグっ!」
「まぁ、そんなことがわかったところで雑魚に用はないけどなっ」

 モツナベは両手を触手に捕まれ、言葉とは裏腹にバンザイしている。
 仕方ない、助けてやるか。
 右手をかざし土魔法「サブルム」を唱えた。茶色の魔法陣が現れ、ボスネロピーの足元に土魔法を放つ。
 
 ズゴーン!

 ボスネロピーを穴にハメた。
 荒ぶる巨木は、ぐにゃりとバランスを崩し、触手の力が緩む。
 その瞬間、モツナベは双剣を振って触手を切断し脱出に成功。そして、ミルクを同じように助けた。
 
「ミルク、大丈夫か?」
「うん」

 抱き合う女剣士と少女エルフ。
 なかなかエッチな景色だな。と思っていたら、穴ハメしたはずのボスネロピーが動き出した。
 なぜだ?
 よく地面を見ると、にょろにょろと砂の穴から根っこが出ている。
 ボスネロピーは植物の魔物。新しい根っこを生やし、砂の穴から逃げられるわけね。思い返せば、ネロピーは小さいから逃げるのに時間がかかっていただけか。

「さて、どうしよう……何か他にハメる方法はないかな」

 周囲を見渡す。
 目についたのは、朽ち果てた城壁。これを岩にすれば、あの土魔法が使えそうだな。
 腕を組んで考えていると、ミルクとモツナベが声をかけてくる。

「助けてくれてありがとうっす」
「ツッチーさん、すいませんでした……俺は勘違いをしていました……」

 ぺこり、と謝るモツナベ。
 どうした急に?

「あなただったんですね、ボスゴブリンのときもこうやって地面に穴を開けてくれていたのは!」
「ええ、まぁ……」
「本当に申し訳ありませんでした」

 さらに謝罪するモツナベ。
 ぷるんぷるん、と巨乳が目の前にあるが……やはり声が男だからどうも興奮しない。それよりも気になるのは、バランスを回復させたボスネロピーのほうだ。

「その話は後で……今はこのでっかい木を倒しましょう!」

 ボスネロピーを指さす。
 ミルクは、キラキラに眼を輝かせていた。

「ツッチー、また穴にあいつを埋めてよ」
「いや、もっといい方法を思いついた」
「え?」
「ただ詠唱に時間がかかると思うから、モツナベさんとミルクさんで攻撃してヤツを足止めしてくれませんか?」
「了解っす!」
「わかったぜ!」

 モツナベは速攻で走り出し、ボスネロピーの顔らしい木の部分を斬撃。
 ミルクは離れたところから弓で射撃。巨木に、ガツガツと矢が刺さる。
 アイテムボックスから例のものを取り出した。

「ミルクさん、これを矢に振りかけてください」
「なんすかこれ?」
「しびれ薬です」
「ああ、エンチャントっすね!」

 ミルクにしびれ薬をわたす。
 しびれ矢が完成した。弓に装填し、勢いよく放つ。
 ボスネロピーの根本に矢が刺さると、じわじわと顔色が悪くなり、動きが鈍くなってきた。

「ナイスプレー! ミルク! ツッチーさん!」

 ウィンクするモツナベは、鮮やかに双剣を振って攻撃を繰り出す。
 巨木の顔面にクリティカルヒットが炸裂し、

 1200

 1500

 1800

 と連続ダメージが入る。魔物は悲鳴をあげた。

 ギィィィイイ!

 死に際なのだろう。
 しびれの効果が急に薄くなり、必死になって触手を伸ばし攻撃してくる。危険を察知したミルクが叫んだ。遠くにいる俺とミルクは安全圏なのだ。
 
「モツー! そんなに近づいたら危ないっすよ!」
「うわー!」

 またモツナベが触手に捕まってしまった。 
 ミルクは、やれやれと肩を落とす。

「あちゃあ……モツって捕まりたいのかもしれないっすね」
「え?」
「女剣士の触手プレイっす! VRで体験できるなんて、ちょっとすごくないっすか?」
「まぁ、たしかに……ってキミたち何考えてるの?」

 にししし、と笑うミルク。
 と、そのとき俺の詠唱が完了した。両手をあげて土魔法を放つ。

「岩を積んで壁を作る魔法 ムルス!」

 ガガガガガ、と朽ち果てた城壁のひとつひとつが浮かび集まっていく。あっという間にボスネロピーを囲った。触手に捕らえられたままのモツナベは、壁のなかで叫んでいる。
  
「すげー!」

 しかし魔物をハメたのはいいが、攻撃するプレイヤーがミルクしかいない。
 チラッと少女エルフを見つめた。弓矢を装填している。これはボーガンタイプのようだ。

「じゃあ僕がコツコツやるしかないっすね~」

 ミルクは岩の壁を登っていく。
 俺に何かできないかな……。

「ミルクさーん! 何か手伝えることありますかー?」
「うーん、矢がなくなるかも……ツッチー、その辺の枝を拾ってきてくれないっすか? 矢にするっす」

 わかったー! と了承し、枝を集めてはミルクの近くまで運ぶ。
 ミルクは、しゅぱしゅぱと弓を放つ。

 580

 600

 550

 570

 ダメージが入り続けた。
 モツナベが偉そうに何か言っている。
 
「いけーミルク! そこだ! 顔面を狙うんだ!」
「わかってるっすよ……まったく、指示厨っはうざいっすね……」
「いけー! もうちょい右! いや、左!」

 そんなやりとりをしているなかで、ミルクは微笑を浮かべた。

「にししし……」
「どうしました?」
「この魔物の倒し方って地味っすけど、手段を選ばないっていうか、なんか泥臭いな~と思って」
「ごめんなさい……俺は土魔導師なので」
 
 頭をかきながら謝罪しとく。
 ミルクは力を込めて矢を放ち、

「いえ、僕は嫌いじゃないっすよ!」

 と言った。
 矢がボスネロピーの顔面に刺さりクリティカルヒット!
 
