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9.ケーキとフォーク

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「何……? 僕が、ケーキ……?」
「なんだ、店までつけて来たのにそれには気付いてなかったの?」
「だって、そんな――」
「いつも飲んでる薬。ケーキの匂いを抑制するための薬なんだよ」
「嘘……なんで? いつから知ってたの?」

薫はこちらを気の毒そうに眺めて言った。

「君と初めて会ったときからだよ」

(そんな――……それって、まさか……)

「唯斗、そんなに怯えた顔をしないで」
「だって……だって、それってつまり、薫はフォークってこと?」

僕は無意識のうちに彼から距離を取るために後ずさった。しかし、狭い浴室内で逃げ場はほとんど無い。すぐに壁に背中が当たって僕は動けなくなった。

「大丈夫だよ。何もしない」

彼は眉を下げて悲しそうな顔をした。僕を刺激しないためなのか、諭すようにゆっくりと言う。

「もし君を食べるつもりなら、とっくにそうしてる。ちがうか?」

たしかに僕たちはずっと二人きりで生活していた。もし彼がフォークだとして、僕のことを食べるつもりなら今ごろ僕は既に彼のお腹の中だろう。

「わかった……。薫が僕を食べる気が無いのはわかった。だけど、本当に薫はフォークなの? なんで僕を食べずに一緒に暮らしていられるの?」
「唯斗……」
「このことは誰が知ってるの? まさか、父さんも知っていたの?」
「ああ。もちろん知ってる」

(なんで……父さんも知っていたのになんでだよ?)

「どうしてフォークの薫とケーキの僕を一緒になんて住まわせようとしたんだ?」
「それはね、僕の母が君のお祖父さんのせいで死んでしまったからだよ」
「えっ?」




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