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そう、あの時。


「え、どこ? ここ」

見慣れない風景、見慣れない服装の人達。
私は学校にいたはずだった。下校するのに教室から出て校舎の階段を降りて……気が付いたらここにいた。

RPGゲームで見たファンタジー世界のような、お伽噺の世界のような建物が並ぶ街の中。
曇っていたはずの空は青く晴れ渡り、鳥が飛んでいく。

学校指定の黒い鞄を持ち、緑を基調としたブレザーの制服を着た私を見て、道を行く人達は聞きなれない言葉を発していた。

通りを何度も行き来して、知らない場所であることがわかり、現実が信じられなくて目を閉じて開くを繰り返し、しまいには気が付いた時の場所で立ち尽くして動けなくなってしまっていた。スマホも圏外でGPSも無意味だった。

そしたら、誰かが私のことを通報したのか、揃いのかっちりした服を着た強そうな若い二人の男性に声をかけられて、戸惑って、連れていかれそうになるのに抵抗している時に、間に入ってくれたのがディアンだったのだ。


その時の私にはわからなかったけれど、「嫌がっているじゃないか」と言って、引き留めて、私を引き取ってくれたらしい。
ディアンは有名人で、身分もしっかりしていたから、任せても大丈夫だと判断されたらしい。
問題が起きたら騎士団まで知らせることを条件に引き取られた私は、その場でおでこを合わせられ、驚いている間に魔法をかけられて、言葉が通じるようになった。
知らない言葉が日本語に聞こえた時は泣きそうになった。

「行くあては……」
「もちろんないです」
「……一人暮らしだが、俺の家に来るか」
「はい」
「一つ言っておく。俺に迷惑をかけたら追い出すからな」
「はい。気をつけます!」

そうして私は人嫌いなのに困っている人を見捨てられない優しい魔術師と同居することになった。


それから魔法を教えられ、魔法陣に興味を持って自分でも作成してみたら、込められた魔力と出来上がりの精密さに目をつけられ、次々と仕事を依頼されるようになり、今に至る。


魔法以外も必要なことは教えてくれたから、日常で困ることはなかった。
雑談は少なかったけどね。



「太るぞ」
「余計なお世話ですー」

それも解消したと言っていいのか、仲は深まっていると言っていいのか、最近のディアンは一言多い。

「甘いものは別腹! 疲れた時の糖分補給!」

お菓子の材料も自分のカゴに入れて、魔法で読み取る会計に向かう。特にチョコレートは外せない。そのまま食べてもまた良し。

「ダイエット制限には付き合わないからな」
「何も期待してませんよ!」

運動も含めてディアンの自己管理は素晴らしいので、私は見習わない方向で。
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