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第一章 断罪から脱出まで

7 平民か幽閉の→平民で

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十日間の絶食と、ザバイバルな一週間。栄養状態は最悪、麦粥は最高。それでも、この美貌が衰えることはない。実はお腹とか太ももとか手首らへんがすごく痩せている。やばい、次の餌食は大きな筋肉だ。脂肪をつけねば、一緒に筋肉をつけねば死ぬ。
通されたのは、普段は音楽会などの小さな催しを行うための部屋だった。楽団や講師を招いた時に使用する場所は少し高くなっていて、私はそこに立たされた。陽を受けるための大窓のから光が差し込んで、まるでスポットライトがあたっているようだ。側に音声記録用の青い水晶球があり、そこに教会の印が薄く白く発光していた。
――これは。
父親がその側に立つ。母方の叔父は父親に一礼し、水晶球に浮かんだ教会の印に触れた。その瞬間、ぽ、と小さくて鈴のように澄んだ音がする。同時に光が十秒ほど強くなり、発光色が白から青に変化した。
本来ならば天井に魔法で照明を浮かばせる客席側は、今はなんの明かりもない。大きい窓から漏れる光でもその薄闇は拭いきれず、きらきらと埃が舞うのを目を眇めて見る。薄闇に染まらない、きらびやかな家族がその先に集合していた。
父の他に、私に非難の目を向けているのは、母親、妹、義理の弟、そして叔父だ。
叔父は義理の弟の父親であり、母親の家の家長でもある。
家族に加えた、第三者の立会。
教会に連絡の行く、録音付きの水晶球。
――意味するところは、家族会議での断罪に他ならない。

「今回の件、どのような影響が我が一族にあったのか、お前はわかっているか」
そう切り出したのは、父親だった。
偉そうに胸はって。知らんがな。

このような者が何故一族に。
恥だ。
歴史から消去したい。

込められた非難が鋭く私に刺さる。ピリピリと空気が澄んで凍る。
母親からは、紅蓮の炎がほとばしる。それを義弟が氷の魔法で制御している。「お母様」と妹がその腕に手を添えると、その炎は消失した。
苦々しく、私を見つめて男はづつける。
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
その言葉に、周囲の人々の非難の視線が更に鋭くなる。

ドヤ顔でおっさんがー、なんか言ってる。
一応父親かー。うざ親だなあ。
鋭い眼差しにお洒落な顎髭を蓄えたその人から、久方ぶりに目線を受けて私はため息を付きたくなった。

この選択肢のは、本来ならば意味を成していない。
領地の中で、平穏に誰にも会わず暮らせるのならば、間違いなくそちらがいい。メイドも最低限付き、食事も制限されることはない。衣服にしても、今のように贅沢な衣装を着ることはできないだろうけれど、質のいいものを着ることはできる。誰にも会わないということは、外聞を聞かずにすむということだ。――この家でも聞こえてくる、非難、嘲笑、その他もろもろ。愛している家族から冷たい目を受けず、許されるのを静かに待ち、この哀しみを抑え、あの平民あがりの寝取り女への憤りと、その女を選んだ王子への恋心が朽ちるまでを暮すのだ。
一方、平民に身を落とせば、そんなことは言っていられなくなる。貴族の、しかもまだ働いた事もない私が、平民の暮らしに苦労するのは明らかだ。貧しい暮らしになるのは確実。贅沢を贅沢とも意識していない生活から一転、働く事はおろか、炊事洗濯、食事も何もかも誰の助けも借りず、全て自分で行わなければならない。しかも、その身におちる原因は平民の女だ。わざわざ、そんなものになりたがるバカはいない。

「はい、では平民になります」
「な!」
私を諭すために来た家族が絶句した。そんなつりめ全員が目玉飛び出さんばかりに見開かんでもよろしいがな。
目からビームが出そうな勢いである。
心のなかで爆笑しながら、私は鍛えられた鉄面皮を発動させた。ツンとすました顔に、薄ら笑いを浮かべる。

「市井の暮らしに身を置き、私の罪と向き合います」
「そのような甘いことを。お前などどこかで野垂れ死ぬのが目に見えている」
「救済を求めても、その時にはもう縁を切っているのだ。お前を助ける者は誰もいないぞ」
「そうやって、突飛なことを言って同情を引こうとしても、無意味なのですよ。貴女はこの家にとって許されない行いをしたのです」
お前、お前、貴女。
父親、叔父、母親。
それぞれ、もう私を名前で呼ぶことはしない。
あの日。
――学園の中庭、多くの生徒と教師の前で断罪を受けて、帰ってきたあの日から。

あの日から、この人達は完全に私を捨てた。
だから私もまた、家族を捨てるのだ。
こんな低ランクのところにいてたら、今後どうなるかがわからないからね!

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