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30 ヤバ…雅孝って…カッコイイかも!

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「「「きゃああああああ!東雲さまあああ!素敵いイイ!!!!」」」

「…はあ…?」

 女の子たちの、授業中とは思えない黄色い声が大音量で飛び交う中。
 あまりの光景を前に、俺はぽかんと開いたお口がふさがらなかった。
 ナニコレ、びっくり超人大集合なの~?


 時間はちょっとさかのぼって。3、4時間目が大好きな美術、しかも授業内容がお天気のいい日の写生ともなれば、絵の具セットとカルトン(強度のある紙でできた、二つ折りの画板ね)を準備する俺も、ウッキウキだった。
 こころなしか、クラスの女の子たちも朝からそわそわと興奮していて、落ち着かない感じ。それは、かえでくんとすみれくんも一緒だった。

「んじゃさあ、今日の放課後、みつきんちに集合な?」
「「おっけー!」」

 楽しそうなかえでくんの号令に、俺とすみれくんもわくわくで元気に返事をした。
 実は、お恥ずかしながら恋愛モノにからっきし疎い俺は、最近身の回りでちょくちょく耳にする、『運命』っていうワードが気になって…友達のすみれくんとかえでくんに、協力を求めてみたんだよね。
 そしたら、意外や意外!すみれくんは恋愛モノの少女漫画に、かえでくんは恋愛モノの小説にめちゃくちゃ詳しいことがわかった。
 実は世界的に『運命』をテーマにした恋愛モノの作品はすごく人気で、二人も沢山持ってるんだって。それを聞いて、俺は勇気を出してお願いしてみたんだ。

「なあなあ。悪いんだけど、何かおすすめの作品があったら、貸してくれない?…あ、できれば、恋愛モノの初心者向けの作品があったら、助かるんだけど…」

 ってお願いしてみたんだ。そしたら、ふたりがほっぺを赤くしてぷるぷるして黙っちゃったから、俺ははっとした。

 二人とも、コレクションが1000冊以上はあるって言っていた。…相当、熱心なコレクターさんだ。
 おこづかい制の中学生の経済状況で、そこまでの数を集めるのは並大抵の情熱でできることじゃないだろう。
 そんな大事な大事なコレクションを、わりとガサツな俺なんかに貸し出すのは、かなり嫌なんじゃないだろうか?

「あっ、あっ、ゴメン!嫌だったらだいじょう…」

「「誰が嫌だっていった!?」」
「うひいっ?」

 失礼なお願いしちゃったかな~、って、後悔しかかったところに、二人がもの凄い勢いで両サイドから俺の肩をガシッと掴んだから、すごくびっくりした。
 その表情は、嬉しそうにキラキラ輝いている!

「わかった!初心者におすすめの、名作をチョイスしてくるね!最高にいい作品があるから、ちょっと読む前に、かる~くプレゼンさせてよ。2,3分にまとめるからさ!」

 嬉しそうに綺麗なお顔を紅潮させて、興奮気味に話す、すみれくん。目がすっごくキラキラしてる~!

「オレもオレも!色々とおすすめはあるんだけど…最初の一冊には、あの作品しかないな。オレもちょっとだけ、プレゼンっていうか、おススメトークしたいぜ!楽しそう~!」

 わお。かえでくんまで、きりりとした男の子らしいお顔を、可愛く輝かせながら、うれしそうにしている。
 えっ、えっ?自分の好きなものを初心者に紹介するのって、そんなに楽しいことなの?
 ん~…。あっ、そういえば、うちのアイドル犬ちくわぶの愛くるしさをプレゼンして!って言われたら、無限にワックワクで話せちゃうかも!なるほどね、そういう事か~。
 テンションの上がったかえでくんと、すみれくん。好きなジャンルが同じということもあって、すぐに意気投合して、あれよあれよといううちに今日の放課後に俺の家で集合して、楽しい『みんなでおすすめの運命モノを披露しあってわいわいする会』をすることになったんだ。
 なんだか楽しそうだよね。どうせならお菓子とジュース(かえでくんがいるから、クリームソーダに決まりだね!)を用意して、楽しく話そうぜ~!ってことになった。
 正直、俺は恋愛モノは知らな過ぎて、ぜんぜんイメージがピンときてないんだけど、楽しそうな二人につられて、すごく楽しみになっちゃった。
 二人をこんなに夢中にさせる恋愛モノの世界。どんな作品に出合えるんだろうな。
 気になっていた、『運命』モノって、どんなお話なんだろう?

