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愛生緒視点番外編

つがいってなに?(4)

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小学六年生の僕は、虎太郎ともう会えないかもしれないと思って一晩中泣いていた。
両親は、僕が何故泣いているのかわからずにおろおろしていた。

僕はその後、悔しくて色々調べた。それで、人間のメスとオスは子孫を残す目的じゃなくても交尾をすると知った。

(虎太郎はまだあの女の人とつがいになったわけじゃない。あの女の人が虎太郎の赤ちゃんを産むとは限らない……)

可愛いだけの近所の男の子でいるのはもうやめた。あの女の人が虎太郎の家庭教師だと突き止めた僕は虎太郎のお父さんに彼女をクビにしてもらった。「この前虎太郎の部屋に遊びに行ったら、家庭教師のお姉さんに意地悪された」と適当なことを言った。おじさんは僕に優しいので、すぐに辞めさせてくれた。「虎太郎には言わないで」と付け加えるのも忘れなかった。


◇◇◇


虎太郎は高校に入ったらいよいよ僕に関わろうとしなくなった。僕がオメガ判定を受けたときも、嬉しくて報告に行ったのに「俺はアルファだから近寄らないほうがいいよ」と言われた。

(なんで? あんな女の人とは交尾するのに。虎太郎は僕が嫌いになっちゃったの?)

その後、虎太郎は既に卒業しているから一緒に通えるわけじゃないけどなんとなく同じ高校を選んで入学。
僕の知らないところで虎太郎が人望を集めていたことを知った。生徒会長を勤め、テニス部でも活躍していた虎太郎は卒業してからも人気者だった。
二年生や三年生は僕の知らない虎太郎の顔を知っている。それが悔しくて、これ以上モテてほしくなくて僕は虎太郎のことを有る事無い事言いふらした。

「僕小さい頃から虎太郎のこと知ってるけど、顔は良くても足が臭いんだよね~」
「え? 爽やか? それは見た目だけだよ。だって、いつも熟女モノのエッチな動画ばっかり見てるんだよ」
「彼はそういうことに興味が無いって? 何言ってるのさ。虎太郎は小学生の頃に好きな子のリコーダー舐めてたくらいなんだよ」

このホラ話を聞いたうちの半分くらいはドン引きしてそれ以上虎太郎の話はしなくなった。
大学に行ってる虎太郎がモテるのを止めるのは難しい。だけど、せめて僕の周りに居るライバルくらいは減らしておきたかった。


◇◇◇


そして僕も大学生になった。虎太郎はあれからもずっと誰かと付き合ったり別れたりしているみたいだ。僕には詳しく話してくれないけれど。最近僕は遠慮するのをやめたので、たまに彼の部屋を強引に訪れてこっそりPCやスマホの閲覧履歴を見ていた。
熟女モノを見てるっていうのはもちろん僕の口から出まかせだ。本当は、黒髪ショートヘアの女の子の動画をよく見ている。多分中でも一番気に入ってるのは、その子が服をはだけた状態で縛られてるやつ。

僕はそのセクシー女優の名前を覚えて後から検索した。中学時代からの友人である翔馬しょうまの自宅で女優の画像を見せながら尋ねる。

「この子どう思う?」
「あ? どうって……はは、なんだよコレ。お前じゃん」
「……やっぱり?」
「お前いつのまにエロ動画なんて撮ってたんだよ」
「似てるよね、僕に」
「双子って言っても納得するね。よく見つけたなそんなの」
「んー。虎太郎の閲覧履歴から見つけた」
「え? ははは! まじかよ。うわー、先輩どんだけ愛生緒のこと好きなんだよ。つーか本物目の前にいるのになんで手ぇ出さないでこんなの見てんだよ」

先輩ほんと頭おかしいよな、と翔馬は笑っていた。

(そんなのこっちが聞きたいよ)

虎太郎は僕が大学生になっても相変わらず構ってくれない。だけど、虎太郎が僕に気があることはもう今の僕にはわかっていた。

「この前僕二十歳になったから、お酒飲んで酔ったふりして虎太郎の部屋に行ったんだ。強引に同じベッドで寝たんだよ。なのに、おでこにキスしかされなかった」

僕が飲んだのはビールだったけど、虎太郎は「すげー甘い匂いする。なんのジュース飲んでこんな酔っ払ったんだ?」とぶつぶつ言っていた。

(馬鹿なの? その匂いは僕のフェロモンだよ!)

僕がその時のことを思い出し口を尖らせてムスッとしていると翔馬はニヤニヤしながら言う。

「虎太郎が家庭教師の先生と交尾しちゃった~って泣いてた純情な愛生緒はどこいったんだろうな?」
「やめてよ。思い出すだけでまじで吐き気するから」
「なあ、もういい加減諦めてお前から告れよ」
「……それだけは無理。オメガから告っても幸せになれないってお婆様に言われてるし」
「ほんっとそういうとこだけ頭固いよな?」

だって、オメガ家系の僕の母方の実家は結構厳しいんだ。虎太郎にはもう少し男らしくなってちゃんと僕のことつがいにしてもらいたいし。

「ねえ、僕ってそんなに魅力無い? 」
「先輩もだけど、お前も頭おかしいだろ。お前が魅力無かったらどこのオメガに魅力があるっつーんだよ」
「だって、あんな風に誘ってもダメなんて自信無くすよ。顔だけこれが良くて、身体は女の子がいいってこと?」
「違うだろ」
「じゃあ翔馬は僕を抱ける?」
「……何が言いたいんだ?」

僕はソファに座っている翔馬の膝の上に乗っかって鼻がくっつくくらいの距離まで詰め寄った。

「僕に魅力あるなら抱けるだろって話。虎太郎だって色んな人とヤッてるんだし、僕ももう処女捨てて男遊びしようかな」
「はぁ……やれやれ」

翔馬はため息を付きながら僕を乱暴にソファに押し倒した。

「こういうことを俺じゃなくて先輩にやってやれよ」
「いーやーだ! ねえ、早く」

僕は自分で服を持ち上げてお腹を出した。

「欲求不満のメス猫だな」
「うるさい、男なんだから性欲くらいあって当然だろ」
「なんでそれを俺が処理しなきゃなんねーんだよ?」

翔馬がぐいっと更に服をめくり上げ、僕の乳首を舐めた。

「あっ……だって、男の人とするのどんな感じか……虎太郎とするとき知らなかったら、恥ずかしいじゃん」

こんな感じなんだ――くすぐったい……。

「翔馬ぁ……」
「あー、だめだ。やめた!」
「え? なんで……」
「先輩んち送ってく」
「え、ま、待ってよ何――」
「お前ヒート近いからそんな欲求不満なんだろ。甘い匂いしてきた」
「ほんと? え、でもまだ……」

翔馬は有無を言わせずに僕を車に放り込んだ。そして僕はあっという間に虎太郎のマンションに送り届けられた。

「フェロモン気づかないフリで先輩に迫ってみろよ。それならお前が誘ったことになんねーだろ」
「あー……それもそっか。うん! 抑制剤忘れたってことにしてみる。ありがとう翔馬」
「今度あんなことしたらまじで犯す。じゃあな」
「バイバーイ」

この結果は――うん。
イライラした様子の虎太郎に抑制剤の注射を打ち込まれて自宅に送り届けられました……。
泣きながら翔馬に電話したことは言うまでもない。
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