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愛生緒視点番外編

つがいってなに?(1)

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目を覚ますと辺りは暗く、ここが自分のベッドではないことに気付いた。

(ああ、そうだ。虎太郎の部屋だ)

隣で虎太郎がすやすやと寝息を立てている。念願叶ってとうとう僕、古川愛生緒ふるあわあきおは大好きな幼馴染の橘虎太郎たちばなこたろうに番にしてもらえたのだ。
ベッドサイドの時計を見ると今日はヒートの五日目。ようやく症状も軽くなり、正気が戻ってきた。
虎太郎とここでどれだけしたか記憶があまり無い。ただ身体のあちこちが痛くて、いろいろやったんだなということはわかった。ただし、痛みはあるけど身体は綺麗に拭いてくれたようだった。

(休みはあと二日あるから、この後はちゃんと意識があるままできる)

ついつい口元が緩む。僕は寝ているといつもに増して男前に見えるアルファの彼を見つめた。

(やっぱりかっこいい。子どものときからずっと変わらない……おしゃべりするとちょっと残念なこともあるけど――)

虎太郎は近所に住む三歳年上のお兄ちゃんだった。僕ともたまに遊んでくれて、気がついたときには彼のことを好きになっていた。


◇◇◇


初めて虎太郎のことを特別に意識したのは、僕の7歳の誕生日のときだ。
小学校入学後初めてのお祝いの場ということで、子どもから大人までたくさんの人が集まってのガーデンパーティが開かれた。親戚の他は父の会社関連の人たちが多く、僕にとっては退屈であまり面白いものではなかった。それでも、父が呼んでくれた手品師のパフォーマンスは楽しんだ記憶がある。

プレゼントは山ほど貰った。まだ子どもだったけど、僕は誰が見ても「この子はオメガだろうな」と思われるような容姿だった。それで、男の子なのに受け取ったプレゼントは大体がぬいぐるみや、洋服、アクセサリーなどだった。父の仕事柄、宝石商の人が多く参加していたのもある。7月生まれの僕は誕生石がルビーで、赤い色の石は綺麗だなと思った。

パーティが終わり、皆帰っていった。僕は疲れて自室でベッドに転がる。
そんなとき、ノックの音がして人が入って来た。

「あれ……虎太郎くん?」
「アキ、誕生日おめでとう!」
「ありがとう。もう帰ったかと思った」
「一回帰った! そんでこれ持ってきたんだ!」
「え?」

虎太郎の親からもさっきプレゼントは既にもらっていた。可愛いリボンのついた帽子だった。しかし、それとは別に虎太郎が僕に特別に何か持ってきてくれたらしい。
大きな紙袋だ。

「見てみ!」
「うん」

袋を覗いてみると、昆虫の飼育ケースのようだ。虎太郎が袋から取り出したケースを僕の顔の前に持ってきた。

「じゃ~ん! 俺史上最強~のミヤマクワガタ!!」
「きゃぁっ!!」

僕は驚いて悲鳴を上げてしまった。大きくて艶のあるクワガタが動いている。

「まじで、こいつは最強。すげえだろ。かっけーだろ!?」
「あ……う、うん……」

正直に言って僕は昆虫に興味は無かった――というか怖くて心臓がドキドキした。だけど、鼻息を荒くしている虎太郎を見るに、相当すごいものらしい。

「アキのために一番強いやつ選んだから。な!」
「ありがとう……虎太郎くん」
「しーかーも! メスも入れといた! ほら、アゴが小さいだろこっち。ミヤちゃんと、ミヤくん。つがいだぜ!」
「へ、へ~……」

(つがいってなにかな……?)

虎太郎が何を言ってるかよくわからなかった。だけど、虎太郎が自分のすごく大事なものを僕に譲ってくれたのはわかった。それが嬉しくて僕はさっきまでの疲れもどこかへ行ってしまった。虎太郎と一緒にいると気分が明るくなる。僕は日に焼けた彼の顔を見て尋ねる。

「虎太郎くん、これどうやってお世話したらいいの?」
「あ? 知らねーのぉ? まだお前幼稚園出たばっかだもんな」
「うん」
「わかったよしょうがねえな、俺が教えてやる。毎日様子見にくるからな!」

虎太郎はポケットから取り出した今日の分のゼリー(これが餌だそうだ)をケースの中に置いてくれた。また明日の分は明日持ってくると言って元気よく手を振って帰っていった。
僕はクワガタはちょっと見た目が怖いなと思ったけど、虎太郎がまた明日も遊びに来てくれるということが嬉しかった。
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