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愛生緒視点番外編
つがいってなに?(3)
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ミヤマクワガタの幼虫は二年かけてやっと成虫になった。その期間中も虎太郎と一緒に土を割ったり、いろいろな体験ができた。
その後時が経つにつれ、僕が飼育に慣れたのもあり毎日のように虎太郎が家に来てくれることはなくなった。
それでも僕は彼がプレゼントしてくれたクワガタの子孫を大事に大事に育てていた。
虎太郎が中学生になると、ある時期から急に素っ気なくなってしまった。それまではうちに遊びに来てはそのまま夕飯を食べ、一緒にお風呂に入ったりもしていた。
虎太郎の体は同学年の男子と比較しても大柄で、当然ながら僕よりずっと大きい。身体を洗いっこして湯船で彼の膝の上に乗るのが僕の特等席だと思っていた。後ろから抱きかかえられると、すごく落ち着く。
だけどある日、二人でふざけていて僕の手が彼の下腹部に触れた。
「あれ? ここ、ザラザラしてる」
「ちょ、おい。触るなよ」
「え~? なんで、チクチクするよ」
性器の上の辺りが、よく見ると父のひげ剃りの跡みたく点々と黒くなっていて触るとザラザラする。僕は不思議な感触が面白くて撫で回してしまった。
「ふふ、ひげみたい!」
僕が笑ってふざけていたら、急に真顔になった虎太郎が僕の両肩を掴んでぐっと突き放した。
「やめろっつってんだろ!」
彼がほとんど初めてと言っていいような大声で僕を叱った。
何をしても笑って許してくれるお兄ちゃんだと思っていたので、僕はびっくりして固まってしまった。
その後は気まずくてお互い無言だった。お風呂上がりにいつもジュースを飲んで帰る虎太郎は、何も飲まずに僕の家を出ていった。
それがきっかけかはわからないけど、とにかく虎太郎は僕と遊んでくれなくなってしまった。
◇◇◇
彼が高校受験を控える頃には虎太郎は当然虫には興味を失っていた。6年生になった僕は、昆虫だけじゃなくていろいろな生物のことも調べて、人間の赤ちゃんがどうやって産まれるのかも学んでいた。アルファとオメガであれば男同士でも妊娠可能だということも当然、知っていた。
(虎太郎はアルファだ。だから来年の検査で僕がオメガだったら……将来二人の赤ちゃんを産卵、じゃなくて出産できる……)
その頃にはもう、虎太郎と会ってもぶっきらぼうに挨拶されるだけになっていた。僕に気付いているはずなのに無視されるときもあった。悲しかったけど、僕には希望がある。母はオメガだし、生き写しみたいな僕も多分オメガの判定を貰えると思う。そしたら、きっと虎太郎もまた僕に構ってくれる。そして、僕をつがいにして――ずっと一緒に居てくれるようになるはず。
僕は母譲りの美しい顔立ちをしているし、身体も華奢な方だからもし虎太郎が女の人が好きでも……振り向いて貰えると思う。
そんなある日、久しぶりにミヤちゃんミヤくんの子孫が幼虫から成虫になった。
「やった……! 頑張ったねぇ」
(そうだ。久しぶりに成虫になったクワガタを見せたら、虎太郎も懐かしがって僕と以前みたいにおしゃべりしてくれるかも)
僕は成虫になったミヤマクワガタを小さめの透明ケースに入れた。最近は受験前だから虎太郎も寄り道をせずに帰宅しているはずだ。
僕は久々に彼の部屋に訪問するのでドキドキしながらインターホンを押した。
しかし、反応が無い。虎太郎の家は両親共働きで、虎太郎しか家にいないことも多い。まだ帰っていないのか、と思ってふとドアノブに手を掛けたらあっさりとドアが開いた。
(もう、戸締まりちゃんとしないと危ないじゃん)
きっとズボラな虎太郎が鍵もかけずに二階の部屋にこもっているんだろう。家が広くて、二階の奥にある虎太郎の部屋だとインターホンが聞こえにくい。イヤホンで音楽でも聞きながら勉強しているのかも。
(よーし、驚かせちゃおう!)
僕は階段を忍び足で昇った。手に持ったプラケースの中でクワガタがカサコソと動いている。
「シーだよ、ミヤくんⅢ世」
二階に上がり、足音を立てないように彼の部屋の前までやってきた。すると少し開いたドアの隙間から声が漏れ聞こえてきた。
(ん……? ……誰か来てるのかな)
「あっ……、はぁ、あんっ! そうよ、上手」
(女の人の声?)
「虎太郎くん、いいわっ、いい、そこ!」
心臓が早鐘を打つ。僕は見ちゃいけないと思いつつどうしても気になって、恐る恐る隙間から中を覗き込んだ。
彼の部屋のベッド上に四つん這いになった裸の女の人が見えた。
そして、それに覆いかぶさるようにして、せわしなく動いている虎太郎の背中――。
僕は息を止め、取り落としそうになったプラケースを震える手で握りしめた。
(交尾だ――……)
音を立てないように慎重に階段を降り、外へ出た。真夏なのに寒さで身体が震え、涙が止まらなかった。
(虎太郎が、女の人と……虎太郎は僕のなのに――!)
