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13.大迫の謝罪と桐谷の裏の顔
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その後目が覚めると大迫が部屋に来ていた。
「あれ、大迫…?」
「美耶様」
俺は身体を起こした。さっきまでの苦しさは嘘のように消えて普通に呼吸ができる。そして異変に気づいた。
「え!待って、どうしたのその頭?」
髪を切ったってレベルじゃない。
ほとんど坊主じゃん…
俺が大迫の新しい髪型に驚いていると、彼はいきなり地べたに這いつくばった。
ーーーえ??
「私の不注意のせいで美耶様をこのような目に遭わせてしまい、申し訳ありませんでした!」
は!?
「ちょっと、やめろよ。顔を上げてよ大迫」
まさかそのせいで丸刈りにしたの?
礼央は隣で苦笑している。
俺は礼央を睨んだ。
ーーー笑ってないで助けてよ!
「なぁ、もう良いから本当に」
「………」
しかし大迫は土下座をやめない。
「怪我してる俺が直々にそっちへ行ってお前の顔を上げさせないといけないのかな?」
俺がベッドの上から不遜な態度で言うとようやく大迫は顔を上げた。
眉間には皺が寄り、歯を食いしばって顔を赤くしている。
相当悔しかったんだろう。
「なんかごめんな。俺が変なことに巻き込まれたお陰でお前のせいみたいになってるのか?」
「いいえ、完全に私の落ち度です」
「僕も大迫さんのせいじゃないって何度も話してるんですけどね。全然聞いてくれなくて参ってるんです」
ふーん…
「じゃあさ、今回の事の経緯を教えてくれよ。それで終わりにしよう。文月がお前を雇ったところまではもう聞いた」
「え、美耶さんもう礼央って呼んでくれないんだ…?」
「あ…じゃあ礼央ね」
俺は大迫に向き直る。
「なんで俺の居場所がわかったんだ?俺はあそこで誰にも見つからずに死ぬと思っていたよ」
「申し訳ありません。あなたの付き人を外れたときに、あなたの位置情報を知らせるアプリを私の端末からもあなたの端末からも削除したはずですが、嘘をついてそのまま残しました」
あー…あれか…
付き人をやって貰っているとき、大迫に俺の位置がわかるようにスマホに入れていたアプリがあった。
消したつもりだったけど残っていたんだ。
「これは立派な犯罪なのでまずこの点も謝罪します。プロとしても失格です」
「いや、でも結果的にそれのお陰で俺は助かったんだろう?」
「はい。言い訳になりますが、あなたと別れる前から光様の様子がおかしかったので万が一の時のために位置情報を把握できるようにしておきたかったんです」
「え?桐谷が?」
あいつのことだから、今回のことを聞いたら俺が死ななかったことを悔しがりそうだな。
「美耶様。光様はあなたのことを諦めたわけではありません」
え?俺ってそこまで嫌われてるわけ?怖いな。
「それどういう意味?俺、あいつに殺されるとか?」
「違います。あなたは光様に嫌われているとずっと思い込んでいらっしゃいましたよね」
「うん、そうでしょ。どこからどう見ても」
「それがまず間違いなんです。あの方はあなたにとてつもなく執着しているんです」
大迫は大真面目に言った。
ええ?そんなこと言われても…
「大迫、悪いけどそれはお前の勘違いだよ。あいつ浮気相手に俺のことマグロとか言ってるんだよ?」
それを聞いて礼央が慌てて口を挟んできた。
「マグロって!美耶さんやめて下さい下品なこと言うのは!」
「言ったのは俺じゃないって。上條って部下の女。あの女、桐谷と浮気してたんだよね」
すると大迫がマグロなんてとんでもないと鼻で笑った。
「私は酔っ払った光様と話した事がありますがね、あなたのことを自慢していましたよ。良すぎておかしくなりそうだって。Ωの身体に溺れるなんてαとして体裁が悪いから誰にも言わないけど、と私に耳打ちしてきました」
ええ?何だそれ。
俺は眉を顰めた。
「そんなの嘘だ」
「嘘じゃありません。あの方がずっと浮気していたのは何故だと思います?」
俺はムッとした。
「嫌なこと言わせるなよ…。そんなの俺じゃ不満だからに決まってるだろ」
腹が立つけど当然のように答えたら大迫は呆れたように首を振りながらため息をついた。
「はぁ。それが違うんです。あなたのことしか考えられなくるのが嫌で、他のΩと寝ていたんですよあの方は。特にあなたがヒートの時はフェロモンに抗えなくなり、仕事もままならなくなるほどで辛そうでしたね」
はぁ?何それ本当に?
