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こまっちゃう俺と、男の子同士のドキドキ

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「んんっ!こまりますっ!」

 俺は、ぎゅっとされたまま、雅孝の背中をポコポコっと叩いた。あ、痛くない程度に、かる~くね。

「うん。」

 困りますって言ってるのに、雅孝は、どこか嬉しそうに、愛おしそうに抱きしめたまま動かない。

「お嫁さんって、何言ってんだよ。俺たち男の子でしょ?俺がベータだったらどうするの?男の人とは、結婚できないでしょ?」
「…オメガだよ。」

 はっ?エッ?ちょっと待って、なんで知ってるの?
  だって、内緒にしてたよね、俺がオメガだってこと。
 屈強さんたちも、雅孝には言わないって言ってくれてたもん!

「どうしてっ?ベータのほうが世の中には沢山いるんだから、ベータかもしれないだろ?」
「オメガだよ。…僕の、オメガだ。」

 確信した声で、雅孝が言う。まっすぐ強い視線でみつめて、俺のおでこに、それはそれは愛おしそうにキスをした。…こんなの、こんなの、友達のキスじゃない。

「どうしてっ…わかるのぉ…っ?」
「わかるよ。間違えたりしない。」

 どうして、そんなことがわかるんだよ。わかるわけないじゃん。俺たちはまだ子供で、フェロモンも出てないんだから。
 悔しい。がんばってオメガの事を隠してたこととか、無駄だって言われてるみたいで。…俺は、雅孝がアルファだって気が付いてなかったのに。
 それに、俺はお嫁さんが欲しいんだぞ。アルファの雅孝に、自分のオメガだって、お嫁さんにしたいって言われるのは困ります。
 
「雅孝坊ちゃま、みつき様。込み入ったお話の続きは、どうぞお車の中で。ここでは人の耳がございますし、お時間も迫っておりますよ」
「ああ、そうだな」

 その時、運転手さんがそっと車に誘導してくれた。
 たしかに、誰がいるかわからないところで、バースのお話はまずいよね。有名人の雅孝はほら、スキャンダルとかになっちゃうかもしれないし。
 俺たちは、素直に後部座席に座り、車を出してもらった。

 でもいつもと違うのは、雅孝がぎゅっと手をつないでくる事。見つめる瞳に、どうしようもなく甘さが滲んでいる事。

「みつき。僕のお嫁さんになってって言われて、どうして困っちゃうのか、言ってごらん?」
「んっと…。俺、大きくなったらお嫁さんが欲しいって思ってて…俺たち、結婚できるっていっても、男の子同士だし…」

 どうしよう。雅孝はいつもこういう話し方をするけど、やっぱりいつもと違うように感じちゃう。
 いつもなんて、もっとくっついたり、ほっぺにちゅっちゅしてたんだよ?…親友だと思われてると信じていたとはいえ、どうしてそんな大胆な事に耐えられていたのか、わからない。
 俺、どんな顔してキスされてた?
 手をつなぐことなんて、今までだって普通にしてた。ドキドキなんて、したことがなかった。なのに…雅孝の温かい手に握りこまれている手が…くすぐったい。心臓が、壊れちゃいそう。

「そう…好きな女の子はいる?たとえば、さっき可愛いって言ってた、あのスポンサーのお嬢さんみたいなのが好みのタイプ?」
「ううん!好きな女の子はいないよ。…学校の女の子たちとは、どうしてだかあんまり仲良くなれなくて。睨んでくる子や無視したり、嫌がらせする子…挨拶してくれる子もいるけど、あんまり沢山お話ししてくれないんだ…」

 しょんぼりと女の子とのご縁がないことを白状すると、雅孝はちょっと口の端を釣り上げた。

「…だろうねえ。一部の反抗的な子たちは気になるけど、みんな空気の読める、協力的な子たちで助かるよ。…ねえ、みつき」
「はえ?」
 
 なにか、低い声でぼそぼそっとつぶやいた雅孝の言葉の前半はよく聞こえなかったけど、急に呼びかけられて、お背中がしゃんとした。

「知ってた?アルファの女の子には、おちんちんがあるんだよ」
「…ッ!?」

 耳元でこっそり囁かれて、マジでびっくりして飛び上がった。

「フフッ、やっぱり知らなかった?お勉強が足りないね。…みつきって、女の子の第二性の見分け、ついてないでしょう?」
「ハイ…」

 あ、そうか。第二の性ってことは、女の子のなかにもオメガ、ベータ、アルファの子がいるんだよね。
 …見分け?つくわけないじゃん。男の子の第二の性だって、わからないのにさ。
 それに、人様をじっと見たりするの、失礼になっちゃいますし。

