上 下
32 / 66
同居編

2人の愛の住処に邪魔者現る?(2)

しおりを挟む
新人の本庄はたまにミスはやらかすものの一生懸命仕事を覚えてそこそこの戦力になるようになった。前の支店での指導も良かったようだ。

ある程度慣れてきたところで、金曜日の夜に歓迎会が開かれた。
本庄はザルで何でも飲んだし飲んでも顔色ひとつ変わらなかった。

「何だお前~酔わんのか?つまらんやっちゃな~」

「飲み足りないんだろ、もっと飲め飲め!」

「はーい!ありがとうございます」

上司に絡まれてもニコニコ対応してる。
大した奴だ。
俺は少し離れた席で後輩を眺めながら女性職員たちと談笑していた。
そしてうっかり飲みすぎて気付いたらテーブルに突っ伏していた。

あれ…やべ、身体がうまく動かないぞ…

「ねぇねぇ~、誰か池沢くん送っていける人ー!」

「はーい、俺行きます」

本庄の声だ。

「え?でも今日の主役が二次会行かなくてどうするの?」

そうだそうだ。

「いやー、俺実家なんすよ。終電逃したら怒られるんでここで失礼します!」

「あら、最近の子は真面目ねぇ」

えー?いいのか?

「せーんぱい!大丈夫っすか?も~仕方ないですねぇ。俺が送ってきますね」

え…?お前向こうで支店長と飲んでたんじゃ…

「じゃあ、本庄くんお願いね」

「今日は皆さんありがとうごばいました!お疲れ様でした~」

ざわざわする店内を抜けて、本庄は俺を担いでタクシーに押し込んだ。

「先輩大丈夫?住所言える?」

俺は何とか住所を伝えてタクシーで送ってもらった。上司が気を利かせて、送り役を買って出た本庄にタクシー代を渡してくれていた。やべー。これは週明け俺が怒られるやつ…

「ほら、降りますよ!歩けます?肩貸しますから」

「ありやと~」

「何階の何号室?鍵は?鞄の中?」

「かばんのポケット~ななかい~ななまるに~」

「はいはい…」

本庄が俺を片手で肩に抱えたまま何とか部屋の鍵を開けようとするが、なかなかうまくささらずガチャガチャやっている。

すると中からドアが開いた。篠田だ。

「一樹さん?もう帰ったの?」

「あ…!」

「あ~しのだぁ~。池沢一樹、ただいま帰りましたっ!あはは」

「あの、自分は池沢さんの後輩の本庄です!池沢先輩をお送りしました!」

「あー…この酔っ払いを…ごめんね、ありがとう。コーヒーでも飲んでってよ」

「はい!」

俺は篠田の部屋のベッドに転がされた。
開け放ったドアからリビングの声が途切れ途切れに聞こえてくる。

「やっぱり本社の篠田さんですよね!前の支店にいた時……」

「君が新しく……池沢さんの…」

そして俺はそのまま意識を手放し眠りについた。

翌朝目を覚ますと、横に篠田の姿は無かった。
休日なのに珍しく先に起きたのかな?と思ったが、そうではなく篠田は別室で寝たらしい。
というのも、リビングのソファで大男が寝こけていたのだ。

「あ…本庄…?」

そうか、昨夜俺を送ってくれてそのまま泊まったんだ。
篠田は本庄の手前俺と一緒のベッドに寝るわけにもいかず、いつも弟が泊まるとき用の布団を別室に敷いて寝たらしい。

俺が飲みすぎたせいで皆さんすいませーん…

お詫びの意味を込めて朝食の支度をした。
キッチンが騒がしくなったのでまずリビングの本庄が目を覚ました。

「おはようございます…」

「あ、起きたか。おはよう。昨日はすまなかったな」

「あ、いえ全然。むしろ俺こそ泊めていただいてすみませんでした。篠田さんと話してたら終電逃しちゃって。ルームシェアしてたんですね」

「ああ、そうなんだよ」

「びっくりしました。鍵開けようとしてたら本社の見たことある人がドア開けて出てきたんですもん」

「あはは、そうだよな。ごめん言っておけばよかったな」

その後篠田も起きてきて皆で朝食をとった。
本庄は食べながら言う。

「自分実家暮らしなのでルームシェアなんて羨ましいです。俺もここに住みたいです~。篠田さん、床で寝ても良いからここに俺も住んじゃだめですか?」

篠田は笑って流していた。
おいおい、いくら人懐っこいからって図々しい奴だな。
コミュ力おばけ過ぎてこええわ。

その翌週、普通に仕事していたら、給湯室で本庄が後ろから声を掛けてきた。

「あれ?先輩ここ、赤くなってますよ。虫刺されかな?」

いきなりワイシャツの首の後ろに指を入れられて俺はビクッとした。

「え?あ、ああ。そういや昨日部屋の中にデカい蚊がいたよ」

「ふーん、そうですか」

篠田め、見える位置に痕付けたな?
いや、本庄がデカ過ぎて普通の人なら見えない角度から見えたのか…

その時はただそう思っただけだったが、それから不思議と本庄が俺に触ってくるようになった。
気のせいかも知れないレベルだが、物を受け渡すときに手を触られたり、何かある度に肩に触れてきたり腰に手を回されたり…
なんとなくちょっとゾワッとするような触れ方をしてくるのだ。

「いやいや、自意識過剰だよな」

篠田に打ち明けたほうが良いのか迷っていた。
でもわざわざ言うほどのことでもないよな、とそのまま様子を見ることにした。

そんなある日、本庄が仕事のことで悩みがあるから相談に乗って欲しいと言ってきた。
篠田にも聞いて欲しいとのことで、俺達の部屋にまた来たいという。
まあ篠田もいる自宅なら2人で飲み屋に行くより安心か、と思って了承した。
一応篠田にはLINEで本庄が来ることを伝えておく。
忙しいのか、俺たちが帰宅してもまだ篠田からの返事は無かった。