俺は桐谷から「仕方ないからヒートのときだけは寝てやる」と言われていたのだ。
しかも大迫は肝心なことを忘れてるぞ。
「じゃあなんで婚約破棄したんだよ?ほら、おかしいだろ」
「そこです。それが解せなかったので私はアプリを無断で残したんです」
「どういう意味だ?」
「あんなに執着していたあなたと婚約破棄するなんておかしいということです。何かする気なんじゃないかと疑って、アプリを削除せずそれとなく行動を把握するようにしていました。そのとき私に声を掛けてきたのが文月様でした」
礼央から俺のことを訊かれて最初は警戒したが、運命の番の話をされたことと現在の礼央の素性が確かだったことから信じることにしたらしい。
大迫としては、桐谷よりは安全だと思ったのだそうだ。
そしてある日大迫は仕事で桐谷と顔を合わせたときに物騒なことを聞いた。
「光様は、婚約破棄した後あえてあなたを窮地に追い込み、居場所を失って傷ついたあなたを捕まえて別宅で飼うつもりだと言いました。その際はまた私に護衛を頼みたいと。私は耳を疑いました」
「ーーー飼う?」
次から次へと出てくる信じがたい話に目眩がしてきた。
「あの方のあなたへの執着ははもう病気の域です。それで、私はあなたと光様が接触しやしないかとそれだけを心配していました」
大迫は当日のことを思い出したためか、顔を顰めた。
「あの日、あなたの現在地が歓楽街に入っていることはわかっていました。しかし、あの晩光様は接待で遠く離れた位置におり接触する可能性は低いと思って油断していました。あなたの現在地がホテルに入ったときも、そういうこともあるだろうと深く考えず、光様との距離が開いているため安心していました。しかし、その後気づいたら何も無い道端で現在地がずっと動いていないことに気づきました。そこで初めて私はおかしいと思い、現地に向かいました。すると、あなたの鞄が落ちていてスマートフォンはそこに放置されていました」
ここからは聞かなくてもわかるが、大迫は続けた。
「位置情報がわからなくなったので、あなたを探すのに手間取って結局助けるのが間に合わなかったのです。一生の不覚です。歓楽街に入った時点で、現地へ向かうべきだったんです。そうすればせめてもう少し早く助けられたのに…!」
本当に申し訳ありませんでしたと言って大迫はまた頭を下げた。
俺は当日のことをあれから初めて詳しく思い出していた。
男に連れ去られた時点で、大迫が以前のように護衛についていたらと思わなかったといえば嘘になる。
だが、大迫のせいではない。
礼央が俺に向って言う。
「僕が大迫さんにお願いした仕事はあくまでも桐谷さんから美耶さんを守ってほしいということでした。だから今回のことは責めないであげてほしいんです」
「それは勿論だよ。むしろ、見つけてくれてなかったら死んでたと思うし。ありがとう大迫」
大迫は無言で首を振った。
そして礼央がその先を続けた。
「あれから大迫さんに頼んであの日美耶さんをホテルに連れ込んだ2人組を調べてもらったら、なんと桐谷さんの雇った人間だったんです」
「ええっ!?」
俺は思わず身体を起こしてしまい、肋骨の痛みにうめいた。
「いてて、なんで?なんで桐谷が?」
どういうこと?もう頭が回らない。
あの2人が桐谷の差金だったってこと?