帰宅して、昆虫図鑑を開いた。カマキリのページにポタポタと涙が水たまりを作った。
『カマキリのメスは交尾中にオスの身体を頭から食べます。これはオスの体内のアミノ酸をメスが食べることで――……』
「虎太郎が食べられちゃう。どうしよう……どうしよう……」
その後時が経つにつれ、僕が飼育に慣れたのもあり毎日のように虎太郎が家に来てくれることはなくなった。
それでも僕は彼がプレゼントしてくれたクワガタの子孫を大事に大事に育てていた。
虎太郎が中学生になると、ある時期から急に素っ気なくなってしまった。それまではうちに遊びに来てはそのまま夕飯を食べ、一緒にお風呂に入ったりもしていた。
虎太郎の体は同学年の男子と比較しても大柄で、当然ながら僕よりずっと大きい。身体を洗いっこして湯船で彼の膝の上に乗るのが僕の特等席だと思っていた。後ろから抱きかかえられると、すごく落ち着く。
だけどある日、二人でふざけていて僕の手が彼の下腹部に触れた。
「あれ? ここ、ザラザラしてる」
「ちょ、おい。触るなよ」
「え~? なんで、チクチクするよ」
性器の上の辺りが、よく見ると父のひげ剃りの跡みたく点々と黒くなっていて触るとザラザラする。僕は不思議な感触が面白くて撫で回してしまった。
「ふふ、ひげみたい!」
僕が笑ってふざけていたら、急に真顔になった虎太郎が僕の両肩を掴んでぐっと突き放した。
「やめろっつってんだろ!」
彼がほとんど初めてと言っていいような大声で僕を叱った。
何をしても笑って許してくれるお兄ちゃんだと思っていたので、僕はびっくりして固まってしまった。
その後は気まずくてお互い無言だった。お風呂上がりにいつもジュースを飲んで帰る虎太郎は、何も飲まずに僕の家を出ていった。
それがきっかけかはわからないけど、とにかく虎太郎は僕と遊んでくれなくなってしまった。
◇◇◇
彼が高校受験を控える頃には虎太郎は当然虫には興味を失っていた。6年生になった僕は、昆虫だけじゃなくていろいろな生物のことも調べて、人間の赤ちゃんがどうやって産まれるのかも学んでいた。アルファとオメガであれば男同士でも妊娠可能だということも当然、知っていた。
(虎太郎はアルファだ。だから来年の検査で僕がオメガだったら……将来二人の赤ちゃんを産卵、じゃなくて出産できる……)
その頃にはもう、虎太郎と会ってもぶっきらぼうに挨拶されるだけになっていた。僕に気付いているはずなのに無視されるときもあった。悲しかったけど、僕には希望がある。母はオメガだし、生き写しみたいな僕も多分オメガの判定を貰えると思う。そしたら、きっと虎太郎もまた僕に構ってくれる。そして、僕をつがいにして――ずっと一緒に居てくれるようになるはず。
僕は母譲りの美しい顔立ちをしているし、身体も華奢な方だからもし虎太郎が女の人が好きでも……振り向いて貰えると思う。
そんなある日、久しぶりにミヤちゃんミヤくんの子孫が幼虫から成虫になった。
「やった……! 頑張ったねぇ」
(そうだ。久しぶりに成虫になったクワガタを見せたら、虎太郎も懐かしがって僕と以前みたいにおしゃべりしてくれるかも)
僕は成虫になったミヤマクワガタを小さめの透明ケースに入れた。最近は受験前だから虎太郎も寄り道をせずに帰宅しているはずだ。
僕は久々に彼の部屋に訪問するのでドキドキしながらインターホンを押した。
しかし、反応が無い。虎太郎の家は両親共働きで、虎太郎しか家にいないことも多い。まだ帰っていないのか、と思ってふとドアノブに手を掛けたらあっさりとドアが開いた。
(もう、戸締まりちゃんとしないと危ないじゃん)
きっとズボラな虎太郎が鍵もかけずに二階の部屋にこもっているんだろう。家が広くて、二階の奥にある虎太郎の部屋だとインターホンが聞こえにくい。イヤホンで音楽でも聞きながら勉強しているのかも。
(よーし、驚かせちゃおう!)
僕は階段を忍び足で昇った。手に持ったプラケースの中でクワガタがカサコソと動いている。
「シーだよ、ミヤくんⅢ世」
二階に上がり、足音を立てないように彼の部屋の前までやってきた。すると少し開いたドアの隙間から声が漏れ聞こえてきた。
(ん……? ……誰か来てるのかな)
「あっ……、はぁ、あんっ! そうよ、上手」
(女の人の声?)
「虎太郎くん、いいわっ、いい、そこ!」
心臓が早鐘を打つ。僕は見ちゃいけないと思いつつどうしても気になって、恐る恐る隙間から中を覗き込んだ。
彼の部屋のベッド上に四つん這いになった裸の女の人が見えた。
そして、それに覆いかぶさるようにして、せわしなく動いている虎太郎の背中――。
僕は息を止め、取り落としそうになったプラケースを震える手で握りしめた。
(交尾だ――……)
音を立てないように慎重に階段を降り、外へ出た。真夏なのに寒さで身体が震え、涙が止まらなかった。
(虎太郎が、女の人と……虎太郎は僕のなのに――!)
帰宅して、昆虫図鑑を開いた。カマキリのページにポタポタと涙が水たまりを作った。
『カマキリのメスは交尾中にオスの身体を頭から食べます。これはオスの体内のアミノ酸をメスが食べることで――……』
「虎太郎が食べられちゃう。どうしよう……どうしよう……」
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