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二章
15-オーク
しおりを挟む『ガラガラガラッ』
イトは冒険者ギルドでパーティを組んだ男達と馬車に揺られ、草原の街道を進んでいた。男達は突如舞い込んだ一獲千金のチャンスに、意気揚々と語らいでいる。
対照的にイトは塔に向かう時と同様、膝の上で手を組みながら無言で外の景色を眺めていた。
『ふむふむ、オークというのは古い小説に登場した架空の種族で……おおっ! こういったファンタジー世界では、豚をモチーフにした姿をしていることが多いんだって! イト、豚だって、豚!』
静かに馬車に身を預けるイトの耳に、オルフの興奮気味に語る解説が響く。
『しかも獣人なんていう種族がいることも多いらしいよ! うわぁ~見てみたいなぁ~!』
「そうか」
まるで子供のように目を輝かせながら、ファンタジーの世界に登場する種族の姿に思いを馳せる。そんなオルフに対し、イトは小さく相槌を返す。
「オルフは、VRの中の動物にも興味があるんだな」
尚も熱く語り続けるオルフに、イトは意外そうな面持ちで問いかけた。
『だって他の人が考えた色んな動物を見れるなんて、とても面白いだろ!?』
「だが、そんなにファンタジー世界の生き物に関心があるなら、どうしてオルフはコクーンに戻らないんだ?」
オルフがこの世界を楽しんでいる様子に、イトは真っ当な疑問を返す。確かに動物と自由に触れ合いたいのであれば、VRで幾らでも思うがままに楽しめる筈だ。
するとオルフは暫く目を伏せ、何かを思い出すように考え込んだ。そして再びイトへと視線を戻し、ニコリと微笑んだ。
『前にも話したことがあるけど……確かに僕はVRの中でそれこそ何百年も動物と触れ合ってきた。でもある日、何かが物足りなく感じたんだ。これは果たして、リアルな動物達の姿なのだろうか……と。
手に触れる感触や、目に見える動物達の生態は現実に則したものだというのは分かっていた。でも、こうも思ったんだ。
これは僕にとって都合の良いように、動物達が演じているだけなのかもしれない。ひょっとしたら本当の動物達は、僕が思いもよらないような生活を送っているのかも……ってね。
それで僕は現実の動物達のリアルな生態に触れたくなって、コクーンを出たんだ。僕が愛する動物達の、本当の姿をこの目で確かめるために」
そう語るオルフの目には、無邪気さの中に真剣な想いが垣間見えた。
そしてオルフの言葉を聞いたイトは、
「愛……」
虚空を見つめながら、オルフの口から出た一つの単語を、仮想空間の中にポツリと漂わせた―――
「―――旦那。つ、着きやしたぜ」
男の声と共に馬車が停まる。
イトが馬車を降りて前方を確認すると、そこには断崖の中に大きな穴が確認出来た。
「ここがオークの洞窟か」
なんの変哲もない、何処にでもありそうな洞窟。この世界の知識がない者にとっても、ここが噂されるような恐ろしい場所とは到底思えない。だがイト以外の男達は、皆平凡な洞窟を前に生唾を飲み込み、緊張を顕にしている。
「行くぞ」
するとイトは男達に先んじて、スタスタと洞窟の入り口へと進んでしまった。
「ま、待ってくだせぇ旦那ぁっ!」
「お、置いてかないでくれぇっ」
そして男達もやや腰を引きながらも、一人前進するイトの後を必死に追い掛けた―――
「―――フッ!」
『ズバァッ!』
「グォオアア~~~ッ!」
イトが軽く剣を振り下ろすと、目の前にいる3体のオークが一瞬にして真っ二つになった。そして辺りに転がる大量のオークに、ドサドサと亡骸が加わった。
「さっ、流石ですぁ旦那っ! 幾ら相手がオークとはいえ、これ程の敵を一撃で倒せる冒険者なんて、中々居ませんぜ! しかも軽く剣を降ろしただけなんて!」
「そうか」
男の称賛に軽く返事をすると、イトはさっさと奥へと進んで行った。テストの時のように全力で剣を振っては、洞窟が崩れてしまうと男達に咎められたため、イトは軽く剣を振るだけでオークの群れを次々に葬り去っていた。
そして後に転がったオークの死骸へ男達が群がり、まるでハイエナのように素材やら何やらをあくせく剥ぎ取っていた。
何もしなくてもこのクエストをクリアすれば大金が貰えるというのに、目の前に転がる端金にすら手が伸びてしまうのが、底辺冒険者達の性分だ。いや、むしろ―――