「あれ、大迫…?」
「美耶様」
俺は身体を起こした。さっきまでの苦しさは嘘のように消えて普通に呼吸ができる。そして異変に気づいた。
「え!待って、どうしたのその頭?」
髪を切ったってレベルじゃない。
ほとんど坊主じゃん…
俺が大迫の新しい髪型に驚いていると、彼はいきなり地べたに這いつくばった。
ーーーえ??
「私の不注意のせいで美耶様をこのような目に遭わせてしまい、申し訳ありませんでした!」
は!?
「ちょっと、やめろよ。顔を上げてよ大迫」
まさかそのせいで丸刈りにしたの?
礼央は隣で苦笑している。
俺は礼央を睨んだ。
ーーー笑ってないで助けてよ!
「なぁ、もう良いから本当に」
「………」
しかし大迫は土下座をやめない。
「怪我してる俺が直々にそっちへ行ってお前の顔を上げさせないといけないのかな?」
俺がベッドの上から不遜な態度で言うとようやく大迫は顔を上げた。
眉間には皺が寄り、歯を食いしばって顔を赤くしている。
相当悔しかったんだろう。
「なんかごめんな。俺が変なことに巻き込まれたお陰でお前のせいみたいになってるのか?」
「いいえ、完全に私の落ち度です」
「僕も大迫さんのせいじゃないって何度も話してるんですけどね。全然聞いてくれなくて参ってるんです」
ふーん…
「じゃあさ、今回の事の経緯を教えてくれよ。それで終わりにしよう。文月がお前を雇ったところまではもう聞いた」
「え、美耶さんもう礼央って呼んでくれないんだ…?」
「あ…じゃあ礼央ね」
俺は大迫に向き直る。
「なんで俺の居場所がわかったんだ?俺はあそこで誰にも見つからずに死ぬと思っていたよ」
「申し訳ありません。あなたの付き人を外れたときに、あなたの位置情報を知らせるアプリを私の端末からもあなたの端末からも削除したはずですが、嘘をついてそのまま残しました」
あー…あれか…
付き人をやって貰っているとき、大迫に俺の位置がわかるようにスマホに入れていたアプリがあった。
消したつもりだったけど残っていたんだ。
「これは立派な犯罪なのでまずこの点も謝罪します。プロとしても失格です」
「いや、でも結果的にそれのお陰で俺は助かったんだろう?」
「はい。言い訳になりますが、あなたと別れる前から光様の様子がおかしかったので万が一の時のために位置情報を把握できるようにしておきたかったんです」
「え?桐谷が?」
あいつのことだから、今回のことを聞いたら俺が死ななかったことを悔しがりそうだな。
「美耶様。光様はあなたのことを諦めたわけではありません」
え?俺ってそこまで嫌われてるわけ?怖いな。
「それどういう意味?俺、あいつに殺されるとか?」
「違います。あなたは光様に嫌われているとずっと思い込んでいらっしゃいましたよね」
「うん、そうでしょ。どこからどう見ても」
「それがまず間違いなんです。あの方はあなたにとてつもなく執着しているんです」
大迫は大真面目に言った。
ええ?そんなこと言われても…
「大迫、悪いけどそれはお前の勘違いだよ。あいつ浮気相手に俺のことマグロとか言ってるんだよ?」
それを聞いて礼央が慌てて口を挟んできた。
「マグロって!美耶さんやめて下さい下品なこと言うのは!」
「言ったのは俺じゃないって。上條って部下の女。あの女、桐谷と浮気してたんだよね」
すると大迫がマグロなんてとんでもないと鼻で笑った。
「私は酔っ払った光様と話した事がありますがね、あなたのことを自慢していましたよ。良すぎておかしくなりそうだって。Ωの身体に溺れるなんてαとして体裁が悪いから誰にも言わないけど、と私に耳打ちしてきました」
ええ?何だそれ。
俺は眉を顰めた。
「そんなの嘘だ」
「嘘じゃありません。あの方がずっと浮気していたのは何故だと思います?」
俺はムッとした。
「嫌なこと言わせるなよ…。そんなの俺じゃ不満だからに決まってるだろ」
腹が立つけど当然のように答えたら大迫は呆れたように首を振りながらため息をついた。
「はぁ。それが違うんです。あなたのことしか考えられなくるのが嫌で、他のΩと寝ていたんですよあの方は。特にあなたがヒートの時はフェロモンに抗えなくなり、仕事もままならなくなるほどで辛そうでしたね」
はぁ?何それ本当に?
