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 誰もが二度見するような美しい少女がいた。

 彼女は、周囲の景色に溶け込むことなく、まるで異次元から現れたかのようにその場に立っている。長い髪が風になびき、繊細な顔立ちが、目の前の通りを照らす陽光を反射して輝いている。

 その瞬間、僕は息を呑んだ。彼女がただ立っているだけで、周りの世界が一瞬、静止したかのような錯覚に陥った。どこか幻想的で、どこか非現実的な存在感。

 でも何故か、女性というより……「男性」のような……?
 いや、そんなことないか。

 その美少女は、僕の目の前にいた数人の男子に向かって、きっぱりと声を上げていた。彼女の手首は、誰かの手に掴まれているらしく、彼女はその手を振り払おうとしているようだ。

 しかし複数人の男たちでは相手が悪そうだった。一人の男の手が、ガッチリと彼女の手を掴んでいる。

「いいじゃん、ちょっとだけ話そうよ」
「別に何もしないよ」
「何度も言わせないでください。手を離してください」

 その声は冷静さを保ちながらも、必死さが滲み出ていた。男子たちはその言葉を笑い飛ばしながらも、いっこうに手を放さない。
 
 僕はただその場に立ちすくんで、どうすれば良いのか分からずに見守るしかなかった。誰も助けようとしないのか、通り過ぎる人は皆、目を合わせようとしない。僕もその気持は痛いほどわかる。怖いからだ。

 その時――

 その美少女は、僕の方に一瞬目を向けた。
 困惑と焦りが入り混じった瞳が僕に交わる。その瞬間、僕の心臓が一瞬で跳ね上がった。

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