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「助けを求めている……」

 そんなこと言わなくてもわかることだろうに、僕は自然と口にしてしまった。
 彼女の視線に見つめられたことで、僕は自分がただの傍観者に過ぎないことを思い知らされた。

 その美少女は、さらに強い力で手首を引き抜こうとしていたが、男子たちは一向に手を離す気配はない。僕はその光景を見つめながら、足が動かない自分を呪いたくなった。

 その時、僕はふと思い出した。朝方、登校しているとき道を聞いてきたあの年配の女性のことを。僕は何もできなかった。

 オドオドして答えもおぼつかなくて、結局その人を助けることができなかった。なんて臆病なんだろう、僕は。いつもこんな風に、誰かに声をかけられても、気づかれないように、何もできずに過ごしてきた。

 過去の記憶もフラッシュバックする。中学時代のあの痛々しい出来事。クラスメイトの目、言葉。誰かに拒絶されたときのあの感覚。あの時も、僕は何もできなかった。全てを恐れて、誰にも頼らず、ただ一人で傷ついてきた。

 でも、今目の前で、助けを求めているのは他でもない、目の前に立つ少女だ。
 彼女は必死に、しかし力尽きそうな顔をしている。

 彼女を見ていると、あの時の自分が重なって見える。あの時、僕もこんな風に、助けて欲しかったのかもしれない。それに、今ここで何もしなかったら、きっと僕はずっと後悔し続けるだろう。

 それでいいのか?

 僕は一歩、足を踏み出した。その瞬間、僕の心臓はドクンと鳴ったけれど、もう後戻りはできない。手が震えているのを感じる。足もだ。

「もうすぐ警察が来ます!」

 思い切り、大声を出した。上ずった声だと思う。
 人生でこんなに出したことはないほどの声量だったはず。

 もちろん声は震えていたけれど、やっと口に出すことができた。

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