俺は桐谷から「仕方ないからヒートのときだけは寝てやる」と言われていたのだ。
しかも大迫は肝心なことを忘れてるぞ。
「じゃあなんで婚約破棄したんだよ?ほら、おかしいだろ」
「そこです。それが解せなかったので私はアプリを無断で残したんです」
「どういう意味だ?」
「あんなに執着していたあなたと婚約破棄するなんておかしいということです。何かする気なんじゃないかと疑って、アプリを削除せずそれとなく行動を把握するようにしていました。そのとき私に声を掛けてきたのが文月様でした」
礼央から俺のことを訊かれて最初は警戒したが、運命の番の話をされたことと現在の礼央の素性が確かだったことから信じることにしたらしい。
大迫としては、桐谷よりは安全だと思ったのだそうだ。
そしてある日大迫は仕事で桐谷と顔を合わせたときに物騒なことを聞いた。
「光様は、婚約破棄した後あえてあなたを窮地に追い込み、居場所を失って傷ついたあなたを捕まえて別宅で飼うつもりだと言いました。その際はまた私に護衛を頼みたいと。私は耳を疑いました」
「ーーー飼う?」
次から次へと出てくる信じがたい話に目眩がしてきた。
「あの方のあなたへの執着ははもう病気の域です。それで、私はあなたと光様が接触しやしないかとそれだけを心配していました」
大迫は当日のことを思い出したためか、顔を顰めた。
「あの日、あなたの現在地が歓楽街に入っていることはわかっていました。しかし、あの晩光様は接待で遠く離れた位置におり接触する可能性は低いと思って油断していました。あなたの現在地がホテルに入ったときも、そういうこともあるだろうと深く考えず、光様との距離が開いているため安心していました。しかし、その後気づいたら何も無い道端で現在地がずっと動いていないことに気づきました。そこで初めて私はおかしいと思い、現地に向かいました。すると、あなたの鞄が落ちていてスマートフォンはそこに放置されていました」
ここからは聞かなくてもわかるが、大迫は続けた。
「位置情報がわからなくなったので、あなたを探すのに手間取って結局助けるのが間に合わなかったのです。一生の不覚です。歓楽街に入った時点で、現地へ向かうべきだったんです。そうすればせめてもう少し早く助けられたのに…!」
本当に申し訳ありませんでしたと言って大迫はまた頭を下げた。
俺は当日のことをあれから初めて詳しく思い出していた。
男に連れ去られた時点で、大迫が以前のように護衛についていたらと思わなかったといえば嘘になる。
だが、大迫のせいではない。
礼央が俺に向って言う。
「僕が大迫さんにお願いした仕事はあくまでも桐谷さんから美耶さんを守ってほしいということでした。だから今回のことは責めないであげてほしいんです」
「それは勿論だよ。むしろ、見つけてくれてなかったら死んでたと思うし。ありがとう大迫」
大迫は無言で首を振った。
そして礼央がその先を続けた。
「あれから大迫さんに頼んであの日美耶さんをホテルに連れ込んだ2人組を調べてもらったら、なんと桐谷さんの雇った人間だったんです」
「ええっ!?」
俺は思わず身体を起こしてしまい、肋骨の痛みにうめいた。
「いてて、なんで?なんで桐谷が?」
どういうこと?もう頭が回らない。
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