「…そうと決まれば。東雲さまにオッケー貰わないとなあ」

 次の授業は、美術だ。校舎の中の思い思いの場所で写生することになっているので、絵具セットとカルトン(画板)を持って俺たちは集合場所の中庭に向か事にした…んだけど、移動中、すみれくんが、ちょっと気が重そうに言った。
 んん?東雲さまって雅孝だよね?雅孝のオッケー?

「すみれくん、雅孝のオッケー貰うってなに?」

 ぽかんとお口をあけたまま聞いてみると、すみれくんはクスクス笑いながら、やさしくそっと俺の顎を押し上げて、お口を閉じさせてくれた。あら、ダンケシェン。

「いや、恋愛モノとかさ…みっちゃんに見せるとなると…。さすがに東雲さまに許可もらってからじゃないとさ。…勝手にいらないことを教えたら、あとでめんどくさ…ごほん!ちょっと、問題になっちゃうといけないから!」

 ええ~?恋愛モノを貸してもらうのに、雅孝の許可がいるって、なんで~?(あと、さらっと雅孝のこと、めんどくさいって言った?)
 なにもそんな…危険なものを貸し借りするわけじゃないんだよ?…えっ?危険じゃない…よね?

「えっ?えっ?恋愛モノって、そんなに危険なの?俺が泣いちゃうようなやつ?」

 なんだか不安になった俺は、まゆげをㇵの字にして、二人をおろおろ見上げた。
 知らないなりに、俺はてっきり、恋愛モノってお砂糖たっぷりのお菓子みたいに、おしゃれで甘くてかわいい、幸せな感じのお話なのかなって思ってたんだけど。

「いやいや、今回はオーソドックスなハッピーエンドものを持っていこうと思ってるから。そんな泣いちゃうような、悲恋モノは持っていくつもりないから大丈夫だぜ!」

 不安そうな俺に、かえでくんはやさしく微笑んだ。…悲恋モノ。そういうのもあるのか…。

「恋愛モノって、見たりするのに、お付き合いしている人の許可がいるの?」

 俺が不思議に思って、お首をかしげていると、二人は苦笑して勢いよく首を横に振った。

「そんなわけないじゃん!おれ、生まれてからずっとお付き合いしてる人いないのに、すっかり恋愛漫画のエキスパートだよ!…うっ、自分で言ってて、なんか悲しい…」

 すみれくんは、しょぼんとしてうつむいちゃった。俺は、すみれくんのピンクのサラサラヘアーをなでなで。

「いいじゃん。何かを大好きになれるって、素敵な事だと俺は思うよ。」
「みっちゃあん…マジ天使!…ただ、時々、天然すぎて心配」

 すみれくんが嬉しそうになでなでされながら言うのに、かえで君が首がもげそうなくらいうなづいて同意している。失礼しちゃうな~。

「すみません、おそくなりました~!」
そこに、お手洗いや別のご用事で別行動をしていた、マメシバ隊のみんなが合流した。
 しのぶくんが、ふいに吹いた強い風でカルトンが煽られて、よたよたっとしてる。
 ふふふ、カルトンを背負ってるとき、あるあるだよね~!俺もよくやるんだ~。

「次の授業、ちょうどSクラスって校庭で体育じゃなかったっけ?」
「おっ、そうだな。バスケするんだろ?美術の授業で写生だから、片付けのためにいつも早めに終わるもんな。ちょっとSクラスの授業覗きにいけちゃうかもって、クラスの女子が大騒ぎしてたよなあ」
「ええ!女の子たち、朝から大はしゃぎ!でした!」

 ああ、そういや、朝からうちのクラスの女の子たち、興奮して騒いでたね。みんな、そんなにバスケが大好きなんだな~、ってほほえましく見てたんだけど。

「よし、おれたちの写生の授業が終わったら、応援ついでに、ちょこっと覗きに行って、東雲さまに今日の許可もらっちゃうか~」
「そうだな。みつきからもお願いしてくれるか?そしたら一発オッケーだろ」

 ほえ?
 すみれくんとかえでくんにお願いされて、俺はもちろん!と頷いた。
「おっけ~!俺、がんばる!」

 雅孝にお願いするのは、得意だもんね。任せて!
 …でも、まあ、雅孝って結構頑固だから、俺がお願いしたってダメなことはダメ!だとは思うけどね。
 そもそも、俺がすみれくんとかえでくんにお願いして恋愛モノを貸してもらうんだもん。俺からも雅孝に全力でお願いしよう。
 …それに、俺が恋愛モノをお勉強するのって、雅孝とのよりよいお付き合いのためになることだと思うんだよね。その辺を説明したら、反対なんてしないと思う。

「わ~、俺、雅孝のクラスの授業見るのってはじめてかも。クラス別れてから、見る機会なかったもん!」
「…まあ、それはそうでしょ。そのためにクラス分けてるんだろうし」

 俺が肩にかけたカルトンの入ったバッグを、よいしょってずり上げて歩きながら言ったら、あきれたようにすみれくんが苦笑した。

 えっ?どういう意味?

