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なんでお前はつきまとってくるんだよ

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俺は毒親家庭で育った貧乏オメガ、美浜圭みはま けい
父親が誰かもわからないらしく、シングルマザーの母は自分にしか興味のない人だ。SNSに載せるため、俺が幼稚園の頃まではカメラの前でだけ可愛がるふりをしてくれた。

小学生にもなるとそれすらなくなって見向きもされなくなった。オメガの俺が問題を起こしたり具合悪くなって親が学校に呼ばれでもしたらガチギレされる。だから俺は優等生になり、なるべく母親に怒られないようにすることを学んだ。

小学校四年の時同じクラスになった和泉誠也いずみ せいやという男子がやたら絡んできた。そいつはどこかの御曹司でいつも上等な服を着ていた。文房具なども他の子とは違うものを使っていて、いらないからあげると言って俺の好みじゃない妙に可愛いキャラものの消しゴムや鉛筆をくれた。(戦隊ものの方が好きだったのに)
そしてそいつが俺のことを「匂う」と言って茶化してきて、そのお陰で俺はみんなからバイキン扱い。

それも仕方ないことだった。母親の機嫌次第で毎日は風呂に入らせてもらえなかったし、服も何年も数少ないものを着回していたから。冬でもサイズの合わなくなった薄い夏物の服を着て、室内でも上着を羽織ってしのいでた。だから本当に臭かったのかもしれない。

ただし後からわかることだけど、あいつが俺を匂うと言ってたのは俺が風呂に入ってなかったからじゃない。俺がオメガで、あいつがアルファだったからだ。

小学六年生のとき放課後にあいつと二人きりになり「ミルクみたいな甘い匂いする」と言われてあいつに耳の後ろを舐められたことがある。
マジで気色悪かったし、急に体が熱くなって「こいつに食われて俺は死ぬんだ」って覚悟までしたほど怖かった。
それなのに体が動かなくて金縛りにあったみたいに俺はあいつに舐められるままになってた。あいつのフェロモンのせいで変なとこがむずむずして動けなかったんだ。屈辱だった。

和泉は中学受験して私立学校に行き、俺みたいな底辺のオメガとはクロスしない人生を送ることになった。
俺は心底ほっとした。そして母親は俺が高校三年のときに酒の飲み方が悪くて死んで、その保険金で俺は奨学金を借りることなく大学に通えることになった。
俺のことを薄情だと思う人もいるかもしれないけど、本当にあの母親に母親らしいことされた記憶がない。高校入ったら家賃を出してもらってる以外は食費さえもらえなかった。だから俺はバイトして自分の生活費を稼いでた。酒代や男に貢ぐために俺の稼ぎを母親にかすめ取られてたくらいだから、母親はいないほうが俺にとってはプラスだった。
友達の兄ちゃんの制服をおさがりでもらったり、参考書を貰ったりと恥ずかしいこともなんだってやった。小学校のときバイキン扱いされていじめられてたことを考えればそれくらいなんてことはなかった。

これで大学からは俺のことを知る奴もいなくて、母親もいなくなって、過去とは決別し貧乏じゃない新しい俺として生きられる。
――はずだった。

「あれ、お前――美浜圭?」

入学後のオリエンテーションで目の前が真っ暗になった。だって、俺は知らんぷりしたかったけどどうやってもこいつが誰なのかはっきりわかってしまったから。

「和泉……」

和泉は小学校のときの面影を残したまま、アルファらしく長身の美形に育っていた。

「久しぶりだな。お前この大学だったんだ?」 

わりとレベルが高い大学で、俺はかなり努力してここに補欠合格で入学できたのだ。

「ああ。結構勉強して――」
「昔から頭良かったもんな。でもそれより学費は大丈夫なのか? あ、奨学金か」
「え……?」
「お前んち貧乏だったろ? 俺がいろいろあげてたよな。お下がりとか」

俺はこいつの発言に冷や汗をかいた。
周りにはこいつの取り巻きみたいな金持ちそうな奴らがうじゃうじゃいるのに、その前で俺のことを貧乏だと言いやがった。

「――そうだっけ」
「なんだよ忘れたのか? 薄情な奴だな。でもお前は変わってなくて良かったよ」
「何が?」

 和泉がサッと屈んで俺の耳元で囁く。

「見た目も、その匂いもな」

無駄にイケメンな顔で爽やかに笑った。近づいた時に鼻をくすぐったあいつの香りがあの頃のままで、また金縛りみたいに動けなくなる。
――終わった……。

やっとしがらみから解放されて自由になったと思ったのに。もう俺は貧乏なんかじゃない、平凡な大学生のはずなのに。声のでかいアルファが言えば周りは全員それを信じる。
今は小学校時代みたいに風呂に入れないなんてこともない。夜に風呂に入っても朝シャワーを浴びるし、髪だって定期的に店で整えてる。服も、友達と遊ぶのに恥ずかしくない程度には買い揃えて新学期に臨んだっていうのに――。

「また会えて嬉しいよ」

俺はもう一生会いたくなかったよ。

「学部の新歓飲み来るよな? また仲良くしよう、美浜」

俺は呆然と立ち尽くしたまま何も返事できなかった。

俺の計画は水の泡で、キャンパスライフがはじまって二週間で俺は貧乏人だと知れわたった。発信力の強いアルファとの再会に感謝。まじで◯んでくれないかな。

飲み会では開き直って貧乏人らしくおごりだからとフェロモンジュース(※オメガやアルファが飲むと酩酊感を得られる合法ジュース)を飲みまくってやった。そしてそのままお持ち帰りされた。誰にって? 和泉にだよ。
何もかもどうでも良くなって、どうせなら金持ち男と寝てやるって気分だった。あのクソアルファ和泉とワンナイトなんて笑えるよな?

「本当にいいの、美浜?」
「良いからやれよ」
「初めてなんだろ? 痛くない?」
「痛くしたらコ◯す」

アルファのイケメン様にきっちり奉仕させてやったよ。まあ、悪くなかった。翌日はケツが痛くて動けなかったので和泉をパシリにしてやった。



その後あいつがすげーベタベタしてくるから「一度寝たくらいで彼氏面すんな」と言ってやった。
そしたら和泉のやつ鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔してた。
「怒ってるのか」って聞いてくるから「怒ってる」と言うと、気分転換しようって。
「旅行に連れてく」って言うから「ハワイに行きたい」ってジョークを言ったら本当にチケットを取りやがった。
俺はパスポートを持ってなくてその旅行はキャンセルしたけど、今度連れてくからってパスポートは作らされた。

もう、こいつから今まで受けた被害に対する慰謝料だと思って全部受け取ってやることにした。だけど、家電やらインテリアやらいらないものをたくさん贈られても困る。
置く場所もないから返そうとしたら、あいつの部屋に置いていいからお前も来いって。一緒に住みたいっていう意味らしい。家賃が浮くならまあいいかとあいつの部屋でルームシェアすることにした。
追い出されることになったら、あいつから引っ越し資金をふんだくってやる。

しかしあいつと同居してたらまずいことになった。
一緒に暮らしてみて、思いのほか俺に尽くしてくる和泉に引きながら適当にあしらってるんだが、たまにヤツのことが可愛く見えるのだ。
俺はフェロモンのせいで頭がおかしくなったらしい。このクソのせいでクソみたいな人生を送ってきたっつーのに。
よくわからないが、とにかく俺はおかしくなったみたいだ。

