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第二章 教会生活

20 想定と現実

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って、ウソウソ。嘘です。
快適だったのは本当だったんだけど、現実は想定していたものと少しばかり違った。


あの後、私は閉鎖空間に若干発狂した。それは毎回使われた折檻用の監禁場所に似ていたからだったし、幼少期に家族と引き離され、修行を受けさせられた場所に似ていたからだった。
それでも、その様子を他の人に見せれば、平民生活は不適合と判断され、家族の元に返されるかもしれない。そうすると死んじゃうフラグに真っ逆さまだ。
元に戻れば元の木阿弥。それだけは嫌だ。
これはシナリオにない世界だ。もしかしたらスキップしてるだけで、描かれていないだけかもしれないけれど、この流れにすがらなければ私に次のステップはない。

震える体は、人が居なくなってから、更に吐き気を伴ったけれど、それでもその状態が普通なときもあったから、私は耐えることができた。
夕日が落ちる。徐々に暗くなっていく部屋。吹きさらしでも適温だった。虫の音が遠くで聞こえる。温かいスープには土が入らず、パンはおかわり自由。違う。ここは違う場所だ。
繰り返し念じても、ちょっとスイッチが入ってしまった自分の体を元の状態に戻すことができなかった。もちろん意地でもご飯は食べた。今度は吐かない。
胃の中の大事な栄養源を戻さないようにうずくまって耐えていたその時、肩を叩かれた。
前に私が鞄だけ持っていくと言った時、『それ、だけですか?』と呟いた、聖職者のおばさまだった。


おばさまは、私の状態がおかしいと総司祭様に進言したそうだ。
部屋の質素さ、持ち込む荷物の少なさ、馬車の中での罵倒と、それを受け流す様子、――そして支えた体の軽さ。
『加護を持つ母親より恩恵を受けていると聞きましたが、その体は妖精のように軽いのです。一度、一度あの方の体を診ていただけませんか』

そう言ってくれて、医者を連れて私のところに戻ってきてくれた。妖精だなんておばさまったらー、褒めすぎですよ。
小さくうずくまる様子に、おばさまは不安に目をうるませながら説明してくれた。私は一応お伝えした。
『ご飯を吐き戻したくありません。そのお話は明日の朝でよろしいでしょうか』
根性である。
私の根性の化身である。――意地汚いわけじゃない。重要な栄養源なんです、ほんと十数日ぶりのまともな食事なんです。塩味と根菜類の出汁と細切れベーコンがいい感じなんです絶対今度は吐き出さないから、吐き出さないんだからああああ!
それをとぎれとぎれに言うと、部屋から出された。
一日も保たなかったかー、なんてのどかな声を出した修道士の少年はおばさまに倒された。

部屋から出た私は、立派に食材を消化し、安心して診察にのぞむことができた。
結果、栄養失調状態であることが判明し、すぐに医療処置用の部屋に移された。病歴をついでに調べたところ、がかかるほとんどの病気の反応が出た。これは貴族――しかも加護の恩恵をうけるような身分の者には見られない事例であると驚かれた。
そして、自殺の時に使用した青の眠りの反応も出てしまった。つまり、自殺したのが初めて他の人にバレてしまった。そこは判明しなくてよかった。よかった。よかったのに……。自殺は殺人で大罪だ。それを知った全員がその場で顔をしかめた。
即、精霊術による回復が行われたが、なぜか母親の精霊の加護がそれを邪魔してうまく作動しないという事態が判明。私は多くの平民と同じ、食事と運動による療法を取り入れることになった。

お金がかからないから、それで結果的にはよかったんだけど、もう縁が切れたはずの母親の精霊の加護が残ってるのって何なん?

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