「あ~…、あれ?みっちゃん、クラス分けの意味、ずっと分かってなかった感じ?」
「えっ?アハハ!いやいや、すみれくん、そんなわけないじゃん!いくらみつきだって、そんなことは知って…」

 しょうがないなあ~、っていう表情のすみれくんと、そんなわけないじゃん!って大笑いしてるかえでくん。

 …意味…?クラスを分けることの…意味ですと?

「Sクラスは…お金持ち!」
「「ぶふぉ!」」

 俺が確信して力強く言うと、みんなは思わずというように吹き出し、「いや、正解だけどさ!」「アハハ!マジでわかってなかったのかよ、みつき~!」「それでこそ、みっちゃんです!」ってケラケラわらっている。
 なんだよお。真実でしょうがあ!

「あのさあ、みっちゃん。そんだけじゃないでしょ。Sクラスにいる、東雲さまと、紅林先輩。お金持ちであること以外に、共通点は?」

「音楽の才能がものすごい!」
「ピンポン。…それと?」
「お勉強ができる!…体育もすっごく得意!」
…だよね?雅孝の成績優秀は前世もそうだったし、掲示される試験の順位も、いっつも雅孝や紅林先輩たちSクラスのメンバーが上位を独占してるもんね。

「大ピンポン。…そして?」

 え、まだあるの~?ええと…あ!

「…アルファ…?」
「花丸ピンポン!…まあ、本物のアルファなんて、この名門学校でも両手で数える程度らしいって噂だし。Sクラスにも、超人的に優秀で家柄のいいベータも沢山いるけどな。もともと、身体能力、頭脳ともにずば抜けて優秀なアルファの生徒たちは、俺たちとはレベルが違いすぎるから、クラスを分けて特別授業を組む必要があるってことらしいよ」

 ええ~!?

「あはは!マジで?それでクラス分けてたの?ちょっと大げさじゃない?」

 俺が思わず笑っちゃうと、みんなはとんでもない、と首を横に振った。

「みつきも、見たらわかるよ。もう、アルファってぜんぜん違うんだぜ!あんなのと一緒に授業なんてできねえって。マメシバ隊員のSクラス二人も、よくあんなびっくり超人達の中でついて行けるもんだよ…」
「まあ、それ以前に、お年頃のアルファとオメガを同じクラスになんてするわけにいかないだろうけどさ?…イロイロあぶないし」

 うふふふ、またまた~!かえでくんまで!すみれくん、あぶないって何が?
 俺はこう見えても、前世ではずっと雅孝と一緒のクラスで授業受けてたんだよ?雅孝はたしかにめちゃくちゃ努力するタイプの文武両道の秀才だったけど、雅孝と普通に一緒にバスケの授業もしたことあるから、そんなついていけないほどの超人ってことはないと思うんだけど。ぷふふ、いくらなんでも、大げさすぎない?

 …な~んて、思ってた時期が、俺にもありました。

 
「なっなっなっなっ…?」

「「「きゃああああああ!東雲くううん!素敵~~~!!!」」」

 びっくりするくらい沢山ジャンプしたSクラスの生徒達を華麗に避け、雅孝が、空中でするりと彼らのガードをすり抜けて、バスケットゴールに豪快にダンクシュートをきめた!!

 えっ?いまのなに?まじでふわ~って空中飛んでなかった?しかも、空中でめちゃくちゃいろいろ動いてた!
 …っていうか、雅孝もだけど、Sクラスのみんな、ジャンプの高さおかしくない?え?人間ってそんなに高く跳べましたっけ?
 っていうか、ドリブルダッシュがはええええええ!!!

 ナニコレ、なにこれ~!?

「「なっ?」」

 びっくりしすぎて目も口も全開の俺を見て、すみれくんとかえでくんは、両隣からいい笑顔で親指を立ててきた。ほかのマメシバ隊のみんなも、俺のビックリ顔を見てクスクス笑っている。
 ま、ま、マジでスゲー!Sクラスのみんな、本物の超人じゃん!
 ええ…?前世の雅孝も足が速かったけどさ。そんなレベルじゃなくない?これがアルファと、超人的ベータのみなさんの身体能力なの…?
 こんなみなさんと、跳び箱の4段すら跳べずに毎回おしりを強打する俺が、一緒になんて授業できるわけないじゃん!

