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新たなる脅威篇
4 暗躍-4-
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「――重い」
ライネに覆い被さられたフェルノーラは不満を口にした。
転んだときにしたたか背中を打ちつけ、鈍い痛みが肩から背中にかけて走る。
「あ、悪りぃ……!」
苦笑いを浮かべつつ彼女は跳び退いた。
しかし次の瞬間には凛然とした表情に戻って、
「避難所まで走れ!」
そう言い置いてシェイドの元へと駆ける。
「あ……ちょ……っ!」
何かを言いかけたフェルノーラは見た。
ドールたちのものとは形状の異なるやや大型のバイクが3台、こちらに向かって飛んでくる。
彼女は言われたとおり走った。
目指す先は避難所ではなく、それより近くにある倉庫だ。
大型のバイクは真っ直ぐにシェイドに向かっている。
(野盗じゃ……ない!?)
通り過ぎるバイクを横目に見た彼女はすぐにそうと分かった。
この辺りの賊は一目で相手にそうと分からせ、威圧感を与えるために黒色のローブを羽織っているハズだ。
フードを目深に被るのが彼らの特徴で、その狙いは表情を悟られないことにある。
だがすれ違った彼らの様相は全く異なっていた。
フルフェイスマスクを被り、体の輪郭がはっきりと分かる戦闘用の黒いスーツ姿。
よくよく見ればバイクも賊が愛用している旧式のものではない。
「…………!?」
バイクから飛び降りた襲撃者たちはシェイドに躍りかかった。
ライネが立ちはだかる。
「下がってな!」
シェイドと距離を置くように彼女は数歩前に出た。
襲撃者が拳を突き出した。
それを軽く払いのけ、がら空きになった顔面めがけて反対に拳を叩きこむ――。
(なに……!?)
――ハズだった。
何者かは斜めに上体を反らせて攻撃を躱すと、その勢いのまま回し蹴りを放った。
ライネは両腕を交差させてそれを防ぐ。
(こいつ……ほんとに野盗かよ……!?)
先ほどの身のこなしは賊徒とは思えないほど洗練されていた。
咄嗟の体捌き、無駄のない的確な攻撃は正規の訓練を受けているとしか思えなかった。
ライネは気配でシェイドとの距離を測りながら半歩退く。
遅れて降りてきた2人の襲撃者が加わった。
「面倒くさいな――まとめて来いよ、ザコども!」
この少女は駆け引きが得意ではなかった。
だからこれは彼女の精一杯の挑発。
明らかに数十体のドールよりも手こずりそうな敵を一手に引き受けるための。
だがそれが上手くいった。
単純にシェイドの前にライネが立ちはだかっているだけだが、彼らはまず目の前の障害を取り除こうと挑みかかる。
(よし…………!)
こうなるとやりやすい。
ライネは突き出された拳をいなしつつ、相手の顔面にストレートを叩きこむ。
ふらつき、仰け反った仲間の隙を埋めるように左右の2人が飛び掛かった。
だが、その動きはあまりに遅すぎた。
わずかに左の男のほうが先に動いたのを認めたライネは、まずその顎めがけて拳を打ちこむ。
数瞬遅れて間合いに入ってきた右の男の手に何かが光る。
(短剣か――!?)
突き出されたそれを冷静に見極め、流れるように身をひねる。
振り上げた爪先が短剣を蹴り落とした。
しかし怯んだのもわずかの間。
すぐさま体勢を立て直し、今度は前傾姿勢でライネの懐に飛び込もうと迫る。
(こいつ……ッ!)
やはり素人の動きではない。
「だったら――」
ライネは身を低くして右腕に力を込めた。
腕輪が仄かに青白く輝く。
「遠慮はいらないよなっ!」
ミストをまとった拳が襲撃者の腹をえぐる。
一点に巨大な力を押し当てられた彼ははるか後方へと吹き飛ばされた。
相手が手練れなら気を遣う必要はない。
残る2人は互いに顔を見合わせると、ライネを左右から挟み撃ちするように迫った。
しかしこの動きも想定済みだ。
警備隊としての訓練を積んでいる彼女は当然、複数の敵を同時に相手にする戦い方も学んでいる。
まずは右側の襲撃者に一撃を加える。
真っ直ぐに突き出した拳は男の顔面を直撃!
ミストをまとったパンチはマスクを叩き割った。
左手からもうひとりの襲撃者が迫る。
ライネは軸足に力を込めて攻撃に備える。
(なん――!?)
だが彼の狙いはライネではなかった。
(しまった――!!)
脇をすり抜け、向かう先にはシェイドがいる。
飛来するドールを相手にしている彼は気付いていない。
「シェイド君!」
迫る襲撃者を押さえようとケッセルが銃をかまえて2人の間に割り込んだ。
だがその銃口が狙いをつけるより先に襲撃者がシェイドに接近。
ライネの叫び声に振り向いた彼は、眼前に迫る何者かの姿を認めるや咄嗟にシールドを張ろうとした。
が、反応がわずかに遅い!
