上 下
18 / 83
第一章【レイシア編】

多勢

しおりを挟む
 
 シンは食事を終えた後、リザと共に墓地に向かって歩いていた。

「薬屋はもう閉まっていたからポーションを買い足せなかったのが若干不安だけど……まあ食事で回復したし大丈夫だろう」

 シンが一応クエスト前にステータスを確認してみると、そこには殆ど満タン近くまで回復した体力と魔力が表示されていた。
 食事だけでも体力や魔力は回復するのだが、ここまでの回復力はきっと暴飲暴食の体質に変化したものによるのだろう。
 更に沢山セックスしたことにより、レベルも35にまで上がっていた事が、シンを安心させるプラス要因となっていた。

「新しくスキルも増えたけど……これは絶対ソフィーヤさんを犯しまくったせいだよな……」

 シンのステータスのスキル欄には、新たに【チャーム】Lv1の表示が加わっていた。

「淫魔を使って犯しまくったせいか……或いは単純に淫魔と性交を重ねた結果か……」

 原因は分からなかったが、人間であるシンが淫魔のスキルを手に入れた事に何とも複雑な気持ちを抱いた。

(で、でもまぁこれで色んな女性を誘惑出来るようになって、あれやこれやと……)

 新しく得たスキルに様々な妄想が膨らむシンだったーー



「ーー確か墓地はこの辺りだったな……」

 しばらく歩いていると、家が少なく閑散とした山の麓まで辿り着いていた。
 明かりのない道を歩いていると、やけに肌寒い感覚を覚える。
 動物も寝静まり虫の鳴き声一つせず、『ジャリッジャリッ』というシンの足音だけが物悲しい場所に鳴り響く。
 そのおどろおどろしい雰囲気に、シンは『ブルッ』と身を震わせた。

『フンフン♪』

 かたや隣に浮かんでいるリザはデート気分なのか、鼻歌を歌いながら上機嫌だ。
 そもそも闇に住まう魔族にとっては、アンデッドでなくとも夜の墓地などホームタウンのようなものなのかもしれない。

「あ! ダーリンあれじゃない?」

 リザが指差す方を見ると、そこには『立ち入り禁止』と書かれた看板の掛けられた柵があった。

「こ、ここがリビングデッドの出る墓地か……」

 シンは意を決して柵へと近付いていく。
 墓地に近付くにつれ、奥から聞こえる『オオオオ』という謎の呻き声が大きくなる。
 一歩、また一歩と墓地に近付くと、ぼんやりとした墓地の姿が見えてくる。

 そして墓地をはっきりと確認出来る距離まで到達した時、その光景にシンは驚愕した。

「ーーな、なんだこれは!?」

 そこは無数のリビングデッドが墓地全体を埋め尽くしていた。
 体の腐ったゾンビ達が『オオオオオ』と呻き声の大合唱を響かせ、墓地を囲う柵を『ガシャンガシャン』と激しく音を立てながら揺らしている。
 その数は100や200どころの話ではない。

「こんなのが街に溢れたら大パニックになるぞ……」

 千のゾンビが街を襲う光景を想像し、シンはゾッとする。

(こんなにリビングデッドが増殖するまでギルドや国は放置し続けたのか……)

 勿論国やギルドも放置していた訳ではなく、Dランクの魔物の討伐クエストとしては異例のCランク付けで金貨20枚という高額の報酬も用意していた。
 だが増えすぎたリビングデッドは最早Cランク冒険者の手には負えず、かといって高ランク冒険者でも殲滅には長時間かかるため、割に合わないと敬遠される。
 ギルドも夜にしか活動しないリビングデッドの討伐の為にこれ以上の報酬も掛けられず、墓地を封鎖する事でその場をしのいでいるのが現状だった。

「このまま放置する訳にもいかないし、降魔術師の俺なら疲労せずに戦えるから、俺が何とかしてみよう。
 リザ、やれそうか?」

「うーんとりあえずヤってみるねー!」

 流石に数が多いため出来るか心配だったが、リザは元気良く柵の向こうへと向かっていった。

「すうぅ~~っ」

 リザはリビングデッド達の頭上で停止すると、大きく息を吸い込んだ。

「オオオオオ!?♥️」

 すると腐った死体達が妙に嬉しそうな声を上げながらバタバタと倒れていく。
 リザがリビングデッドの精を吸い取ったようだ。
 倒れたリビングデッド達は魔石を残して消えていった。

