短編集

Hardさん

文字の大きさ
上 下
1 / 1

別れと出会いと別れ

しおりを挟む
私はとある中小企業で働いています。
この会社は給料こそ高くはないけれど、とても働きやすい環境です。
そこで働き、たまに遊び、TVを見てひとり笑う。そんな特に特徴もない日々を送っていました。

そんなある日。
私の元に1通のメールが届きました。
電話が何度もあったようですが、仕事中で電源を切っていたため気づきませんでした。
送り主は私の父親でした。
内容はこうです。

_________________
お母さんが倒れた。
今、病院で見てもらった。
かなり危ない状態らしい。
仕事が終わったら電話、返してくれ。
詳しくはそこで話す。
_________________


私は、そのメッセージを見て少しの間頭が真っ白になりました。
そして、正常な思考が戻った頃、私は怖くなりました。
電話を早く返さなくてはいけない。けれども、その結果がもしも、残念なものだったら?そう思ってしまいます。
そうなると、結果を聞くのが怖くて怖くて仕方がありませんでした。
それでも聞かなくてはいけない。そんな義務感に近いものを感じながら、着信履歴から父親の番号にかけました。

ワンコール。すぐに父親は電話に出ました。

「もしもし。父さん。私よ。母さんはどうなの?」

その時の私の声は震えていたと思います。
水分は、メールを開く前に充分にとったのに、何故だか喉が渇いていました。

「落ち着いて聞いてくれ。母さんはもう、あと数ヶ月しか生きれないらしい。」

「...え?」

「膵臓がんだそうだ。既に至るところに転移しているらしく、もう手遅れらしい。医者が言っていたが、こんな状況になるまで発見できないのはおかしい。きっと、苦しくて辛いのをずっと我慢してきたんだろう。って。」

その声は今にも泣きそうで、震えていました。

「とにかく、1度こっちに戻ってきてくれ。」

私は返事ができませんでした。それだけを使えると、父さんは電話を切りました。
私のこの状況を察してくれたのでしょう。
切れて僅か数秒後、私は無意識に動いていました。急いで会社から飛び出て、私の車に乗り込み、エンジンをかけ、飛び出しました。
そこから先はあまり覚えていません。

甲高い音がなり、気づいた時に私は、葬儀にいました。
悲しいはずなのに涙は出ません。
よくわからないのですが、私には母が隣にいる気がしていました。
父も、弟も、親戚のみんなも泣いていました。そして不思議なことに、そこに私はいないような気がしました。
そんなことを感じていると段々、母との距離が近くなっていくような、そんな感覚にあいました。
そして、近くなるにつれて私は母の感情のようなものを感じ取れるようになってきました。
何故でしょう?母は怒っていました。そして悲しそうでした。
そんな感情を受けていると段々私も悲しくなってきました。
涙で前が見えなくなる前に、母の顔を見ようと、花に囲まれているであろう顔写真を、その視界に写しました。
私はその時驚きました。
そして同時に納得し、さらに悲しさがこみ上げてきました。

ああ、そういうことか。ごめんね?母さん。
私はこれから、あなたのそばにいることになりそうだよ。
一緒に見守っていようね?

そう言い私は、涙を拭い、隣の母の顔を見ました。
シワの増えたその顔は、目に涙を浮かべ、さらにシワを増やして私を、見つめていました。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...