 お口を開けたまま、スゲーって見ていたら、ふいにダッシュ中の雅孝がこっちを見て、一瞬とっても嬉しそうに笑った。パチッとすばやくウインクして、華麗にコートを駆け抜け、味方からパスを貰って、厳重なガードをすり抜け、また綺麗にシュートを決めた!
 そしてわきあがる、女の子たちの黄色い大歓声。
 …Sクラスのみんなって、スゲー…。っていうか、雅孝って、こんなにカッコよかったんだ…。どうしよう、めっちゃドキドキしてきた!
「あ、Sクラスも、授業が終わったみたいだよ!女の子たち、好きな相手にタオルと飲み物を持っていくみたい。」

 すみれくんが言うと、先生のホイッスルで集合していたSクラスのメンバーが、短い先生のお言葉の後、礼をして解散になるところだった。

 その時。グラウンドのフェンスの向こうで、Sクラスの女の子たちがうれしそうに、タオルとドリンクの入った水筒を取り出して、Sクラスの体育を終えたばかりの男子にそわそわと視線をやっているのを見かけた。
 フェンスを隔てて、俺たちと一緒にSクラスの授業を見ていたうちのクラスの女の子たちも、そわそわとタオルとドリンクを取り出している。
 えっ…えっ…?
 好きな男の子に、女の子が体育とか部活の後にタオルとか飲み物を持って行って、「あの。これ、よかったら使って下さい!」って言う可愛らしい文化、マジで実在したの?
 さっき、マメシバ隊のみんなにグイグイ勧められて、

「東雲様の体育を応援にいくんでしょう?それなら、みっちゃんもぜひ、タオルとドリンクを!」

 って言われてさ。今日はまだ未使用だったフェイスタオルと、途中の校内の自動販売機で、雅孝の好物のバナナオーレの紙パックは買ってきたんだけど。

「こほん、ごめんなさい、みなさん。まだ一応、解散になったとはいえ、他のクラスは授業中なの。申し訳ないけど、少しだけ、声をおとしていただけないかしら」
「そうそう、私たちはともかく、あなたたちは一応、部外者なんだから」

 フェンスの向こうで、くるりとこちらを振り返ったSクラスの女の子たちは、迷惑そうに、それでいてどこか優越感を感じさせる表情で俺たちや、フェンス越しに見ていたうちのクラスの女の子たちに言った。
 
「今日のために、シェフに頼んで、最高級のドリンクをご用意したんですの。…東雲様のお好みにぴったりのはずですわ。彼、喜んでくださるかしら」

 Sクラスの女の子たちの中に、例のスポンサーの女の子。桜庭さんの顔もあった。
 彼女は美しい顔をほんのり上気させて、なんだか高級そうなタオルと水筒を用意して、雅孝を見つめていた。

「彩乃さま、きっと喜んでいただけますわ!桜庭家のシェフって、フランスの老舗のホテルのレストランからスカウトしてきた、凄腕のシェフなんでしょう?」
「まあ~!さぞ絶品のドリンクなんでしょうね!東雲様が羨ましいわ…!」
「ほっほっほっほ!私も今朝いただいたのだけど、そこらの市販品のものとは、やはり比べ物になりませんわ!」

 お友達にほめそやされて、桜庭さんは嬉しそう。
 へえ~、最高級のスポーツドリンクかあ。凄いね。どんな味がするんだろう?
 俺はぽかんとお口をあけて聞いていたけど、フェンスのこっちの女の子たちは、悔しそうに涙をこぼしながら、唇を噛んでいた。

「きゃあ、東雲様よ!」
「こっちにいらっしゃるわ!」

 ふいに、こちらを見た雅孝が、Sクラスのマメシバ隊の二人とこちらに向かって歩いてくるのが見えて、Sクラスの女の子たちは色めき立った。

 まっすぐこっちを見て歩いてくる雅孝と目があって、俺はわけもわからずドキリと心臓が跳ね上がった。

「さあさあ、東雲様がいらっしゃいますよ!みっちゃんも!さあ!」
「みっちゃんのドリンクとタオル!東雲様、大喜び、です!」

 マメシバ隊のみんなが、俺の背中をどどんと押してくるんだけどさ。
 いやいやいや、ほかの女の子たち、シェフのお手製ドリンクとか持ってるんだよ?
 それにひきかえ、俺が持ってるのって…たまたま持って来てた、俺が普段使ってるタオルをお洗濯しただけのものと、校内の自動販売機で売ってる、100円の紙パックのバナナオーレだよ…?(いや、俺も雅孝も大好きだけどさ)
 
「「「さあ、みっちゃん、いってらっしゃい!」」」

 え、え、え、ハードル、高くない~?

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