 1200

 のダメージが入り、やっと魔物を倒した。
 荒ぶる巨木は、ヒラヒラと燃え尽きる紅葉のように舞い散っていく。俺はレベルが7になり、ポイントは8200貯まっていた。それと、

【 ボスネロピーの蔓 】

 を手に入れた。
 何に使うんだ、これ? メルクはやけに嬉しそうだけど。

「やったー! 弓の素材ゲットっす!」
「よかったな、ミルク……俺のもやるよ」

 モツナベが、のしっと岩の壁からあがってきた。うわぁ、顔が土で汚れている。なんだか情けない。
 
「にししし」
「あははは」

 俺とミルクは笑ってしまった。

「んだよ~笑うなぁぁああ!!」

 モツナベは、グイッとミルクにプロレス技をかける。
 
「痛い、痛い、ごめんっす! にししし」

 笑いながら謝罪するミルクだが、本当に痛いはずないのに演技するなんて優しい人だ。
 ふとモツナベは俺のほうを向く。

「改めてありがとう、ツッチーさん」
「いえいえ、俺もレベルあがったんで、こちらこそありがとうございます」

 俺たちはみんなで握手をする。
 モツナベとミルクとフレンドになった。

「また遊ぼー!」
 
 ミルクは、ぴょんと可愛らしくジャンプして叫ぶ。
 去ろうとしたとき、モツナベが森の奥を指さした。

「良いことを教えてやるぜ」
「なんですか?」
「このまま進んでテンプルム城に行ってみな、裏から入れるぜ」
「本当ですか!? 今、メインクエストやってて城に入りたかったんですよ!」
「ふーん、じゃあメインクエストのチャプターが3になったら教えてくれ!」
「なぜですか?」

 ふふっとモツナベは笑いながら答えた。

「いっしょに冒険しようぜ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?

木山楽斗
恋愛
英雄の血を引くリメリアは、若くして家を継いだ伯爵の元に嫁いだ。 若さもあってか血気盛んな伯爵は、失言や失敗も多かったが、それでもリメリアは彼を支えるために働きかけていた。 英雄の血を引く彼女の存在には、単なる伯爵夫人以上の力があり、リメリアからの謝罪によって、ことが解決することが多かったのだ。 しかし伯爵は、ある日リメリアに離婚を言い渡した。 彼にとって、自分以上に評価されているリメリアは邪魔者だったのだ。 だが、リメリアという強力な存在を失った伯爵は、落ちぶれていくことになった。彼女の影響力を、彼はまったく理解していなかったのだ。

【完結】悪気がないかどうか、それを決めるのは私です

楽歩
恋愛
「新人ですもの、ポーションづくりは数をこなさなきゃ」「これくらいできなきゃ薬師とは言えないぞ」あれ?自分以外のポーションのノルマ、夜の当直、書類整理、薬草管理、納品書の作成、次々と仕事を回してくる先輩方…。た、大変だわ。全然終わらない。 さらに、共同研究?とにかくやらなくちゃ!あともう少しで採用されて1年になるもの。なのに…室長、首ってどういうことですか!? 人見知りが激しく外に出ることもあまりなかったが、大好きな薬学のために自分を奮い起こして、薬師となった。高価な薬剤、効用の研究、ポーションづくり毎日が楽しかった…はずなのに… ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))中編くらいです。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

不眠症の王子様

ハチ助
恋愛
【※ヒーローが思春期拗らせ気味の俺様タイプなので、苦手な方はご注意ください!】 【あらすじ】14歳になった伯爵令嬢のフィアレアは、5年ぶりに婚約者でもあるリグルバード王家の第二王子ロインに面会する為、登城した。しかし、久しぶりに会った婚約者のロインは5年前にも少しだけ悩まされていた不眠症を再発してしまい、フラフラの状態で現れる。これは不眠の改善策を見出した俺様第二王子が婚約者の気が弱い伯爵令嬢によって安眠を手に入れるまでのお話。

チューニングミス 〜彼氏に浮気されてからロボメイドとともに立ち直るまで〜

橘スミレ
青春
浮気してきたクズ男にあれやこれやと復讐をし、立ち直るお話です

骸骨公女と呪いの王子

藍田ひびき
恋愛
”骸骨公女”―― 呪いにより骨だけの姿となった公爵令嬢フロレンツィア。 それを知る者たちからは化け物と嘲笑われ、名ばかりの婚約者には冷たくあしらわれる日々だった。 嫌々ながらも出席した夜会の場を抜け出した彼女は、そこで見知らぬ青年と出会う。 フロレンツィアの姿を恐れることなく接してくる彼と踊るうちに、彼女の姿に変化が――?

処理中です...