戦場の花

こあめ(小雨、小飴)

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戦場の花は儚く脆く

〜奇襲、閃光、壊滅〜

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「な、なんだって……」
 無線兵はそう言って通信を切り、黙ってしまった。
「おい、なにを言われたんだ?」
 隊長は司令によっては変更を急がねばならない計画をねるために早く報告が欲しかった。しかし、その兵士はなかなか言い出せないでいた、その顔には明らかに恐怖が浮かんでいる。
「…おい! 何を言われたん━━」
 隊長がもう一度問おうとした時だった。

  目の前で無線兵が…撃たれたのだ。彼は一瞬止まった後、撃たれた反動で頭がビクンと跳ね、そして地面に倒れた。銃声はなかったから恐らく実弾系で狙撃銃、一瞬でそう判断したαは反射的に叫んだ。
「スナイパー!」
 同時に自分は無線兵の持っていた通信端末を拾いながら瓦礫に飛び込むように隠れた。αの声を聞き一瞬遅れて隊長以下生存兵も遮蔽物に身を隠した。
「どこからだ!」
 隊長が無線機で聞く。αは自分の分析できる限りで状況を説明する。
「発砲音がありませんでした、恐らく実弾系で消音器付き狙撃銃の類いでしょう、打たれた方角はここから11時の方です」
「11時だな⁉ その他の敵はいるのか? 偵察兵確認しろ!」
 隊内の偵察兵の生き残りがドローンを使用し偵察を開始し、すぐに報告が来る。
「ドローンの視界内だけでも歩行自立兵器6体自立装輪兵器2体、追っ手の小隊です。所属は……くそっ壊されたか」
 追っ手がどこの部隊かは確認出来なかったが間違いなく公国の部隊であり、この壊滅寸前の部隊を1人残らず捻り潰そうとしているのは間違いない。

  突如兵器が瓦礫への銃撃を始める。狙撃手が撃った辺りに残党が居ないかを掃射で確認し始めたのだ。8mm弾が瓦礫を削る。一部の瓦礫を銃弾が貫通し、そこに隠れていた部隊員の体に風穴を開けてゆく。長時間一方的な銃撃が続き、兵器の小隊たちは殲滅から捜索へ移行した。

  銃撃が止み隊長はどうするかを考え始めた。

ひとつ、このままやり過ごす。
ひとつ、犠牲を払ってでも後退する。

 どうするか…そんなとき、通信端末の報告がまだであった事を思い出しαに言った。
「α、通信端末から最新の通信記録を確認して報告してくれ」
「了解しました」
 αは端末を操作し始める。

端末には以下のようにあった

送信  55分前
日付 今日
相手 作戦本部
連絡 04大隊

内容
ただちに現区画を離れよ。
30分後に核を投下する、投下後連絡が無い場合
生き残りがいたとしても逃亡兵として扱う。

以上


「………隊長、核が来ます」
 αの報告に隊長だけでなく生き残り全員が固まる。唇をかみながら隊長は唸るような声で聞く。
「……それは、あとどれくらいだ」
「5分です……」
 その言葉は、つまり逃げ場はなく見つかるか核が落ちてくるかの絶望の二択を意味していた。

  1人の兵士はその恐怖から叫びながら走り出した。当然近くにいた兵器に蜂の巣にされる。
それを横で見ていた兵士は止められなかった自責の念と、やはり恐怖から撃つのをやめた兵器に対し手に持っていた対戦車砲を撃ち放った。彼の放った砲撃は回避行動の間に合わなかった兵器の脚部に命中、さらに爆発に装輪兵器を巻き込み2体を行動不能にした。
 しかし、動きを止めただけ、そう止めただけである。兵装の撃破までは行かず、反撃の銃撃によりなぎ払われる。
   核で死ぬよりは、、、そう皆が考え隊長が、
「総員、突撃用意──」
 無線に叫ぶ直前、大きな音がし始めた。

 ヒューという独特な音
 音からして大きなもの
 音源は空からである

 一機の兵器は上空を見上げた、カメラをズームし見たものは、ひとつの爆弾である。通常のものよりも格段に巨大な、形状は航空爆弾と言うよりは爆雷のような、そして、次に爆弾の中の成分の分析を初める。
中身は核と同様の成分を検出した。

  兵器は警報を爆音で鳴らすと同時に対空射撃を初めた。同時に04大隊の残兵も走り出す、少しでも爆心地から遠ざかるためだ。
……しかし、現実は非情で、神様は薄情であった。自立兵器の兵装は対空を目的にしていなかった為、上に向けて撃つには、著しく精度が悪く当たる事はなかった。

  一定高度に達した爆弾が起爆する。辺りは青白い光につつまれ爆心地に建物や、瓦礫、兵器は吸い込まれ、そして吹き飛ばされた。

  この世界の核はマロニウムという物質とケラニウム石という鉱石を激しくぶつける事によりそこに一定時間小規模ではあるがブラックホールのように吸い込む空間を作る、そしてその反応が終わると、一気に外に放出される。
唯一の使う利点としては放射能などの有害物質が残らない、というより爆心地に物が残らない事だろうか。
 その周辺は高度によってはクレーターができ、瓦礫も残らないくらいの衝撃で吹き飛ぶのだが今回は高度が少し高かった。実際、クレーターは作られず、瓦礫も沢山残った。
 そして、司令部の思惑通りに敵の部隊も殲滅できた。
しかし、爆心地に限りなく近かった04大隊は…

  「……げほっげほっ、だ、だれか」
 少ししてαが起き上がる、彼女は爆発の起きる前に背の高い建物の内部に飛び込んだため、幸い軽症で住んでいた……とは言っても建物は1階の部分の瓦礫以外ないのだが…。

 04大隊はここに壊滅した。あるものは爆心地に吸い寄せられ、あるものは爆心地からの放出により飛んできた瓦礫に轢かれた。足元には誰かの腕、近くの床には引きずられた血の跡があった。
「そんな……だれか!」
「お、おい、おれだ…ここにいる」
 αが声の方に駆け寄る。そこには、隊長が瓦礫にもたれていた、腹部に鉄筋が刺さった状態で。
「隊長…すぐに手当を…!」
「いや…もう長くない…それに、すぐ公国の部隊が来るだろう…逃げろ」
「嫌です!隊長を置いて行けません!」
 αは、この04大隊に配属されてから今まで彼に何度も助けてもらい、そして、誰よりも長くいた人物だ。
気づけば泣き叫んでいた。
「隊長と一緒に居れないのならば、私はここで!!」
「……α!」
 隊長の張り上げた声にビクッと肩を竦め泣いていてグシャグシャの顔で隊長を見つめる。
「いいか、逃げろ、これは俺からの最後のお願いだ…頼む、聞いてくれ…ゴフッ…ぐっ…お前には生きていて欲しいんだ…」
 血を吐きながらも、最後の気力を振り絞りながらαに隊長はそう放った。
「…わかりました。隊長…。」
 泣きながらも、確かにそう言ったα。それを聞いた隊長は笑顔で、
「必ず生きろよ、元気で、」
 そう言って彼は、生涯に幕を下ろした。隊長が冷たくなった後、αは泣き叫んだ、言葉なのか分からない、意味の無い言葉を叫びながら。

  気がつけば既にひは傾き、辺りが暗くなり始めていた。
「隊長、みんな、私行きます。必ずあなたたちの死を無駄にはしない。」
 町外れの元農地だった所に回収できた隊員と隊長の遺体を埋め、墓標を建てた。彼女が彼らに出来る最後の事であった。
 そして彼女は歩き出す、まずはこのエリアから1番近い補給基地を目指す事にした。
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