New Page on-line

腹減り雀

文字の大きさ
上 下
45 / 61
本編

43

しおりを挟む
 一つ一つ確認していきましょうか。

 まずは螺旋階段。伝えていなかった手摺も付いていて落ちる心配もないし、一段一段の幅もそれなりに遭って踏み外すとかの心配もありません。
 屋根裏に上がれば驚き。日が入らなくて暗かったのが、大きく作られた窓によって光が入るようになり明るいです。

 問題は、ベッドと箪笥、私の背丈より高い大きな衝立が六枚。何故、あるのでしょうか。下に降りてスコーンに齧りついているグレンさんに聞いてみましょう。

「良い状態で仕上げてくださってありがとうございます。ただ、ベッドや箪笥に衝立は一体?」
「それなら、そこに置いてあったものを上で組み立てただけだ。衝立は必要だろうから、ついでに作った」
「衝立は必要だとは思っていましたし、ありがたいと思いますけど」
「本当についでだから気にするな。じゃ、ごちそうさん。これ置いていくぞ」

 工事の請求書を受け取って帰っていく大工の皆さんを見送ります。格好良い背中ですね。

「次は、引っ越しと晩御飯の準備ですね」

 引っ越しと言っても箪笥に入れている衣服は少ないので、すぐに終わりました。ルルのベッドはとりあえずそのままにしておいて、後で本人に聞きます。

「マコちゃんはこの部屋を使って。箪笥とかも自由にしていいから」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「たっだいま~。桜華、ちょっと来て~」

 外からルルの元気な声が聞こえてきたのでテラスに移動すると、ミッケさんとルル、通りの向こう側に夕日で赤く染まるトト。トトの足元にココットが固まっていますが、固まり過ぎて何羽いるのか数えられません。

「おかえり。トト、その子達は?」
「グ~ル、グルルル」

 近くに住んでいたからついでに庇護していた同族で、二十羽はいるそうです。

「さすがに建物に入りきらないですね」
「グルルル」
「それもそうですね。一月もあれば新しく鶏舎を建てる予定もあるので、それまではそうしましょう」
「グル」

 トトも納得してくれたようで、大きく頷いてくれました。

「あの~、桜華さん?」

 ミッケさんが右手を上げたので、そちらへ視線を向けると、見慣れつつある呆れ顔を浮かべていました。

「トトの話すことが分かるの?」
「なんとなくですよ」
「流石桜華さん」

 ミッケさんとルルが同時に頷いています。何を納得しているのでしょう。

「さてと。二人とも、この子は向こうでの私の顔見知りの妹でマコちゃん。今日から一緒に住むことになりました」
「友達じゃなくて顔見知り?」
「はい。あれを友達と呼びたくないです」

 マコちゃんの前でいう事ではないけれど、他に思いつかないのでしょうがないですよね。

「マコちゃん。一緒に住んでいる妖精のルルと、私たちと同じ渡来人で狩猟者のミッケさん」
「よろしくね」
「よろしくね、マコちゃん」
「よろしくお願いします」

 マコちゃんが笑顔であいさつを交わすと、ルルが元気良く手を上げます。

「桜華、今日はお祝いにしない?」
「お祝い……笹熊亭に行きましょうか」
「賛成! 行こ!」

 さっそく歩き出そうとしたミッケさんとルルをを止めます。

「トトの件をイアンさんに伝えてくるので、先に行っていてください」
「了解。注文しておくね」
「マコちゃん、行こう」
「はい」

 三人と別れてトト達と一緒に隣のイアンさん宅へ。

「あれ、桜華さん。どうしたの?」
「トトの事です」
「そういえば、今日は姿を見なかったなぁ」

 今に至るまでトト不在に気が付いていなかったそうです。あれだけ大きいのに。

「実は、ここに来る前にいた場所で庇護していた同族を迎えに行っていたみたいで」
「へ? 同族って、ココットだよね。数は……」

 無言で体の位置をずらしてトトの方へ視線を向けると、イアンさんもそちらを見て固まります。

「トトの話だと、二十羽いるそうです。建物には入らないので、暫くは牧場の隅で好きにしてもらおうと思っていますが、どうでしょうか」
「二十羽……まぁ、帰れとは言えないな」

 苦笑を浮かべるイアンさんにつられて笑みを浮かべると、頭を下げます。

「ご迷惑おかけいたします」
「いやいや。少しすれば牧場は拡張、鶏舎も建てるし、遅いか早いかでしょう。人手の方は、移住者の一人が来てくれることになっているから大丈夫」
「分かりました。必要なものがあったら言ってください」
「そうするよ。じゃ、牧場に連れて行くわ」
「お願いします。トト、お願いね」
「グル!」

