3 / 8
第三話 前世の記憶
しおりを挟む
とてつもなくショックだった。
婚約が決まってからというもの、シグルドさまはデートのたびに何度も私に愛をささやいてくれた。
それがすべて演技だったってこと?
「ひどい……そんなのひどすぎる」
(ひどい? これぐらいひどくもなんともないと思うわよ。これから私がお姉さまにすることに比べたらね)
そう意味深な言葉を発したミーシャは、顔だけをシグルドさまに振り返らせた。
「シグルドさま! 今、セラスお姉さまがはっきりと自白いたしました! やはり、ここ最近第1王子のアストラルさまのお命を狙っていた刺客の黒幕はセラスお姉さまで間違いないようです!」
え? 一体何のこと?
アストラルさまの命を狙っていた刺客の黒幕?
アストラルさまとは、この国の第1王子であるアストラル・フォン・ヘルシングさまのことだろう。
私と同じ17歳でよく学院でもお見かけしたことがある。
正直なところ、シグルドさまとは容姿も体格も天と地ほども差がある超絶イケメンの王子だ。
そういえば、ここ数週間は学院でもぱったりと見かけなくなっていた。
まさか、誰かに命を狙われていたから学院に来てなかったの?
そして、その刺客の黒幕がなぜか私にされている?
「そうだったのか!」
私がパニックの極みに達していると、シグルドさまは「衛士、セラスを捕縛しろ!」と怒声を上げた。
すると壁際に立っていた2人の衛士が私に駆け寄ってきて、2人がかりで私の身体を左右から捕縛する。
「ま、待ってください! 私は無実です! 私はアストラルさまのお命などは断じて狙って――」
いません、と言葉を続けようとしたときだ。
このとき、私は自分の身体――首から下がまったく動かせないことに気づいた。
2人の衛士に左右から押さえつけられているからではない。
それも少なからずあったが、それ以上にまったく自分の首から下が動いてくれなかったのだ。
私はハッとした。
これもミーシャの【魔眼】のせいではないか。
なぜなら、先ほどの説明中に私はミーシャの【魔眼】をしっかりと見つめていたからである。
私は首だけを動かしてミーシャを見上げた。
するとミーシャは口パクだけで私に告げてくる。
ざまぁ、と。
一方、シグルドさまは真面目な顔で衛士たちに命令する。
「衛士たちよ、セラス・フィンドラルを牢屋にぶち込め! 明朝、僕の命を狙った罪で処刑する!」
そ、そんな……。
絶望に打ちひしがれた私は、何とかシグルドさまに無実を主張した。
けれど、シグルドさまは受け入れてくれる気配がない。
きっとこれがシグルドさまの本性なのだろう。
私に優しい顔を向けながら、裏で忌々しく舌打ちしていたのだ。
悔しい。
できることなら、この状況を何とかしたい。
でも、今の私には何もできない。
とはいえ、ここで完全に諦めてしまっては無実の罪で処刑されるだけだ。
「お願いです、シグルドさま! 私の話を聞いてください! 私は何も――」
「この期に及んで白々しい! いい加減に観念して、大人しく自分の罪を認めなさいよ!」
ミーシャは高らかに叫ぶと、私の腹をハイヒールのつま先で蹴ってきた。
ズンッ!
私の腹――胃袋の位置に深々とハイヒールのつま先が突き刺さる。
そのときだった。
私の脳内に【空手】という言葉がはっきりと浮かんだ。
そして――。
私は前世の記憶のすべてを思い出した。
婚約が決まってからというもの、シグルドさまはデートのたびに何度も私に愛をささやいてくれた。
それがすべて演技だったってこと?
「ひどい……そんなのひどすぎる」
(ひどい? これぐらいひどくもなんともないと思うわよ。これから私がお姉さまにすることに比べたらね)
そう意味深な言葉を発したミーシャは、顔だけをシグルドさまに振り返らせた。
「シグルドさま! 今、セラスお姉さまがはっきりと自白いたしました! やはり、ここ最近第1王子のアストラルさまのお命を狙っていた刺客の黒幕はセラスお姉さまで間違いないようです!」
え? 一体何のこと?
アストラルさまの命を狙っていた刺客の黒幕?
アストラルさまとは、この国の第1王子であるアストラル・フォン・ヘルシングさまのことだろう。
私と同じ17歳でよく学院でもお見かけしたことがある。
正直なところ、シグルドさまとは容姿も体格も天と地ほども差がある超絶イケメンの王子だ。
そういえば、ここ数週間は学院でもぱったりと見かけなくなっていた。
まさか、誰かに命を狙われていたから学院に来てなかったの?
そして、その刺客の黒幕がなぜか私にされている?
