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1.最上級Ω人生初の挫折
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俺は結婚を目前にしてオメガ専門の産科に来ていた。
そして医師からブライダルチェックの検査結果を聞いて愕然とした。
「え…?」
「もう一度言いますね。残念ですが、検査の結果神崎さんは体質的に妊娠しにくい……要するに不妊症のようです」
これが俺の人生初めての挫折の瞬間だった。
「嘘だ…俺が不妊…?」
これまでの人生、全てにおいて俺、神崎美耶は勝ってきた。
生まれはΩの名家と名高い格式ある家柄で、その長男。産まれた時から玉のような美しさと讃えられて蝶よ花よと育てられた。17歳で初の発情期を迎えてからは清楚な美しさに艶麗さが加わったと評判で、32歳になった今も容姿は衰えることなく美しすぎて話しかけ難いと言われるほどだ。
艶のある黒い髪、白い肌にはシミ一つない。まなじりの上がった大きな目、小鼻は小さく控えめで、唇は熟れた苺のように赤い色をしている。
見た目の美しさだけでなく、文武両道で勉強も出来たしスポーツもなんでもこなした。体力的にどうしてもαには劣るが、βの男に負けることはほとんどなかった。
仕事も責任あるポジションでチームを引っ張ってきた。入社から8年できちんと実績も残しており、社内でも出世頭の一人として名を連ねている。
Ωだからと勝負を諦めるのが嫌で、自分にも他人にも厳しく生きて来た。
そんな俺は幼馴染の桐谷光の許嫁として、正式な婚約発表前から周りにも認知されていた。もちろん桐谷はα性で、名門の家系だ。俺が勤務する会社の次期社長で、現社長の長男。
α男性の例に漏れず高身長の美青年で、勉強もスポーツも常にトップクラス。
そんなαたちの中でも特に気位が高く、俺のような甲種Ωが恋人で当然という顔をしている。
しかし性格はお世辞にも良いとはいえない。自分がなんでも他人よりできることを鼻にかけているし、俺に見つかっていないと思って適当な相手と常に浮気もしている。
それは俺にも問題がある。俺はこだわり強くて少し口うるさい。仕事が忙しくて普段からちょっとピリピリしている自覚もある。
だから俺のようなタイプじゃないもっとふんわりした感じのΩとよく遊んでいるようだ。
でも、俺はそれで桐谷との関係がうまく行くならと浮気を黙認していた。
きっと結婚してもこのような関係は続くだろうと思っていた。
それに俺も桐谷に心底惚れているわけでもないので、正直あいつがどこで誰と浮気していようと家に泥を塗るようなことをしない限りはどうでもいいと思っていた。
それなのに。
「婚約破棄…?」
「ああ。悪いが桐谷家に不妊の嫁はいらないからな」
「だって…でも、治療さえすれば妊娠できるかもって先生が…」
「かも、だろ?もし妊娠できなかったらどうしてくれる?俺は会社を背負って立たなきゃならないんだぞ。
跡継ぎがいなくてどうするんだ。それに桐谷家の嫁がΩなのに不妊治療してるなんて外聞が悪すぎる」
「それは…そうだけど…」
一緒に乗り越えようとか、無いんだ…
結構長いこと一緒に暮らしてたし、そんなに仲良くはないけど一応恋人のつもりだったのに。
呆然としていると桐谷は冷めた目でショックを受ける俺に追い討ちをかけて来た。
「お前の親はもう了承済みだから荷物は実家に送り届けることになってる。身のまわり品の整理をして今週中にこのマンションを出てってくれ」
「え!?今週中!?待ってよ、今週までの仕事があってそんなことしてる時間…」
「あー、うるさいな。いつもいかにも仕事出来ますみたいな顔してるくせに引越しくらいまともにできないのか?」
俺は腹が立ったがこの男にこれ以上言い返しても無駄だと思って文句を飲み込んだ。
「まったく…ヒートの度に中出ししてやってるのに妊娠しないからおかしいと思ってたんだよ。まさか本当に不妊の出来損ないだったとは」
出来損ない?