振り上げられた拳が少年の頬を打つ。
小さな体は大きくよろめくも、すんでのところで踏みとどまる。
突然の痛みに顔をしかめたシェイドは相手の位置も確かめずに火球を乱射した。
無造作に撃ち出された炎は躱さずともかすりもしない。
すっかり狼狽した彼は襲撃者が懐に飛び込むのを許してしまう。
しかしそれより一瞬早く、従者が敵の攻撃を食い止める。
「ご無事ですか!?」
イエレドだった。
彼が長尺の杖を一振りすると襲撃者は慌てて跳び退いた。
その隙を逃すまいと距離を詰める。
ライネに覆い被さられたフェルノーラは不満を口にした。
転んだときにしたたか背中を打ちつけ、鈍い痛みが肩から背中にかけて走る。
「あ、悪りぃ……!」
苦笑いを浮かべつつ彼女は跳び退いた。
しかし次の瞬間には凛然とした表情に戻って、
「避難所まで走れ!」
そう言い置いてシェイドの元へと駆ける。
「あ……ちょ……っ!」
何かを言いかけたフェルノーラは見た。
ドールたちのものとは形状の異なるやや大型のバイクが3台、こちらに向かって飛んでくる。
彼女は言われたとおり走った。
目指す先は避難所ではなく、それより近くにある倉庫だ。
大型のバイクは真っ直ぐにシェイドに向かっている。
(野盗じゃ……ない!?)
通り過ぎるバイクを横目に見た彼女はすぐにそうと分かった。
この辺りの賊は一目で相手にそうと分からせ、威圧感を与えるために黒色のローブを羽織っているハズだ。
フードを目深に被るのが彼らの特徴で、その狙いは表情を悟られないことにある。
だがすれ違った彼らの様相は全く異なっていた。
フルフェイスマスクを被り、体の輪郭がはっきりと分かる戦闘用の黒いスーツ姿。
よくよく見ればバイクも賊が愛用している旧式のものではない。
「…………!?」
バイクから飛び降りた襲撃者たちはシェイドに躍りかかった。
ライネが立ちはだかる。
「下がってな!」
シェイドと距離を置くように彼女は数歩前に出た。
襲撃者が拳を突き出した。
それを軽く払いのけ、がら空きになった顔面めがけて反対に拳を叩きこむ――。
(なに……!?)
――ハズだった。
何者かは斜めに上体を反らせて攻撃を躱すと、その勢いのまま回し蹴りを放った。
ライネは両腕を交差させてそれを防ぐ。
(こいつ……ほんとに野盗かよ……!?)
先ほどの身のこなしは賊徒とは思えないほど洗練されていた。
咄嗟の体捌き、無駄のない的確な攻撃は正規の訓練を受けているとしか思えなかった。
ライネは気配でシェイドとの距離を測りながら半歩退く。
遅れて降りてきた2人の襲撃者が加わった。
「面倒くさいな――まとめて来いよ、ザコども!」
この少女は駆け引きが得意ではなかった。
だからこれは彼女の精一杯の挑発。
明らかに数十体のドールよりも手こずりそうな敵を一手に引き受けるための。
だがそれが上手くいった。
単純にシェイドの前にライネが立ちはだかっているだけだが、彼らはまず目の前の障害を取り除こうと挑みかかる。
(よし…………!)
こうなるとやりやすい。
ライネは突き出された拳をいなしつつ、相手の顔面にストレートを叩きこむ。
ふらつき、仰け反った仲間の隙を埋めるように左右の2人が飛び掛かった。
だが、その動きはあまりに遅すぎた。
わずかに左の男のほうが先に動いたのを認めたライネは、まずその顎めがけて拳を打ちこむ。
数瞬遅れて間合いに入ってきた右の男の手に何かが光る。
(短剣か――!?)
突き出されたそれを冷静に見極め、流れるように身をひねる。
振り上げた爪先が短剣を蹴り落とした。
しかし怯んだのもわずかの間。
すぐさま体勢を立て直し、今度は前傾姿勢でライネの懐に飛び込もうと迫る。
(こいつ……ッ!)
やはり素人の動きではない。
「だったら――」
ライネは身を低くして右腕に力を込めた。
腕輪が仄かに青白く輝く。
「遠慮はいらないよなっ!」
ミストをまとった拳が襲撃者の腹をえぐる。
一点に巨大な力を押し当てられた彼ははるか後方へと吹き飛ばされた。
相手が手練れなら気を遣う必要はない。
残る2人は互いに顔を見合わせると、ライネを左右から挟み撃ちするように迫った。
しかしこの動きも想定済みだ。
警備隊としての訓練を積んでいる彼女は当然、複数の敵を同時に相手にする戦い方も学んでいる。
まずは右側の襲撃者に一撃を加える。
真っ直ぐに突き出した拳は男の顔面を直撃!
ミストをまとったパンチはマスクを叩き割った。
左手からもうひとりの襲撃者が迫る。
ライネは軸足に力を込めて攻撃に備える。
(なん――!?)
だが彼の狙いはライネではなかった。
(しまった――!!)
脇をすり抜け、向かう先にはシェイドがいる。
飛来するドールを相手にしている彼は気付いていない。
「シェイド君!」
迫る襲撃者を押さえようとケッセルが銃をかまえて2人の間に割り込んだ。
だがその銃口が狙いをつけるより先に襲撃者がシェイドに接近。
ライネの叫び声に振り向いた彼は、眼前に迫る何者かの姿を認めるや咄嗟にシールドを張ろうとした。
が、反応がわずかに遅い!
振り上げられた拳が少年の頬を打つ。
小さな体は大きくよろめくも、すんでのところで踏みとどまる。
突然の痛みに顔をしかめたシェイドは相手の位置も確かめずに火球を乱射した。
無造作に撃ち出された炎は躱さずともかすりもしない。
すっかり狼狽した彼は襲撃者が懐に飛び込むのを許してしまう。
しかしそれより一瞬早く、従者が敵の攻撃を食い止める。
「ご無事ですか!?」
イエレドだった。
彼が長尺の杖を一振りすると襲撃者は慌てて跳び退いた。
その隙を逃すまいと距離を詰める。
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