するとある日、部屋にオバサンが来た。あいつの母親だ。金持ちの母親はさぞかし性格がいいのだろうと思ったら、こっちはこっちで俺の母親とは別のタイプのクズだった。金は性格に関係ないらしい。
俺のことを「和泉家の財力に群がるハエ」だと言った。初対面の相手にハエって言うなんてどういう教育を受けてるんだ?
だから言ってやった。「あんたのしつけが悪いから節操のない下半身の息子に処女を奪われたんだ」ってな。
そしたら「ハエの処女に価値なんてない」って言われたけど(たしかに)、その辺も全部録音して和泉に聞かせてやったらあいつ真っ赤な顔して泣いて土下座してきた。

「捨てないで」って言われて、「別に和泉は俺の所有物じゃないから捨てるも何もない」って言ったらもっと大泣きされた。
なんでアルファって外では偉そうにしてるくせにこんなに面倒くさいんだよ? 
こいつの顔が俺の好みじゃなくて、こいつのセックスが死ぬほど気持ちよくなかったら荷物まとめて出ていってるけど残念ながらどっちも好みのど真ん中だからベッド行けば俺の機嫌は治る。

「圭……ごめんね」

バックから攻められて段々いい気分になってきた。

「黙って腰振れ」
「気持ちいい?」
「いいから、もっと」
「奥?」
「ん……っ」

あいつのもので奥を突かれて、フェロモンで頭がふわふわする。あの母親腹立つな……和泉はもうお前のものじゃねえんだよ。

「圭、圭……もう出そう」
「そのまま出せよ」
「えっ、いいの? 前は絶対ダメって――」
「いいから黙ってやれ」

俺がそう言うと、和泉は「好き」と何度も言いながらガンガン突き上げてくる。うなじにフーフーあいつの息がかかって、その甘い匂いに興奮した俺は思わず「噛め、和泉」と言ってしまった。
だって中出しされながら噛まれるのすげー気持ち良さそうって本能的に思っちゃったんだよな。
うなじでブツっと犬歯の刺さる音がし、痛みと快感がいっしょになって襲ってきた。それと同時に和泉は「イク」と呟いて俺の体を押しつぶす勢いで注ぎ込んできた。ドクドクと脈打ちながら、俺の子宮がアルファの精液を飲み込む。俺も痙攣しながら、知らぬ間に射精していた。

「はぁっ、あ……和泉……」
「圭、まだ中で出てるのわかる?」

そう言って和泉が俺の腹を撫でる。
アルファの射精長すぎだろ。気持ちよくて頭おかしくなりそ……。
さっきまで和泉の母親に怒ってたのなんて吹っ飛ぶくらいの快感だった。
この性格は母親譲りだと最近気づいて、どうしようもない遺伝だなと思った。

自分の母親と比べて救いなのは、俺には俺のことが好きでたまらないアルファの同居人がいるってこと。
そいつはお坊ちゃん育ちで、純粋で、バカだから好きなオメガに「良い匂いがする」って言わずに「匂う」と言ってしまう。
久々に再会したら、相手の知られたくない「貧乏」という秘密を第一声でバラしてしまう。
本当に頭の悪いワンワンだ。しかも母親は救いようのない差別主義者。あの女と夫婦生活してる和泉の父親を尊敬するね。(後日父親からも謝罪された)
でもあのひねくれ女から産まれてここまでまっすぐに育った和泉は偉い。そこだけは褒めてやる。

「俺が圭も赤ちゃんも守るから!」
「あの母親の言うこと聞いてたらお腹の子の胎教に悪いんだよ。もう来させるな」
「ごめんね圭ちゃん。父さんに頼んで内緒で引っ越す?」
「ばか、どうせ無駄だろ」
「俺が仕事始めたらもう母さんには何も言わせないから。それまで待ってて」

しょうがねえ、お腹の中の子どもは一緒に育ててやる。



end


⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*  

ご覧いただきありがとうございます。
他の作品を書いてる最中にパッと思いついてガーっと書いたので細かいことは気にせずにサラッと読んでいただけたら幸いです。
新歓でまだ酒飲めないじゃんって書いた後気づいて謎のジュースを生み出してしまいました。ご笑納ください。

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