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第二章 教会生活
23 知らざあ言わずにおきましょう。
しおりを挟む「ユーフェミア様?」
おっと。
怖い怖い。青の眠りから連動して、断罪の時のこと思い出しちゃったじゃない。光がチカチカして、赤黒い靄が見てる世界をぐるぐるかき回す。気持ち悪い。でも、知られるともっと気持ち悪いから、私は困ったような笑みを浮かべて、「申し訳ありません」と付け加えた。
だけどね。
あんな状況で毒薬持ってたら、くらっといっても仕方ないと思うわー。前世思い出して、現状が明らかにおかしいって思えてるからこの状況に耐えられてるけど、情報制限かけられて恋に盲目、級友裏切り、家族は圧力、幽閉部屋にご招待とか、明らか絶望フラグが立ちすぎでしょうよ。
自殺、たしかに良くないよ。
前世を思い出す前の私だって、それくらいちゃんと常識で身についてたよ。
それでもそうしなきゃ耐えられない現状っていうのがあったんだよ。
そう声を上げたかったけど、それが無駄なのも分かった。
情報を整理しよう。
私はどういう風に見られているんだろう。
私は、アリアを虐めた。
ええ、水かけたり、物壊したり、暴言浴びせたり、きっちり虐めさせていただきました。
まあ私はやってないけど、やってると思われてるのがアリアたんとハイド様の毒殺疑惑よね。
毒を飲んで、自殺もしかけました。
――栄養失調状態は、私が自殺後にご飯を食べられなかったと思われてるかも。
あの父親の様子や、部屋の様子までをおばさまが報告・共有しているから、私が一族でまずい立場だっていうのは理解してもらってるのかもしれない。ドリムイさんだって、それがあったから私に頭を下げてくれたわけだし。
つまり、家庭環境で肩身の狭い思いをしている少女が、自分より低ランクの生徒を虐めて安定を保ち、見事返り討ちに合ってそれに耐えられず自殺した。運良く生き返って、自身の行いを悔い改めている、っていうストーリーだろうか。大体合ってるけど、……さ。
虐待に遭っていた少女が、唯一の安定材料を取られまいと必死に戦ったけど、誰かの罠に嵌って道を閉ざされて、虐待で死ぬより自分で死のうと思って自殺したけど、頑張って生き延びた。家族を捨てて生き延びる唯一の道を探ってる、っていうのが正解なんだな。
「貴女は幸運にも、青の眠りを飲みながら、生き残りました。それは、その体が複数の病を経ていることが原因と思われます」
青の眠りは、ぐっすり眠るように意識を失い死に至る薬だ。量が少なければ昏睡、多ければ死に至る。私が飲んだのは致死量だったんだけど、何の因果か幸運かこうして生き残っている。すぐに吐き戻したにしては、青の眠りを使用した、と反応が出たことからしてありえない。その反応は抗体を持っている、という意味だからだ。もう私に、青の眠りは通用しない。
そんな人間、聞いたことが無い。
「原因はよくわかりませんが、貴女がかかった病気の中には、現状復帰が難しいとされているものも含まれています。――貴女は、本当に神に生かされたのですよ」
「奇跡、ということですか?」
まさしく、と総司祭様は頷いた。
実際はお母様の機嫌の波に併せて寄せては返す加護と病気が合致した偶然だろう。病原菌まみれのところに居た自覚は、くっきりありますし。カビだらけの吹きさらしだぜ。
「――貴女の、貴女なりの試練を越えた現状であることは分かっているつもりです。その境遇を知っている私たちが、貴女を引き渡すことはありません。私たちは貴女が、試練を越え、平民となることを見守りたい。その手伝いをしたいとも思っています」
虐待は認識してる――当たり前か。
だったら、不服に思うことが間違いなんだろう。
『違うんです、私は青の眠りなんて毒薬知りません。私は確かにアリアを虐めましたけど、ハイド様を傷つけたり、二人を死に至らしめるようなことは絶対にしていません』
『違うんです、私は幽閉先で、あばら家よりも不衛生な場所に閉じ込められていたんです。従者はおろか、家族は誰も信じてくれませんでした。母の加護が失望で弱まり、その度に病気になって、死ぬような状況を繰り返してきたんです』
『違うんです、貴方が思っているよりも、ずっとその境遇は悪いものなんです』
『違うんです、万が一あの家に帰ったら、私は死んでしまう』
『私はハイド様も、憎くてたまらないアリアも殺してしまう』
『助けて、会いたくない』
「有難うございます」
私は微笑んだ。
「母親にもう一度会って、私の意思を伝えますわ」
『二度と会いたくない』
『助けて』
言って何になるのか。
私が平民になることに協力してくれてるだけで、十分だ。
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