「そうだったのか!」
私がパニックの極みに達していると、シグルドさまは「衛士、セラスを捕縛しろ!」と怒声を上げた。
すると壁際に立っていた2人の衛士が私に駆け寄ってきて、2人がかりで私の身体を左右から捕縛する。
「ま、待ってください! 私は無実です! 私はアストラルさまのお命などは断じて狙って――」
いません、と言葉を続けようとしたときだ。
このとき、私は自分の身体――首から下がまったく動かせないことに気づいた。
2人の衛士に左右から押さえつけられているからではない。
それも少なからずあったが、それ以上にまったく自分の首から下が動いてくれなかったのだ。
私はハッとした。
これもミーシャの【魔眼】のせいではないか。
なぜなら、先ほどの説明中に私はミーシャの【魔眼】をしっかりと見つめていたからである。
私は首だけを動かしてミーシャを見上げた。
するとミーシャは口パクだけで私に告げてくる。
ざまぁ、と。
一方、シグルドさまは真面目な顔で衛士たちに命令する。
「衛士たちよ、セラス・フィンドラルを牢屋にぶち込め! 明朝、僕の命を狙った罪で処刑する!」
そ、そんな……。
絶望に打ちひしがれた私は、何とかシグルドさまに無実を主張した。
けれど、シグルドさまは受け入れてくれる気配がない。
きっとこれがシグルドさまの本性なのだろう。
私に優しい顔を向けながら、裏で忌々しく舌打ちしていたのだ。
悔しい。
できることなら、この状況を何とかしたい。
でも、今の私には何もできない。
とはいえ、ここで完全に諦めてしまっては無実の罪で処刑されるだけだ。
「お願いです、シグルドさま! 私の話を聞いてください! 私は何も――」
「この期に及んで白々しい! いい加減に観念して、大人しく自分の罪を認めなさいよ!」
ミーシャは高らかに叫ぶと、私の腹をハイヒールのつま先で蹴ってきた。
ズンッ!
私の腹――胃袋の位置に深々とハイヒールのつま先が突き刺さる。
そのときだった。
私の脳内に【空手】という言葉がはっきりと浮かんだ。
そして――。
私は前世の記憶のすべてを思い出した。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら人嫌いで有名な不老公爵に溺愛されました~元婚約者達は家から追放されたようです~
琴葉悠
恋愛
かつて、国を救った英雄の娘エミリアは、婚約者から無表情が不気味だからと婚約破棄されてしまう。
エミリアはそれを父に伝えると英雄だった父バージルは大激怒、婚約者の父でありエミリアの親友の父クリストファーは謝るがバージルの気が収まらない。
結果、バージルは国王にエミリアの婚約者と婚約者を寝取った女の処遇を決定するために国王陛下の元に行き――
その結果、エミリアは王族であり、人嫌いで有名でもう一人の英雄である不老公爵アベルと新しく婚約することになった――
悪役令嬢は婚約破棄され、転生ヒロインは逆ハーを狙って断罪されました。
まなま
恋愛
悪役令嬢は婚約破棄され、転生ヒロインは逆ハーを狙って断罪されました。
様々な思惑に巻き込まれた可哀想な皇太子に胸を痛めるモブの公爵令嬢。
少しでも心が休まれば、とそっと彼に話し掛ける。
果たして彼は本当に落ち込んでいたのか?
それとも、銀のうさぎが罠にかかるのを待っていたのか……?
まったく心当たりのない理由で婚約破棄されるのはいいのですが、私は『精霊のいとし子』ですよ……?
空月
恋愛
精霊信仰の盛んなクレセント王国。
その王立学園の一大イベント・舞踏会の場で、アリシアは突然婚約破棄を言い渡された。
まったく心当たりのない理由をつらつらと言い連ねられる中、アリシアはとある理由で激しく動揺するが、そこに現れたのは──。
国護りの力を持っていましたが、王子は私を嫌っているみたいです
四季
恋愛
南から逃げてきたアネイシアは、『国護りの力』と呼ばれている特殊な力が宿っていると告げられ、丁重にもてなされることとなる。そして、国王が決めた相手である王子ザルベーと婚約したのだが、国王が亡くなってしまって……。
王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。
守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。
だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。
それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。
籍入れた瞬間にモラハラ化した夫は悪霊に取り憑かれていると判断しました
海林檎
恋愛
籍を入れた瞬間に夫となる彼が豹変しました。
特に私は霊感がある訳ではありません。
あるのは空手黒帯五段だけです。
とりあえず物理的に除霊が可能かやってみることにしました。
公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです
エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」
塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。
平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。
だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。
お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。
著者:藤本透
原案:エルトリア
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる