アメジストの軌跡

JEDI_tkms1984

文字の大きさ
上 下
84 / 115
新たなる脅威篇

6 予言を覆す力-3-

しおりを挟む
 あれをどうにかしなければ避難所が壊されてしまう!

 そう思うもシールドの維持に集中している彼には打つ手はない。

 対空砲に加え、味方の戦闘機も迎撃にあたるが、被害は増すばかりだ。

「危ないっ!」

 シェイドを突き飛ばすようにしてライネが躍り出た。

 光弾が彼女の脇腹をかすめる。

 避難所の陰から現れたドールが2体、こちらを狙っていた。

(なんであんなところから……?)

 すぐさま銃を抜く。

 だが狙いのあまい射撃はドールにかすりもしない。

「ああ、クソ!」

 ライネはいらだたしげにドールめがけて銃を投げつけた。

 視界に飛び込んできたそれに一瞬、センサーが反応して動きが止まる。

 放物線を描いて銃が足元に落ちた時には、淡い光をまとった拳が迫っていた。

 ドールの頭部が宙を舞う。

 もう1体が標的をシェイドからライネに切り替える。

 だがそれは遅すぎた。

 弧を描いたつま先が銃をたたき落とし、くるりと身をひねって繰り出された踵が胴体をふたつに分けた。

「やっぱこっちのほうがいいな!」

 そう言って笑んだのも束の間。

 味方の一角が崩れ、敵のドールが数体、2人に向かってきていた。

 標的はもちろんシェイドだ。

 シールドに集中している彼はそれに気づかない。

 振り向いたライネの顔が青ざめた。

 俊敏な彼女でもこの距離では間に合わない。

 しかしその心配は杞憂に終わる。

 後退した従者たちがシェイドの周囲を固めた。

 その様子にライネは胸をなでおろした。

 狭所ならともかく、四方から敵が迫る状況下ではひとりでシェイドを守りきるのは難しい。

(これならなんとか……!)

 任務を果たせる。

 彼女はそう思った。

 シェイドは今も避難所を守るためにシールドに注力している。

 上空からの攻撃への備えはできているが、地上戦には無力だ。

 そこで引き返してきた従者たちと自分がその穴を埋める。

(とはいえあいつらをなんとかしなくちゃな……)

 ライネは憎々しげに空を見上げた。

 大きく旋回して戻ってきた攻撃機が、再び避難所への攻撃をはじめた。

 頭上を通過したそれらは対空砲を巧みにすり抜け、東の空へと消えていく。

「クソ……厄介な相手だな……!)

 歯噛みしたとき、切り立った崖の向こうから耳障りな音が響いてきた。




 

「たいしたものだ」

 隊員のひとりが言った。

 すぐ横で応戦する少女は民間人で銃の構え方もぎこちない。

 だがその狙いは確かで、迫るドールの胸部を次々に撃ち抜いていく。

「訓練すれば……すぐに優秀な兵士になれるぞ!」

 それに答える余裕は――ない。

 ドールの大群を相手にするのに精いっぱいで、会話に意識を割く余裕がないのだ。

 なにより彼女――フェルノーラが戦っているのは故郷を守るため。

 軍人になるために戦っているのではない。

「西側に回れ!」

 前の部隊から、西方の峡谷に新手が現れたとの報告が届いた。

 かなりの数だということだが、その構成は歩兵隊が大半だという。

 谷の出口を塞いでしまえば進攻を食い止められる。

 ――が、そのためにこちらの戦力を割かなければならない。

「トレッド部隊を向かわせる! こちらは施設の防衛が最優先だ!」

 それを聞いていたフェルノーラは背後に気配を感じた。

 人の――ではない。

 漠然とした不安だ。

 なにか良くないことが人の姿をして忍び寄ってくるような、妙な感覚だ。

「………………!」

 慌てて振り向く。

 遠くに見覚えのある姿があった。

 周囲を威圧するような戦闘用の黒いスーツを着た3人の男だ。

(あの時の――!?)

 彼らが自分たちにとって好ましくない存在であることはすぐに分かった。

 そして、ここにいる理由も――。

 砲撃によって損壊した避難所は、拘束された襲撃者に自由を与えたのだ。

 フェルノーラは銃を向けた。

 連中の狙いが変わっていないのならシェイドが危ない。

 体内のミストを銃身に送り込み、強化された弾丸を撃つ。

 狙いは確かだった。

 だが命中には至らない。

「誰か――」

 応援を求めようとして思いとどまる。

 先ほど西方に戦力を割いたばかりで余裕がない。

 フェルノーラは走った。

 持ち場を離れることになるが、軍人ではないから軍規違反にはならない。

 それに自分ひとり欠けたところで、ここの防備が手薄になることはないだろう。

 ――そう判断しての行動だ。

 今は何より連中を追い、避難所を守らなければならない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

いいですよ、離婚しましょう。だって、あなたはその女性が好きなのでしょう?

水垣するめ
恋愛
アリシアとロバートが結婚したのは一年前。 貴族にありがちな親と親との政略結婚だった。 二人は婚約した後、何事も無く結婚して、ロバートは婿養子としてこの家に来た。 しかし結婚してから一ヶ月経った頃、「出かけてくる」と言って週に一度、朝から晩まで出かけるようになった。 アリシアはすぐに、ロバートは幼馴染のサラに会いに行っているのだと分かった。 彼が昔から幼馴染を好意を寄せていたのは分かっていたからだ。 しかし、アリシアは私以外の女性と一切関わるな、と言うつもりもなかったし、幼馴染とも関係を切れ、なんて狭量なことを言うつもりも無かった。 だから、毎週一度会うぐらいなら、それくらいは情けとして良いだろう、と思っていた。 ずっと愛していたのだからしょうがない、とも思っていた。 一日中家を空けることは無かったし、結婚している以上ある程度の節度は守っていると思っていた。 しかし、ロバートはアリシアの信頼を裏切っていた。 そしてアリシアは家からロバートを追放しようと決意する。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...