上 下
24 / 31

24 カラダのお勉強と、ココロの準備

しおりを挟む
 晴れて恋人として、おつきあいを始めることになった俺たち。

 沢山待たせてしまったけど、雅孝には歌で素直な気持ちを伝えられたし、とても喜んでくれて、勇気を出して一歩踏み出して良かったと思う。

 いや、そこまでは、よかったんだけど…さ。

「いいか愚息よ。いくら念願叶って、最愛と交際をスタートさせられたからといって、お前たちはまだ中学生なのだぞ。…いや、嬉しいよな。嬉しいのはとてもよくわかるが…」
 
 しんなりと美しい眉を下げて、心配顔で東雲パパが言う。
 あのあと、おつきあいをスタートさせることを帰宅した東雲パパに報告したら、東雲家の本家にお勤めの屈強さんたちが、鍛え上げられた肉体に似合わぬ、きゃああという絹を裂くような可愛らしい悲鳴をあげ、あれよあれよという間に父ちゃんを呼ばれた。

「そうだぞ、雅孝くん!お前たちは、まだ中学生なんだ。交際は…いつかそうなるだろうと諦めてはいたが…その…節度をもって!清く!正しく!交際して欲しい!」

 息をきらしてお弁当屋さんからぶっとんで来てくれた父ちゃんは、物凄く必死な形相で、雅孝がハリネズミになっちゃいそうなくらい、釘を刺しまくった。

「善処します」

 にっこりと爽やかに応える雅孝。
 だけど、その大天使スマイルを見つめる東雲パパと父ちゃんは、いっそう不安感を募らせているようだった。

 まだ中学生だから、清く正しい交際をしなさいね、って言われてるだけなんだけど、その釘の刺し方が異様に必死で念入りでしつこかったので、かえって俺は不安になってしまった。

 清く正しくない交際を、そんなに雅孝がしちゃいそうってこと?
 …逆に、清くない交際ってどんなことになっちゃうの?…中学生がやっちゃいけない、すごくオトナなけしからんアレコレをしちゃうってこと?(そういうのに疎くて、正直あんまり具体的には思い浮かんでないけど)

 不安になって、そ~っとソファで隣に座っている雅孝を見上げたら、手をきゅっきゅっとつなぎながら、優しく微笑んで、ぱっちん、とウインクをしてきた。
 大天使の色っぽいウインクに、心臓がとびあがって、どっか行っちゃいそうになった。

 俺、早まっちゃった…かも?
 おつきあいを始めることになった直後だというのに、俺は早くもちょっと、後悔というには甘いような気持ちを持て余すことになったのだった。

 俺の胸騒ぎが的中したのか、翌日から、俺と雅孝の関係はがらっと変化してしまった。

 いや、男の人とのおつきあいにちょっと抵抗を感じている俺が、まずはゆっくり恋人として雅孝と一緒にいることに慣れることから始めていきたい、ってお願いしたのを快く受け入れてくれていて、雅孝は何も特別なことは要求してこなかった。
 いつも通り毎朝お迎えに来てくれて、ご挨拶をするだけなんだけど…

「みつき…。おはよう」

 そう言って、微笑んでハグして、お互いのほっぺにちゅっちゅってしあうだけなんだけどさ。

「んうっ…!ん~っ…!」

 今まで何百回もしてきたはずだったのに、雅孝は俺の恋人なんだな、と思うと、ほっぺへのキスがたまらなく恥ずかしく、くすぐったく感じた。…もちろん、自分からするのもすっごく恥ずかしくて、つい真っ赤になって震えてしまう。
 親友としていたご挨拶のキスが、相手が恋人だと思うだけで、こんなに感じ方が変わっちゃうなんて思わなかった。
 人目がある時は、あまりいちゃいちゃ恋人らしい行動はしたくないとお願いしてあるので、雅孝は運転手さんがいる送り迎えのときや、マメシバ隊のみんなや家族がいるところでもごく普通に接してくれていた。
 …それなのに、やっぱりなんか、ぜんぜん違うんだよね。

 雅孝の俺を見る時の目つきが、どうしようもなく甘くなった気がする。部屋で二人きりになったとき、手をつないだり、隣に密着して座るだけで、つい意識しすぎてぎゅっとなってしまう。

「ふふふっ…カワイイ。ゆっくり慣れていこうね、みつき」

 そんな俺を、雅孝はほほえましく見守って、励ましてくれていた。

 こんな調子で、本当にちゃんと恋人になれるんだろうか。前途多難だ…。

 マメシバ隊のみんなとかえでくんと紅林先輩に、こっそり「雅孝とおつきあいすることになったよ」って報告だけしておいたんだけどさ。事情を知ってるかえでくん、すみれくん、紅林先輩以外のメンバーは、ぽか~んとして、