「どうやらリビングデッドに触れなくても精を吸い取れるみたいだな。
 それにしてもまさに昇天って感じで倒れていくな……」

 リビングデッド達が幸悦の表情を浮かべながら消えていく様子に、シンは若干の吐き気を催す。

『どうだリザー? 行けそうかー?』

『うーん。精を吸い取るのは簡単だけど、キリがないよー』

 リザは一度に10体程のリビングデッドを倒しており、それだけでも凄いのだが、何せ相手が多すぎる。
 このままでは夜明けまでに間に合わず、夜が明ければリビングデッド達は地中に潜り、明日の夜にはまた復活して増殖してしまう。

(うーん……他の淫魔を召喚するか……)

 シンは頭数を増やす作戦を考える。
 だが召喚する魔族が多ければ多いほど魔力の消費は激しくなる。
 いくら魔力自然回復のスキルがあるとは言っても、消費魔力の方が大きければいずれ尽きてしまう。

 シンがどうすべきか攻略法を考えあぐねているとーー

『ねーねーダーリン。リザが他の淫魔を呼び寄せてもいーい?』

 リザが自ら淫魔を召喚すると提言してきた。

『え、そんな事出来るのか?』

『うん! リザはサキュバスクイーンだもん!』

 シンの問いかけに対し、リザが胸を張って応える。

(そうか……リザが呼び寄せた淫魔なら俺の降魔術で召喚する訳じゃないから、ひょっとしたら魔力を消耗せずに済むかもしれない)

 リザの提案にシンが一筋の光明を見出だした。

『よし、物は試しだ! リザ、淫魔を沢山呼び寄せてくれ!』

『はーい! 皆リザの所に現れてー!』

 シンの命令を受け、リザが何もない所に向かって呼び掛けた。
 するとそこに1体、また1体と淫魔が現れる。

「キャハハ! 久々の人間界だ~!」

「粋の良い雄はいるかしらー?」

「何あのアンデッドの大群~気持ち悪~い」

 墓地の上空に艶かしい姿をした淫魔が「キャッキャウフフ」と現れる。
 気付けば総勢50体程のサキュバスがリザによって呼び寄せられた。

「これだけの淫魔を呼び出せるとは、流石はサキュバスクイーンだな……
 っと。一応魔力が減っていないか確認してみよう」

 シンは大勢の淫魔に驚きながら、自分のステータスを確認する。

「よし。魔力も減っていないぞ。予想通り俺の降魔術は関係していないみたいだ。
 これならあのリビングデッドも殲滅出来るかもしれない!」

 シンは淫魔の軍勢に期待がこもる。

「皆ー! あのリビングデッドの魔素を吸い取っちゃってー!」

「「はーいリザ様ー!」」

 淫魔達はリザの指示に従いリビングデッド達に向かっていくと、敵の数をどんどん減らしていった。

「「オオオアアア♥️」」

 大量のリビングデッド達がうなり声なのかあえぎ声なのかよく分からない声を上げながら次々倒れていく。

「こ、これは見方によっては乱交パーティとも取れなくもないのか……
 まさに阿鼻叫喚、いやどちらかというと歓喜の宴だな……
 い、いずれにせよこのペースなら真夜中には全部倒せそうだな!」

 リビングデッドと淫魔達が繰り広げる光景にシンは微妙な表情を浮かべながらも、想定よりも早く進む掃討作業に心を躍らせたーー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

リーンカーネーション 小学4年に戻ったおれ

Seabolt
ファンタジー
一人の中年男性が小学生の女の子とであう。このことがきっかけでこの男性の人生はくるっていくことになる。これからは転生をしていきます。おたのしみに

初恋と花蜜マゼンダ

麻田
BL
 僕には、何よりも大切で、大好きな彼がいた。  お互いを運命の番だと、出会った時から思っていた。  それなのに、なんで、彼がこんなにも遠くにいるんだろう。  もう、彼の瞳は、僕を映さない。  彼の微笑みは、見ることができない。  それでも、僕は、卑しくも、まだ彼を求めていた。  結ばれない糸なのに、僕はずっと、その片方を握りしめたまま、動き出せずにいた。  あの、美しいつつじでの誓いを、忘れられずにいた。  甘い花蜜をつけた、誓いのキスを、忘れられずにいた。 ◇◇◇  傍若無人の生粋のアルファである生徒会長と、「氷の花」と影で呼ばれている表情の乏しい未完全なオメガの話。  オメガバース独自解釈が入ります。固定攻め以外との絡みもあります。なんでも大丈夫な方、ぜひお楽しみいただければ幸いです。 九条 聖(くじょう・ひじり) 西園寺 咲弥(さいおんじ・さくや) 夢木 美久(ゆめぎ・みく) 北条 柊(ほうじょう・しゅう) ◇◇◇  ご感想やいいね、ブックマークなど、ありがとうございます。大変励みになります。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

