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16.夫の弁明

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 目を覚ますと自分の寝室におり、使用人のハンナがベッドの横でオスカーの額の汗を拭ってくれていた。

「あ、旦那様! 奥様がお気づきになられましたよ」

 室内をうろうろしていたヘルムートが駆け寄ってくる。

「オスカー! ああ、気がついたんだな。よかった……」

 目が合うと彼は安堵した様子でオスカーの手を握った。先程皇太子と睨み合っていた雄々しさはどこへやら、ゆるみきった表情でこちらを見つめてくる。熱っぽかったので彼の手が冷たくて気持ちがいい――そう思ったとき皇太子のことを思い出しオスカーは慌てて起き上がった。

「殿下は? あれからどうなったんです?」

 大丈夫だから横になってくれ、と夫がオスカーの体を優しくベッドに寝かせる。

「殿下は諦めて帰ってくれたよ。ああ、俺がどれだけ心配したか」
「そうですか……。でもどうして侯爵様はこんな時間に帰宅されたのです?」

――ずっとこの屋敷に帰って来なかったというのに。

「ハンナが俺を騎兵隊本部まで呼びに来てくれたんだ」

 先程皇太子が来ると知らせを受けたとき、オスカーは一人では間が持たないと思った。ついでに診察もしてもらえるし、宮廷医師のフランツを呼びに彼女を宮殿に向かわせたのだった。

「お医者様を呼びに参りましたら、旦那様にもご報告しろとおっしゃいまして――」
「そうだったのか。――ところでフランツ兄さんは?」

 オスカーは部屋を見渡したが、従兄弟の姿はない。

「彼は俺と一緒にここへ来て、君を診察した後宮殿へ戻ったよ。そんなことよりどうしてずっと具合が悪かったことを俺に黙っていたんだ? こんなに痩せて、それなのに何も知らずに俺は――」

 ヘルムートから責めるような視線を向けられた。
 オスカーは彼に見捨てられた上、具合が悪いことさえも責められなければならないのかと思うと情けなくなる。
 久々に会えたというのに、自分が悪いことをしてしまった気がして涙が溢れてきた。

「申し訳ありません……。でももう僕には構わないでください。あなたを騙すようなことをしたのは謝ります。記憶を失ったあなたに愛されようだなんて馬鹿なことを考えた僕が悪いのです」

 オスカーの涙を見たヘルムートが大慌てする。

「な……っ、オスカー泣かないでくれ。俺の言い方が悪かった。謝るだなんて何を言ってるんだ? 謝るのは俺の方だ」

 彼がなんと言おうとオスカーの涙は止まらなかった。アルファのフェロモンを浴びて情緒が不安定になっているのか、いつものように感情をコントロールできない。

「あなたの記憶が戻らないのは、僕があなたに愛されたいなんて身の程知らずなことを考えたからに違いありません。謝りますから女神様、どうかお許しください」
「オスカー……。記憶の件は君のせいじゃない。俺が全部悪いんだ。本当に申し訳ない!」

 ヘルムートが突然床にひざまずき頭を下げたのでオスカーは目を丸くした。

「やめてください、侯爵様。使用人の前ですよ。本当に僕が――」
「違うんだオスカー。俺の記憶はもう全部戻っている。全て思い出したんだよ、何もかも!」

――え……?
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