俺は帰宅してすぐにあるもので適当に軽い食事と、酒のアテになるものを作った。
そして篠田を待たずに本庄と先に飲み始める。
本庄は食べっぷりも良くて料理の作りがいがあった。そして相変わらず酒もゴクゴク飲む。
つい俺もつられてペースがいつもより上がっていたのか、また飲みすぎてしまった。

「先輩お酒弱いんじゃないすか?もう酔っちゃったの?」

「あ~?んなことねえよ、お前が飲み過ぎるから釣られたんじゃねーか」

「あはは、ぐっだぐだですね。赤い顔して可愛い」

「うるせー、もう1杯飲む…」

「やめときましょー?篠田さん帰ったらびっくりしちゃいますよ」

「ああ?篠田はまだかよそういや…」

「まだですよ。今日は残業で遅くなるって」

「え~?俺には返事まだ来てないんですけど~~~?」

「ああ、もう、こらこら…それ俺のスマホっすよ」

「しのだのばかぁ…もうしらない…」

「あーあ、寝ちゃった。篠田さん遅くなるって言ってんのに…こんな無防備で大丈夫?俺、襲っちゃいますよ?」

「んん…」

身体がふわっと浮いた感じがした。
なんだ?
抱っこされてる?篠田…?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!

しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎 高校2年生のちょっと激しめの甘党 顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい 身長は170、、、行ってる、、、し ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ! そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、 それは、、、 俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!! 容姿端麗、文武両道 金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい) 一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏! 名前を堂坂レオンくん! 俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで (自己肯定感が高すぎるって? 実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して 結局レオンからわからせという名のおしお、(re 、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!) ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど なんとある日空から人が降って来て! ※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ 信じられるか?いや、信じろ 腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生! 、、、ってなんだ? 兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる? いやなんだよ平凡巻き込まれ役って! あーもう!そんな睨むな!牽制するな! 俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!! ※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません ※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です ※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇‍♀️ ※シリアスは皆無です 終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします

私の婚約者には、それはそれは大切な幼馴染がいる

下菊みこと
恋愛
絶対に浮気と言えるかは微妙だけど、他者から見てもこれはないわと断言できる婚約者の態度にいい加減決断をしたお話。もちろんざまぁ有り。 ロザリアの婚約者には大切な大切な幼馴染がいる。その幼馴染ばかりを優先する婚約者に、ロザリアはある決心をして証拠を固めていた。 小説家になろう様でも投稿しています。

sweet!!

仔犬
BL
バイトに趣味と毎日を楽しく過ごしすぎてる3人が超絶美形不良に溺愛されるお話です。 「バイトが楽しすぎる……」 「唯のせいで羞恥心がなくなっちゃって」 「……いや、俺が媚び売れるとでも思ってんの?」

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

侯爵様と婚約したと自慢する幼馴染にうんざりしていたら、幸せが舞い込んできた。

和泉鷹央
恋愛
「私、ロアン侯爵様と婚約したのよ。貴方のような無能で下賤な女にはこんな良縁来ないわよね、残念ー!」  同じ十七歳。もう、結婚をしていい年齢だった。  幼馴染のユーリアはそう言ってアグネスのことを蔑み、憐れみを込めた目で見下して自分の婚約を報告してきた。  外見の良さにプロポーションの対比も、それぞれの実家の爵位も天と地ほどの差があってユーリアには、いくつもの高得点が挙げられる。  しかし、中身の汚さ、性格の悪さときたらそれは正反対になるかもしれない。  人間、似た物同士が夫婦になるという。   その通り、ユーリアとオランは似た物同士だった。その家族や親せきも。  ただ一つ違うところといえば、彼の従兄弟になるレスターは外見よりも中身を愛する人だったということだ。  そして、外見にばかりこだわるユーリアたちは転落人生を迎えることになる。  一方、アグネスにはレスターとの婚約という幸せが舞い込んでくるのだった。  他の投稿サイトにも掲載しています。

【全話まとめ】意味が分かると怖い話【解説付き】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で楽しめる短めの意味が分かると怖い話をたくさん作って投稿しているよ。 ヒントや補足的な役割として解説も用意しているけど、自分で想像しながら読むのがおすすめだよ。 中にはホラー寄りのものとクイズ寄りのものがあるから、お好みのお話を探してね。

転生したらBLゲームの攻略キャラになってたんですけど!

朝比奈歩
BL
ーーある日目覚めたら、おれはおれの『最推し』になっていた?! 腐男子だった主人公は、生まれ変わったら生前プレイしていたBLゲームの「攻略対象」に転生してしまった。 そのBLゲームとは、本来人気ダンスヴォーカルグループのマネージャーになってメンバーと恋愛していく『君は最推し!』。 主人公、凛は色々な問題に巻き込まれながらも、メンバー皆に愛されながらその問題に立ち向かっていく! 表紙イラストは入相むみ様に描いていただきました! R-18作品は別で分けてあります。 ※この物語はフィクションです。

養子の妹が、私の許嫁を横取りしようとしてきます

ヘロディア
恋愛
養子である妹と折り合いが悪い貴族の娘。 彼女には許嫁がいた。彼とは何度かデートし、次第に、でも確実に惹かれていった彼女だったが、妹の野心はそれを許さない。 着実に彼に近づいていく妹に、圧倒される彼女はとうとう行き過ぎた二人の関係を見てしまう。 そこで、自分の全てをかけた挑戦をするのだった。

処理中です...