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1940年 夏 ドイツ第三帝国 パリ

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フランス、パリが陥落して3か月程が経とうとしているある日。ドイツ軍は未だに大西洋を拝めずにいた。

フランス各地でのレジスタンス活動に加え、組織だった抵抗が根強く行われ、ペーターやロンメルを含むドイツ第三帝国国防軍は思い通りの進撃を出来ずにいた。

歴史的建造物保護の観点から、パリでの大規模な戦闘は起きずに、明け渡された。これによって西部の戦線整理を行えると考えていたドイツ第三帝国は大きな誤算を招く羽目になる。

フランスのマジノ線防衛部隊がスイス国内を縦断しアルパイン線に対峙するイタリア軍が壊滅的な被害を被った。

またフランスが仮に降伏してしまった時、周囲を独伊しか居ない状況を危惧したスイスは対独伊姿勢に切り替え始めた。

また、アメリカの武器支援やイギリスの援軍などが大西洋側から供給されることで、フランスは西部海岸地域及び南部で熾烈な抵抗が行われていた。

「状況改善には南部での勝利を掴む他ないでしょう。大西洋側にはイギリスとフランスの空母が海上からの支援によって、航空優勢が取れません。ならば敵の航続距離の問題でこちらが優位な南部を攻めるべきです」

「しかし、南部はイタリア軍がようやく建て直しの目処が立ったほどだ。進軍には未だに時間がかかる。それに南部ではそれ以来、軍事的な優勢を喪失したまんまだ」

士官たちが、各々自由に現状について意見を述べあう。ペーターが指揮する歩兵主体のⅭ軍集団と、ロンメル率いる装甲機械化師団中心のa軍集団の上官のみが集まり、今後の展望について話し合っている最中だ。

「少なくとも、我々が必ず勝てる戦争ではない。状況の整理を一から始めようか。結論をそれから決めるのでも遅くはないだろう」

この場にいる一番の上官の意見に否定を述べるものはいなかった。

「では、私から対仏戦線の状況を整理させていただきます。ベネルクス大包囲によって英仏およびベネルクス各国は総数で23万人を喪失しました。これによって、フランス北部の都市であるパリやカレーは我々の手中に収まっています。また、陸軍数でも優位であり時間の問題で北部地域は制圧が可能であるという認識です。ただ、懸念事項があり、イギリス本国から近いため、敵航空戦においてに苦戦を強いられており、相応の被害を被りかねない事です」

「続いて西部です。西部地域はBNBラインがアメリカからの武器供給網になっており、これを寸断することができれば南部で優勢を確保できます。しかし、相手にとっても生命線であるBNBラインの防衛を捨ててまで南部に注力するかといわれれば、、、、わかりません。情報の収集が必要です」

「最後に南部ですが、仏伊国境はトリノ・ミラノ間で一進一退です。かろうじでジェノバを維持していますが、いつ陥落してもおかしくはない状況です、ただ、相手も万全な状況ではないためこちらが優位になることも十分に考えられます。以上が現況の簡単な報告です」


「ペーター軍団長の報告を聞いて、君たちはどう考えるかね」

その問いに一人の年長な男が、挙手する。ロンメルが指名し、発言を許す。

「我々には海で戦う手段はありません。我々には陸と空で勝たなくてはこの戦いに勝つことはできません。そして、空で戦うしても、陸で戦うにしても大切なのは”速度”です。そして、ロンメル軍団長はその速度を持っておられますが、十分に発揮しておられるとは言い難い。私には、そこに勝機が潜んでおると思っている」

「詳しく聞こう」

「ここにいる人間のうちどれだけが騎兵の突撃を見たことがあるのかわからないが、正面から自分よりも大きな存在が迫ってくる恐怖は簡単に逃れられるものではない。そして、その機動力は歩兵ではいくら追いかけても追いつくことはない。それが時代を経て、今では装甲車や自動車、戦車がその役割を担いつつある。その破壊力と機動性を存分に活かす。そこに活路があると私は感じている」

「具体的な策はあるのですか」

若い士官の質問に、年長な男は
「私には学がないからそんなことはわからない」そう言い放った。

年長な男に対して、呆れたような空気が広がるが、この場にいた二人だけは違った。

「フェーラ少佐Ⅽ軍団の補給の状況はどうなっている?」

「部隊の再編も終えており、いつでも動かすことは可能です。出撃の準備に入りますか?」

「いやいい。詳しい指示はおって出す。Ⅽ軍団は今日は解散だ。ゆっくりと休んでくれ」

「a軍団も解散だ。ゆっくりとしておいてくれ。ペーター、これから少し時間はあるかね」

「ええもちろんです。私もお話ししたいことができていたところです」


数日後ドイツ本国に一冊の作戦概要書が届いた。そこには【ermüdung(疲労)】とだけ綴られていた。







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