「この先万が一、気になる女の子ができて、ふたりきりになった途端…甘―い香りのアルファのフェロモンで動けなくされちゃって、ガブっといかれちゃったら…相手が女の子でも、お嫁さんになるのはみつきだよ?…大変!どうするの?こわいね?」
「きゃあ!…こ、こわ、こわいっ…こわいよお」

 うっそ!今世は女の子でも、俺をお嫁さんにできちゃう子がいるのっ?女の子だからって、油断できないじゃん。しかも動けなくされちゃうって何?アルファってそんな事できるの?

「だからね、みつき。男の子同士だとか、相手は女の子じゃなきゃ、だなんて結論を急がないで。僕たちはまだ、子供なんだよ。…お願いだから、僕にもチャンスを頂戴。」

 そうささやいた雅孝の声は、彼には珍しく、あまりにも自信なさげで、か弱く聞こえて…思わず雅孝の目を見つめ返した。すると、彼の目が思ったよりもずっと余裕なさそうに揺れていて…俺は、思わずつないだ手を優しく握り返した。

「みつきの前では、かっこいい僕でいたいけど。実は僕だって、自信なんかないよ。天才なんて言う人がいたって、ビビりだし、人より沢山努力しないと何もできやしない、不器用な人間なんだ。…みつきは素敵だから…子供だけじゃない。いろんな大人の優れたアルファが狙ってる…。アルファだけじゃない。ベータだって、きっと君に夢中になっちゃうよ。いつでも、誰かに取られるんじゃないかって、不安なんだっ…」

 そんなことない。俺は素敵なんかじゃない。
 本当に素敵なのは、輝いているのは雅孝だ。…そんな雅孝に、そこまで言って貰う価値が自分にあるとは思えない。
 だけど、前世からの価値観がまだ、俺の中に根強く残ってるのを感じる。
 毎日必死で努力している雅孝を元気づけてやりたい気持ちはある…けど。じゃあお嫁さんに来てくれるの?って聞かれたら…その覚悟は、まだ俺には…ない。

 何も、同性を愛する人を差別するつもりはない。だけど、そのことで、ずっと前世から親友だと思っていた雅孝のお嫁さんになることに、全く抵抗を感じなくなるのかと言われたら…やっぱり違うんだよね…。
 
 どうしよう…俺は、どうしたら…?

「ねえ、みつき。もう少し、大人になるまでに、ゆっくり考えてみてよ。僕にも時間を頂戴。せいいっぱい、みつきに振り向いてもらえるような、お嫁さんになりたいって思ってもらえるような、いい男になれるように努力するから。」
「…うん、わかった。ゆっくり考えるね。俺も努力するよ。幸せな未来のために」

 雅孝にばっかり努力させるのは、何か悔しいもんね。俺もいい男になれるように、がんばろう。そして、ちゃんと雅孝とのことも考えよう。
 どうしても男の子は無理なのか、無理じゃないのか。他の女の子のことが、好きになっちゃうのか。未来のことは、わからない。

「本当っ?ありがとう!…じゃあ、僕も今までの、友達としての関係を失うのが怖くて、アプローチは控えめにしてたんだけど…本気で行くね」
「えっ…?」
「ねえ、みつきは、本当に男の子相手だと、ドキドキ、しないの?」

 そう言って、雅孝はちょっと男の子っぽい顔で笑って、耳にちゅっとキスをした。

「きゃあっ…!」

 俺はゾクゾクッとして飛び上がった。クククッと喉の奥で笑って、雅孝が俺のお胸に手をあてた。

「僕が相手でも、すごく…ドキドキするみたいだね。よかった。じゃあ、やっぱりもう遠慮することないね」
「あの、あの、これはそのっ…ちがうのぉっ…」

 何かの間違いなんです!男の子相手に、ドキドキしちゃってるなんて…マジか俺!?

「絶対、お嫁さんになりたいって言わせてみせるよ。覚悟してね、みつき♡;」
「あううっ…」

あれっ?俺…もしかして、寝た獅子を起こしちゃいました…?
どうか…どうかお手柔らかにお願いします…。
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