検査結果聞いて傷ついてるΩ相手によくもそんなことが言えるな。
性格破綻男め…
どうせ浮気相手に来週からこの部屋に越して来いとか言ったんだろう。それで俺の引っ越しを急かしてるんだ。
「結婚前にブライダルチェックをしておいて良かったよ。結婚後だったら離婚するのが面倒なところだった。それにしてもあの神崎の長男がこんなポンコツだったとは呆れるね。うっかりハズレクジを引くところだった」
桐谷の悪態を聞いてたら目眩がして来た。
「じゃあ…俺は荷物の整理があるから、これで」
「さっさとしてくれよ、顔だけ美人の役立たず不妊Ωちゃん」
このろくでなしの言葉にいちいち反応していたらキリがない…聞き流すんだ…
俺は拳を握りしめて耐えた。
そしてなるべく頭の中を空っぽにするようにして荷造りを始めた。
そして医師からブライダルチェックの検査結果を聞いて愕然とした。
「え…?」
「もう一度言いますね。残念ですが、検査の結果神崎さんは体質的に妊娠しにくい……要するに不妊症のようです」
これが俺の人生初めての挫折の瞬間だった。
「嘘だ…俺が不妊…?」
これまでの人生、全てにおいて俺、神崎美耶は勝ってきた。
生まれはΩの名家と名高い格式ある家柄で、その長男。産まれた時から玉のような美しさと讃えられて蝶よ花よと育てられた。17歳で初の発情期を迎えてからは清楚な美しさに艶麗さが加わったと評判で、32歳になった今も容姿は衰えることなく美しすぎて話しかけ難いと言われるほどだ。
艶のある黒い髪、白い肌にはシミ一つない。まなじりの上がった大きな目、小鼻は小さく控えめで、唇は熟れた苺のように赤い色をしている。
見た目の美しさだけでなく、文武両道で勉強も出来たしスポーツもなんでもこなした。体力的にどうしてもαには劣るが、βの男に負けることはほとんどなかった。
仕事も責任あるポジションでチームを引っ張ってきた。入社から8年できちんと実績も残しており、社内でも出世頭の一人として名を連ねている。
Ωだからと勝負を諦めるのが嫌で、自分にも他人にも厳しく生きて来た。
そんな俺は幼馴染の桐谷光の許嫁として、正式な婚約発表前から周りにも認知されていた。もちろん桐谷はα性で、名門の家系だ。俺が勤務する会社の次期社長で、現社長の長男。
α男性の例に漏れず高身長の美青年で、勉強もスポーツも常にトップクラス。
そんなαたちの中でも特に気位が高く、俺のような甲種Ωが恋人で当然という顔をしている。
しかし性格はお世辞にも良いとはいえない。自分がなんでも他人よりできることを鼻にかけているし、俺に見つかっていないと思って適当な相手と常に浮気もしている。
それは俺にも問題がある。俺はこだわり強くて少し口うるさい。仕事が忙しくて普段からちょっとピリピリしている自覚もある。
だから俺のようなタイプじゃないもっとふんわりした感じのΩとよく遊んでいるようだ。
でも、俺はそれで桐谷との関係がうまく行くならと浮気を黙認していた。
きっと結婚してもこのような関係は続くだろうと思っていた。
それに俺も桐谷に心底惚れているわけでもないので、正直あいつがどこで誰と浮気していようと家に泥を塗るようなことをしない限りはどうでもいいと思っていた。
それなのに。
「婚約破棄…?」
「ああ。悪いが桐谷家に不妊の嫁はいらないからな」
「だって…でも、治療さえすれば妊娠できるかもって先生が…」
「かも、だろ?もし妊娠できなかったらどうしてくれる?俺は会社を背負って立たなきゃならないんだぞ。
跡継ぎがいなくてどうするんだ。それに桐谷家の嫁がΩなのに不妊治療してるなんて外聞が悪すぎる」
「それは…そうだけど…」
一緒に乗り越えようとか、無いんだ…
結構長いこと一緒に暮らしてたし、そんなに仲良くはないけど一応恋人のつもりだったのに。
呆然としていると桐谷は冷めた目でショックを受ける俺に追い討ちをかけて来た。
「お前の親はもう了承済みだから荷物は実家に送り届けることになってる。身のまわり品の整理をして今週中にこのマンションを出てってくれ」
「え!?今週中!?待ってよ、今週までの仕事があってそんなことしてる時間…」
「あー、うるさいな。いつもいかにも仕事出来ますみたいな顔してるくせに引越しくらいまともにできないのか?」
俺は腹が立ったがこの男にこれ以上言い返しても無駄だと思って文句を飲み込んだ。
「まったく…ヒートの度に中出ししてやってるのに妊娠しないからおかしいと思ってたんだよ。まさか本当に不妊の出来損ないだったとは」
出来損ない?
検査結果聞いて傷ついてるΩ相手によくもそんなことが言えるな。
性格破綻男め…
どうせ浮気相手に来週からこの部屋に越して来いとか言ったんだろう。それで俺の引っ越しを急かしてるんだ。
「結婚前にブライダルチェックをしておいて良かったよ。結婚後だったら離婚するのが面倒なところだった。それにしてもあの神崎の長男がこんなポンコツだったとは呆れるね。うっかりハズレクジを引くところだった」
桐谷の悪態を聞いてたら目眩がして来た。
「じゃあ…俺は荷物の整理があるから、これで」
「さっさとしてくれよ、顔だけ美人の役立たず不妊Ωちゃん」
このろくでなしの言葉にいちいち反応していたらキリがない…聞き流すんだ…
俺は拳を握りしめて耐えた。
そしてなるべく頭の中を空っぽにするようにして荷造りを始めた。
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