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 玲央は僕に視線を合わせたまま、優しく語り始める。

「一緒に学校生活を楽しめるパートナーが欲しかったんだ。でも、最初から俺と晴彦が仲良くしていると、周りから変な目で見られるかもしれない。最悪の場合、君がいじめられる可能性もある。そうだろ?」

 玲央は、まるでこの話をずっと考えていたかのように自然に言った。僕は何も言えずに玲央の言葉を聞いていた。確かに、玲央のような存在と普通に友達になるなんて、周りから注目されるし、そんな状況が僕に負担をかける可能性は高い。

「なら、簡単なことさ。俺の恋人にすればいい。そうすれば、誰も君に危害を加えられない。むしろ俺の恋人だと思わせた方が、いつも一緒にいられるから俺も楽なんだよ」

 確信に満ちた笑みを浮かべて玲央は言った。
 その表情は、まるでこの状況さえも楽しんでいるかのようだった。

 対して、僕はその言葉を聞いて絶句した。恋人……? 僕が、玲央の……? 頭が真っ白になり、どう返事をすればいいのかすらわからなかった。

「さぁ、これから楽しくなるぞ!」

 そんな僕とは対象的に、玲央は声高らかに宣言した。

「修学旅行、文化祭、体育祭、テスト、受験、ボランティアに学校行事……! この一年でやらないといけないことは目白押しだ!!」

 玲央は本当に心から嬉しそうで、まるでこれから始まる新しい冒険を楽しみにしている子供のような顔をしていた。彼のその様子に僕はただ圧倒されて、言葉も出ず、呆然と聞いているしかなかった。

 玲央の瞳はキラキラと輝いていて、彼の口から次々と楽しそうな未来の話が出てくるたび、僕の頭はどんどん混乱していった。

 どうして、僕なんだ。
 その思いは我慢できず、口から出てしまった。

「どうして……どうして恋人役が僕なの? 他にも適任はきっといるよ」
「いいや、晴彦しかいないよ。君だから選んだ。君しかいなかったんだ」
「どうして?」

 玲央は一歩近づいてき、僕の手をそっと取ると、彼の温かい指が僕の肌に触れた。そして、玲央はその手を自分の方に引き寄せ、優雅な動きで僕の手の甲に軽くキスをした。

 時間が止まったように感じた。

 玲央の唇が手の甲に触れる感覚が、まるで電流のように僕の体中を駆け抜けた。呆然とする僕を見て、玲央は微笑んだまま、目を細める。

「君しかいないんだ、晴彦」

 彼から溢れ出る想いの強さが、僕にはまだわからなかった。
 それでも玲央は言葉を続ける。
 
 どうして恋人役を僕にしたのか、その本当の理由を、ようやく玲央は教えてくれた。
 この時まだ僕はわかっていなかった。「恋人役」と僕は思っていたのだけれど、玲央は「役」だけで終わらせるつもりは、毛頭なかったということを。

 手の甲にしてくれたキスで、玲央の気持ちはわかっていたはずなのに……。

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