 力強く頷いてくれたトトを見送ると、ギルドに寄ってグレンさんに支払い手続きを済ませてから笹熊亭に向かいます。

 笹熊亭の中に入ると、いつも以上の賑わいに思わず足を止めてしまいました。

「あ、桜華さん。こっち、こっち」

 奥の方でミッケさんが手を振っているのを見つけたので、そちらに移動して着席します。

「桜華、どうしたの?」
「いつもより賑やかだなと思って」

 ルルの質問に答えながら返答すると、ルルとミッケさんも周りを見渡します。

「そういえば、見たことない人がいるね」
「ああ。移住者だよ。結構来たぞ」

 近くにいた狩猟者の小父さんによると、森の民と獣の民、草原の民と妖精が来たそうです。

 なお、私たちでいうエルフが森の民。獣人は獣の民。私達人間は草原の民。ドワーフを指す岩窟の民。水中で生きる水の民。竜や竜人を指す蒼天の民。
 他には各種族で特に魔力に秀でた者を指す魔の民。妖精には移ろいの民という言い方もあるそうですが、あまり使われず、単に妖精か食欲の民と呼ぶそうです。
 ……。妙に納得するのは何でしょうか。

「賑やかなのはいいですけど、新たな騒動が起きないといいですね」
「そうだなぁ。ま、何かあったらエレノアさんとミッケちゃんが絞めるだろうさ」
「ミッケさん、何をやったの?」
「え、エレノアさんにくっついていただけだよ?」

 エレノアさんが絞めているのを、後ろから震えつつ眺めていただけらしいです。

「こ、この話はもういいよね。じゃ、マコちゃんに乾杯!」
「そうですね。乾杯」

 何やら慌てて話を逸らしてきましたが、深く聞くと藪蛇になりかねないので流れに乗ります。

「マコちゃん、最初に一つだけとっても大切なことを教えておくね」
「はい」

 ミッケさんがルルと一緒に姿勢を正して真剣な顔で話しかけると、マコちゃんも背筋を伸ばして応えます。

「桜華さんはやることがおかしいので、何があっても桜華さんならおかしくないって覚えておいてね」
「ミッケさん、あとルルも。そういわれるほどに常識外れな行動はしていないはずです」
「ええ~。トトと会話しているとか、常識外れどころか人としてどうなのかな」

 ミッケさんからの反論に、ルルが頬を膨らませた状態で激しく頷いています。

「他は、牢屋に殴り込むとか、ねぇ?」
「お姉ちゃん」

 呆れ顔かと思えば、目を輝かせるマコちゃん。意外と母親似なのかもしれないですね。

「ま、私達の非常識が桜華さんの常識だから」
「はい!」

 反論したいところですが、周囲の人まで頷いている状況では分が悪くて口を挟めません。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

待ちに待ったVRMMO!でもコミュ障な僕はぼっちでプレイしています…

はにゃ
SF
20XX年。 夢にまでみたVRMMOゲーム機『ダイブオン』と剣と魔法を駆使してダンジョンを踏破していくVRMMORPG『アトランティス』が発売された。 五感全てで没入できるタイプのゲームに、心奪われ、血湧き肉躍る僕の名は、佐藤健一(高校2年生)。 学校でぼっちでいじめられっ子な僕は、学校を休んでバイトに明け暮れ、バカ高いゲーム(本体二十九万八千円+ソフト九万八千円也)と面倒くさい手続きと倍率の高い購入予約券を運良く手に入れることができた。 普通のオンラインRPGでギルドのタンク(壁役)を務めていた僕は、同じく購入できたギルメンのフレとまた一緒にプレイするこのを約束した。 そして『アトランティス』発売初日、学校を休んだ僕は、開始時間と同時にダイブした。 …はいいんだけど、キャラがリアル過ぎてテンパってしまう! みんなキャラメイキングでイケメンや美少女、美女ばかりだし(僕もイケメンキャラだけど)、コミュ障な僕はテンパりすぎてまともに会話ができない! 目を合わせられないし、身体も壊れたロボットのようにギクシャクしてしまう。 こんなはずじゃなかったのに!と嘆く僕を陰で嘲笑うプレイヤーとフレ達…。 ブルータスよ、お前もか………。 ゲームの中でもイジメられ、ある出来事をキッカケにソロでやっていくことを決意する。 これは、NPCを仲間にギルドを立ち上げ、プレイヤーと対峙し、ダンジョンに挑む僕の独りよがりだけどそうでもないぼっちな話。  ただいま不定期更新中m(_ _)m  モチベーションが上がらないので半ば打ち切り状態です。

グラッジブレイカー! ~ポンコツアンドロイド、時々かたゆでたまご~

尾野 灯
SF
人類がアインシュタインをペテンにかける方法を知ってから数世紀、地球から一番近い恒星への進出により、新しい時代が幕を開ける……はずだった。 だが、無謀な計画が生み出したのは、数千万の棄民と植民星系の独立戦争だった。 ケンタウリ星系の独立戦争が敗北に終ってから十三年、荒廃したコロニーケンタウルスⅢを根城に、それでもしぶとく生き残った人間たち。 そんな彼らの一人、かつてのエースパイロットケント・マツオカは、ひょんなことから手に入れた、高性能だがポンコツな相棒AIノエルと共に、今日も借金返済のためにコツコツと働いていた。 そんな彼らのもとに、かつての上官から旧ケンタウリ星系軍の秘密兵器の奪還を依頼される。高額な報酬に釣られ、仕事を受けたケントだったが……。 懐かしくて一周回って新しいかもしれない、スペースオペラ第一弾!

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...