黄昏時に染まる、立夏の中で

麻田
BL
***偶数日更新中***  それは、満足すぎる人生なのだと思う。  家族にも、友達にも恵まれた。  けれど、常に募る寂寥感と漠然とした虚無感に、心は何かを求めているようだった。  導かれるように出会ったのは、僕たちだけの秘密の植物園。 ◇◇◇  自分のないオメガが、純真無垢なアルファと出会い、自分を見つけていく。  高校卒業までの自由な時間。  その時間を通して、本当の好きな人を見つけて、様々な困難を乗り越えて実らせようと頑張ります。  幼い頃からずっと一緒の友達以上な彰と、運命のように出会った植物園の世話をする透。  二人のアルファに挟まれながら、自分の本当の気持ちを探す。  王道学園でひっそりと育まれる逆身分差物語。 *出だしのんびりなので、ゆる~くお楽しみいただければ幸いです。 *固定攻め以外との絡みがあるかもしれません。 ◇◇◇ 名戸ヶ谷 依織(などがや・いおり) 楠原 透(くすはる・とおる) 大田川 彰(おおたがわ・あきら) 五十嵐 怜雅(いがらし・れいが) 愛原 香耶(あいはら・かや) 大田川 史博(おおたがわ・ふみひろ) ◇◇◇

ただ、愛しただけ…

きりか
恋愛
愛していただけ…。あの方のお傍に居たい…あの方の視界に入れたら…。三度の生を生きても、あの方のお傍に居られなかった。 そして、四度目の生では、やっと…。 なろう様でも公開しております。

【完結】体を代償に魔法の才能を得る俺は、無邪気で嫉妬深い妖精卿に執着されている

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 同類になれる存在を探していた、無邪気で嫉妬深い妖精種の魔法使い VS 自衛の為に魔法を覚える代償として、体を捧げることにした人間不信青年 \ファイ!/ ■作品傾向:ハピエン確約のすれ違い&性行為から始まる恋 ■性癖:異世界ファンタジーBL×種族差×魔力を言い訳にした性行為 虐げられた経験から自分の身を犠牲にしてでも力を欲していた受けが、自分の為に変わっていく攻めに絆される異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 転生しても魔法の才能がなかったグレイシスは、成人した途端に保護施設から殺し合いと凌辱を強要された。 結果追い詰められた兄弟分に殺されそうになるが、同類になることを条件に妖精卿ヴァルネラに救われる。 しかし同類である妖精種になるには、性行為を介して魔力を高める必要があると知る。 強い魔法を求めるグレイシスは嫌々ながら了承し、寝台の上で手解きされる日々が始まった。 ※R-18,R-15の表記は大体でつけてます、全話R-18くらいの感じで読んでください。内容もざっくりです。

【R18完結】愛された執事

石塚環
BL
伝統に縛られていた青年執事が、初めて愛され自分の道を歩き出す短編小説。 西川朔哉(にしかわさくや)は、執事の家に生まれた。西川家には、当主に抱かれるという伝統があった。しかし儀式当日に、朔哉は当主の緒方暁宏(おがたあきひろ)に拒まれる。 この館で、普通の執事として一生を過ごす。 そう思っていたある日。館に暁宏の友人である佐伯秀一郎(さえきしゅういちろう)が訪れた。秀一郎は朔哉に、夜中に部屋に来るよう伝える。 秀一郎は知っていた。 西川家のもうひとつの仕事……夜、館に宿泊する男たちに躯でもてなしていることを。朔哉は亡き父、雪弥の言葉を守り、秀一郎に抱かれることを決意する。 「わたくしの躯には、主の癖が刻み込まれておりません。通じ合うことを教えるように抱いても、ひと夜の相手だと乱暴に抱いても、どちらでも良いのです。わたくしは、男がどれだけ優しいかも荒々しいかも知りません。思うままに、わたくしの躯を扱いください」 『愛されることを恐れないで』がテーマの小説です。 ※作品説明のセリフは、掲載のセリフを省略、若干変更しています。

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

処理中です...