「へへっ……これだけ素材が集まれば、仮に旦那がクエストに失敗したとしてもそこそこの稼ぎになるぜ」
「うひひっ! こりゃあ本当にツキが回ってきたみてえだな!」
どうやら男達がわざわざ素材を拾い集めているのは、イトがクエストに失敗した時の保険を掛けているつもりのようだ。だがそんな意地汚い男達の事など全く意に介さず、イトはどんどん奥へと進んでいく。
そして洞窟に入ってから1時間程が経過したところで、目の前に謎の扉が現れた。
『イト、対象者の位置はこの扉の向こうだ』
オルフが目的地への到着を告げ、イトがコクリと頷いて扉を押す。
『ザクッザクッ』
「うひひっ! こりゃあスゲー量だぜっ」
「見ろよこの魔石! メチャクチャでけぇのが出たぜ!」
真剣な表情で行く先を見つめる二人に対し、パーティの男達は後方で未だ呑気に素材をかき集めていた。
『ギイイッ』
イトがゆっくりと扉を開く。するとその向こうには―――
「グォオオッ!」
「ブヒヒヒッブヒィッ!」
10体程のオークが一箇所に集まり、何やら興奮した様子で騒いでいた。今までイトが倒した者達と変わらない、ごく普通のオーク達だ。辺りを見渡すと他の場所に続くような道もなく、ここが洞窟の最深部で間違いない。
「ここが洞窟の、一番奥の場所ですかい?」
「何だぁ? 普通のオークしか居ねえのか?」
「ハイオークやオークロードなんかがゴロゴロ出てくるのを想像してたが、マジで普通にDランクの内容じゃねーか」
男達もぞろぞろと部屋に入ってくるが、皆肩透かしを食らっている。だが―――
「おいっ、あれ!」
一人の男が何かに気付き、オークの集団を指差した。
『ンブッ! ンジュブブッ! ブブッ!』
そこでは一人の女性が裸の状態でオークに囲まれ、オークの股間をその口に突っ込まれていた。
「ブヒッ! ブヒヒッ!」
「ンンーーーッ! ングウゥーーーッ!」
周りのオーク達は皆股間をいきり立て、女性の身体に凶悪なソレを我武者羅に擦り付けている。女性は口や手、膣、更には肛門までもオークの巨根を打ち付けられ、目を裏返しながら声にならない悲鳴を上げていた。
「お、おいっ……女、女だぜ……!」
「オークに……犯されてやがる……」
男達は騒然と見つめながらも、女性が犯される姿に興奮を隠せないでいる。皆ムクムクと股間を膨らませていく。
「オークに犯されちまったら、あの女はもうダメだろうな」
するとイトに肩をぶつけた男が、彼女の様子を眺めながら冷酷な宣告を下した。
「オークに捕まった女は、オーク達から徹底的に犯されて、皆正気を失っちまう。もし生還出来たとしても、廃人になって底辺娼婦かゴロツキの性奴隷コースだ」
残酷な結末を語るその口調は、女性への同情はあまり感じられない。いや、それどころか口元に笑みすら見える。
「つーことは、このオーク達を倒しちまえば、あの女は俺達が好きに出来るってことか?」
「マジかよ。クエスト報酬と素材に女まで手に入るとか、俺達最高に運が良いぜ」
「ただオークが犯した後ってのがなぁ」
すると男達は下衆な相談を交わし始めた。
「そんな事いちいち気にする奴がいるかぁ? こんな美人を俺達の性奴隷に出来んだぜ!」
男の言葉に仲間達が女性の方を見やる。
身体中、オークの精液で汚れてはいるものの、容姿は非常に整っており、スタイルも抜群だった。胸はHともIとも判らぬ程豊満に揺れている。
その姿に、男達は下品に舌を舐めずった。
「それもそうだな。敵は他に居ねえみてーだし、俺等でさっさと殺っちまおうぜ!」
「そうだな! こいつ等女に夢中で俺達の事に気付いてすらいねえ!」
「この程度のオークくらい、俺達でも余裕だぜ!」
すると何やら男達は先程までとは打って変わり、我先にオークを倒そうと息巻いている。
「おい、待て―――」
先程から妙に動こうとしないイトが男達を静止するも、男達は既に剣を抜き、今にも走り出そうとしている。
「よっしゃ! 誰が最初に犯るかは早いもん勝ちだ!」
「待て! 俺が最初だ!」
「いや俺だっ!」
男達はイトの静止も耳に入らず、我先にとオークの群れへと飛び込んでいった。そして男達の剣がオークの背中に襲い掛かろうとしたその刹那―――
『シュウン―――』
男達はイトの前から、忽然と姿を消してしまった―――
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