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新たなる脅威篇
4 暗躍-1-
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2台ある車両のうち、ところどころに傷がついて薄汚れているのは目的の避難所から手配した車両だ。
民間の貨物車を改造したそれは物資を多く積めるようにカーゴルームを広くとっているため、居住性が悪い。
大破した輸送車から物資を引っ張り出し、貨物車に移し替える。
シェイドをこれに乗せるワケにはいかないと、彼は襲撃を免れた輸送車を強く勧められた。
ライネ、フェルノーラ、イエレドも同乗する。
一行は坦路を進んだ。
先ほどの件もあって、従者たちは周囲の状況に目を光らせている。
「さっきみたいなことがなければいいけど……」
と不安げに漏らすシェイドを一瞥したライネは、そのまま視線をイエレドに向けた。
彼は難しい顔をして手首に着けたデバイスを凝視している。
「………………」
怪しい、とライネは思うのだが確たる証拠がない。
余計なことをして警戒されては尻尾をつかめなくなる。
今はそれよりもシェイドの護衛が最優先だと考えなおし、ぐっと拳を握りしめる。
あくまで任務として彼を守るつもりだったが住民に慕われ、皇帝という立場に驕らず率先して働く彼を見てライネの気持ちは変わりつつあった。
彼女は儚げで見るからに繊細そうな彼を弟のように見ていた。
人の多いところでは手をつないでいないと迷子になってしまいそうな――。
そんな少年を体を張って守らなければならない。
任務としてではなく、使命感のようなものが芽生え始めていた。
車両は視界を遮られる険路にさしかかった。
(さっきフェルが言ってた場所か)
左右を崖に挟まれ、日当たりも悪い。
襲撃者が身を隠すには打ってつけだ。
フェルノーラと目が合う。
彼女は小さく頷いた。
イエレドは不安げにシェイドを見ている。
(来るか……?)
ここでこの従者が何らかの動きを見せ、再び襲撃者が現れれば証拠になる。
ライネもフェルノーラも約束したワケではなかったが、それぞれに警戒の目を光らせていた。
「………………」
だがその心配は杞憂に終わった。
車列は隘路を抜け、見通しの良い道に出た。
路面の状態は良く、窓の向こうには木々が青々と茂っている。
この辺りは砲撃を免れたようである。
しばし呼吸を忘れていたフェルノーラは視界が開けたことで安堵のため息をつく。
周囲には復興作業の拠点となる倉庫や工場、格納庫などが点在している。
それだけ人の目もあるから襲撃者も迂闊に手が出せないハズだ。
まだ警戒心を解いていないライネはイエレドの様子を窺った。
これといって不審な動きはなく、彼もどこか安心しているような表情だ。
つまりこの男は関与していない――ということになるのだが、
(まだ分からないよな……)
彼女はフェルノーラが言っていたことを思い出す。
”賊なら襲撃に適した場所を知っている”
その言葉どおりなら油断はできない。
自分もイエレドも中央からやってきた。
当然、プラトウの地理は知らない。
つまり先ほどの狭所で襲撃者の手引きをしなかったことが、かえってイエレドに対する疑いを強くする。
いっそ攻撃を受けていれば賊の仕業ということで片付けられたのに、とライネは思った。
(証拠がなけりゃいくらアタシが言っても――)
今回、同行している従者たちの顔を順番に思い浮かべる。
その中で信用でき、自分の言葉を信じてくれそうなのは――。
(あの人くらいか……)
普段は警備隊を務めるライネは従者との面識はない。
つまり誰の人となりも知らないのだが、特に印象に残っている者がひとりいた。
(ケッセルって人、あっちの車に乗ってる――)
プラトウに来てから何かとシェイドを気遣い、事あるごとに声をかけていた男だ。
冷たい印象を与える見た目だが、皇帝に付き従う者という意味ではこれ以上ない好人物だ。
彼に話してみよう。
ライネがそう心に決めた時、窓の向こうに目的の避難所が見えてきた。
民間の貨物車を改造したそれは物資を多く積めるようにカーゴルームを広くとっているため、居住性が悪い。
大破した輸送車から物資を引っ張り出し、貨物車に移し替える。
シェイドをこれに乗せるワケにはいかないと、彼は襲撃を免れた輸送車を強く勧められた。
ライネ、フェルノーラ、イエレドも同乗する。
一行は坦路を進んだ。
先ほどの件もあって、従者たちは周囲の状況に目を光らせている。
「さっきみたいなことがなければいいけど……」
と不安げに漏らすシェイドを一瞥したライネは、そのまま視線をイエレドに向けた。
彼は難しい顔をして手首に着けたデバイスを凝視している。
「………………」
怪しい、とライネは思うのだが確たる証拠がない。
余計なことをして警戒されては尻尾をつかめなくなる。
今はそれよりもシェイドの護衛が最優先だと考えなおし、ぐっと拳を握りしめる。
あくまで任務として彼を守るつもりだったが住民に慕われ、皇帝という立場に驕らず率先して働く彼を見てライネの気持ちは変わりつつあった。
彼女は儚げで見るからに繊細そうな彼を弟のように見ていた。
人の多いところでは手をつないでいないと迷子になってしまいそうな――。
そんな少年を体を張って守らなければならない。
任務としてではなく、使命感のようなものが芽生え始めていた。
車両は視界を遮られる険路にさしかかった。
(さっきフェルが言ってた場所か)
左右を崖に挟まれ、日当たりも悪い。
襲撃者が身を隠すには打ってつけだ。
フェルノーラと目が合う。
彼女は小さく頷いた。
イエレドは不安げにシェイドを見ている。
(来るか……?)
ここでこの従者が何らかの動きを見せ、再び襲撃者が現れれば証拠になる。
ライネもフェルノーラも約束したワケではなかったが、それぞれに警戒の目を光らせていた。
「………………」
だがその心配は杞憂に終わった。
車列は隘路を抜け、見通しの良い道に出た。
路面の状態は良く、窓の向こうには木々が青々と茂っている。
この辺りは砲撃を免れたようである。
しばし呼吸を忘れていたフェルノーラは視界が開けたことで安堵のため息をつく。
周囲には復興作業の拠点となる倉庫や工場、格納庫などが点在している。
それだけ人の目もあるから襲撃者も迂闊に手が出せないハズだ。
まだ警戒心を解いていないライネはイエレドの様子を窺った。
これといって不審な動きはなく、彼もどこか安心しているような表情だ。
つまりこの男は関与していない――ということになるのだが、
(まだ分からないよな……)
彼女はフェルノーラが言っていたことを思い出す。
”賊なら襲撃に適した場所を知っている”
その言葉どおりなら油断はできない。
自分もイエレドも中央からやってきた。
当然、プラトウの地理は知らない。
つまり先ほどの狭所で襲撃者の手引きをしなかったことが、かえってイエレドに対する疑いを強くする。
いっそ攻撃を受けていれば賊の仕業ということで片付けられたのに、とライネは思った。
(証拠がなけりゃいくらアタシが言っても――)
今回、同行している従者たちの顔を順番に思い浮かべる。
その中で信用でき、自分の言葉を信じてくれそうなのは――。
(あの人くらいか……)
普段は警備隊を務めるライネは従者との面識はない。
つまり誰の人となりも知らないのだが、特に印象に残っている者がひとりいた。
(ケッセルって人、あっちの車に乗ってる――)
プラトウに来てから何かとシェイドを気遣い、事あるごとに声をかけていた男だ。
冷たい印象を与える見た目だが、皇帝に付き従う者という意味ではこれ以上ない好人物だ。
彼に話してみよう。
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