「えっ…?いまさら…?」
「えっ?えっ?もうとっくに、つきあってたんじゃ…?」
「首輪…婚約…あれ?」

 って、混乱して目を白黒させてた。そのあと、じんくんたちがコソッと

「おい、だれか、急いでクラッカー買って来い。仕切り直すぞ」

 って言ってるのが聞こえちゃって、

「やめて!あれ、すっごく恥ずかしかったんだからな!ぱくーん!ってするのやめてぇ!」

 って、半泣きでお願いしたのに、結局お昼休みに、よりによって中庭の人通りが多いところで盛大にぱくーん!パチパチされてしまった。
 …家でも、家族や屈強さんにお赤飯を炊かれて、事情がよくわからないちくわぶに不思議そうに見つめられつつ、恥ずかしすぎて泣きながら食べた。
 ううっ…!おつきあいするって大変だ…。 

 そうして、わりと翻弄されながら過ごしていたある日。
 オメガだと診断されてから、月に1~2回、定期的にバース科のお医者さんに通ってるんだけど、いつもお世話になっているおじいちゃんの先生が、やさしい笑顔で俺の話を聞いてくれた。

「そうですか、素敵なパートナーができたんですね。おめでとう、みつきくん」

 先生は、俺と同じオメガで、優しくてとても話しやすいかたなので、俺はちょこちょこ近況報告をしていた。俺にはじいちゃんがいないから、いたらこんな感じだったのかなって、すごく懐いて、ちょっと聞きにくいことでも気軽にご相談させていただいている。

「へへ、ありがとうございます。…でも、男の人とのおつきあいって、まだちょっと正直怖くて、将来の…は、は、発情期…?とか、お尻からベイビーとか…そういうのが実感がぜんぜんなくて、不安なんです」

「…ふふ、わかりますよ。私もね、将来は女の子のお嫁さんをもらえたらいいな、なんて思ってたのに、オメガだと診断されて戸惑っているところに、今の夫たちにぐいぐいぐいぐい来られたもんで、毎日がジェットコースターみたいでした…。君のその思い悩む気持ちは、理解できるつもりですよ」

 そう言って、先生は左手の薬指に嵌められた、華奢で繊細なデザインの金と銀の指輪をそっと撫でた。
 …はっきりとは確認してないんだけど、俺がラストの診察だった時、時々病院の駐車場に、高級な外国のお車が停まっていることがある。スーツをびしっと隙なく着こなした双子の麗しい老紳士が、じっと人待ち顔で病院の裏口を見ているのにちょいちょい遭遇するんだけど…。
 あの双子の紳士…多分、先生の旦那さん達だよね。
 
 現在の法律では、アルファとオメガの結婚に限って、双子などとの重婚が例外的に認められているらしいんだけど。…旦那さんが二人って…ジェットコースターって、先生の人生に何があったのかちょっと気になる。
 でも、先生が指輪を触るとき、尋常じゃなく遠い目をするから、ちょっと何となく、興味本位では聞けないでいるんだよね。

「と、いうわけで、みつきくん。中学生になった君に、必要なものです。近い将来、必ず重要になってくる情報ですからね。…目をそらしたくなる内容だとは思いますが、よく読んでお勉強しておきましょうね。…知っておいた方が、君のためです」

 そう言って、先生はずっしりとした綺麗なお花の描かれた冊子を手渡してくれた。
 デジャヴュ。…ただし、表紙のお花の模様は写実的なボタニカルイラストになり、見出しには「発情期のすべて」「発情期の巣ごもり準備、チェックリストつき」なんて書かれていて、余計に不安を煽られる。

「せんせぇ、これぇ…」
「ええ、オメガについての冊子、ステップアップバージョンですよ」
「ふえぇ…読むの、こわいです…」
「…君の、ためです。」

 半泣きでイヤイヤをする俺に、先生は優しく、だが真剣に繰り返して、ずっしりと物理的にも、きっと内容も重い冊子を俺の手にしっかりと握らせたのだった。

 本当に…前途多難です!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

束縛系の騎士団長は、部下の僕を束縛する

天災
BL
 イケメン騎士団長の束縛…

婚約破棄されたら魔法使いが「王子の理想の僕」になる木の実をくれて、気付いたらざまぁしてた。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
僕は14年間の婚約者である王子に婚約破棄され、絶望で死にそうに泣いていた。 そうしたら突然現れた魔法使いが、「王子の理想の僕」になれる木の実をくれた。木の実を食べた僕は、大人しい少年から美少年と変化し、夜会へ出掛ける。 僕に愛をくれる?

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと

糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。 前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!? 「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」 激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。 注※微エロ、エロエロ ・初めはそんなエロくないです。 ・初心者注意 ・ちょいちょい細かな訂正入ります。

甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?

秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。 蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。 絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された 「僕と手を組まない?」 その手をとったことがすべての始まり。 気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。 王子×大学生 ――――――――― ※男性も妊娠できる世界となっています

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

処理中です...