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しおりを挟む高校生活も最終学年に突入し、卒業まで残り4ヶ月を切った。
桜坂光は……、自分でもどうしようもないほど暗い世界にいた。
雪が舞う。
福岡県に雪が積もることはあまりないが、三年連続で雪が振っていた。
しかもその年は大雪だった。
風が凍てつく冬の日、光は鉛のような足取りで公園の噴水前に近づいていった。時が経ち、三年の孤独と想い出の断片が光の背中に積み重なり、その重みが彼女の足を引きずるように重く感じさせていた。
自分の足が雪を踏む。鈍い音が響く中、光は迷宮に迷い込んだ旅人のようだった。
「麗……」
光は、麗のことを忘れることができなかった。
三年生となった今でも。
好きだ。
好きで仕方ない。
この想いを溶かすことなど、できなかった。
麗との別れの瞬間が今も脳裏で蘇る。忘れようと何度も試みた。しかし、鎖に繋がれた鳥が空を飛べないように、何度やっても忘れることはできなかった。光という鳥は、空を飛ぶことはできなかった。
麗の存在は彼の心を闇へと広げていく。光は自分自身に「なぜ忘れることができないのか」と問うた。しかしそんな問いに意味などない。
愛しているからに他ならないからだ。答えなど何度聞かれても同じことだ。心の中で渦巻く切なさは、どこまでも凍りついていく。
「ぅ、ぅぅ……」
思い出の断片が彼女を襲う。涙が頬を伝う。止まることのない感情の泉。光は麗と過ごした幸福な光景を幻想の中で繰り返し再現していた。
あの日が何よりも楽しくて、幸せだった。
心の迷路から抜け出せずにいた。孤独と喪失の痛みに打ちひしがれながら、彼への想いを断ち切ろうとするが、その闇は深くどこまでも続き、底がなかった。
「時間が解決してくれる? そんなことはなかったよ、麗。解決してくれる所か、想いが増すだけだよ」
どうしてこんなに辛いのか。
どうしてこんなに苦しいのか。
どうして……身が裂けそうなほど、心が痛いのか。
会えないことなど、わかりきっていたのに。
でも麗なら、きっと会いに来てくれると心の奥底で微かに思っていた。
大丈夫、麗ならここへ、また戻ってきてくれる。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫……。
「その結果が……これ。ふふっ、私……何してるんだろ」
公園噴水前で、呟く光。
麗はいなかった。
光の心は、その時、限界を迎えたのだった。
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