悪役令息は未来を憂う

hina

文字の大きさ
上 下
8 / 15

8

しおりを挟む
「リュシアン、顔が真っ赤だな。照れてるのか? 可愛い」
「か、可愛くなんて……」
テーブルの向こうから手を握ろうとしてくるカミルの手を避けながら、もう片手で頬を押さえる。

「ああ、そうだ。週末、時間が取れたから、デートに行こう。どこか行きたいところはあるか? したいことや食べたいものは? 考えておいてくれ」
「えっ、あ、はい」

デートかあ。久しぶりだなあ。

僕はわくわくしながら、食後の紅茶を口に含んだ。







「ああ、綺麗だ。リュシアン」

週末。馬車の中でぴったりと身体をくっつけられながら、僕は密やかに心臓を高鳴らせていた。

近い。近過ぎるっ。

「カミル、離れて」
「どうして?」
「どうしてって……僕達は未婚のαとΩだし」
「だが、婚約している」
「嫌いになるよ?」
「ごめん。愛してるよ」

と言いながら、額に唇を寄せるカミルは本当に分かっているのだろうか。

さっきからカミルのフェロモンが香ってきて、頭がくらくらしていた。
淹れたての珈琲みたいな香り。僕はチョコレートみたいな香りだと言われる。

未熟なΩでもαの匂いはわかるんだよなと思いながら、並んで座るカミルから距離を取る。

今日の僕は侍従達とお母様の見立てで、カミルの瞳の色の服を着ている。
秋にしては色が薄いんじゃないかと思ったけど、絶対喜ぶからの声に負けてしまった。

カミルは一目見て、笑顔になっていた。

まるで僕が全身で好きって言ってるみたいだななんて気が付いたのは、その笑顔を見てからだった。

乗せられるのは危険だ。

でも濃い紫色の服を着てるカミルを見て、色は同じだなとちょっと気分があがったりして。言わないけど。



「今日は手を繋いで歩こう。楽しみだな」
「ぼ、僕も……楽しみ」
「ああ、リュシアン。嬉しいよ」

手を取るくらいは許してあげようと思いながら、ずっとドキドキしたままの心臓がバレませんようにと願った。







「美味しいー! 幸せ」
城下町のお店で季節のフルーツタルトを食べている。

カミルと食べるお昼でも、家での夕食でもデザートは出るけど、Ωだからか量は食べられないので、いつも少量しか食べないから、がっつり甘いものを食べるのは久々だったりする。
週末もお茶の時間はあったりなかったりするし。

やっぱり、今の季節のフルーツは美味しい。
クリームも甘さ控えめでタルトがサクサクで、ほっぺたが落ちる。

「カミルも一口食べてみる?」
「リュシアンが食べさせてくれるなら」
お行儀は良くないけど、デートだもんね。
これくらいはしても良いよね。

「ん、美味しい」
「だよねっ」

若い女の子が集まるお店だからか、カミルは注目を集めているけど、そんなことが気にならないくらい、僕は甘いものを堪能した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ! 知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。 突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。 ※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。

ヒーローは洗脳されました

桜羽根ねね
BL
悪の組織ブレイウォーシュと戦う、ヒーロー戦隊インクリネイト。 殺生を好まないヒーローは、これまで数々のヴィランを撃退してきた。だが、とある戦いの中でヒーロー全員が連れ去られてしまう。果たして彼等の行く末は──。 洗脳という名前を借りた、らぶざまエロコメです♡悲壮感ゼロ、モブレゼロなハッピーストーリー。 何でも美味しく食べる方向けです!

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

兄の恋人(♂)が淫乱ビッチすぎる

すりこぎ
BL
受験生の直志の悩みは、自室での勉強に集中できないこと。原因は、隣室から聞こえてくる兄とその交際相手(男)のセックスが気になって仕方ないからだ。今日も今日とて勉強そっちのけで、彼らをオカズにせっせと自慰に励んでいたのだが―― ※過去にpixivに掲載した作品です。タイトル、本文は一部変更、修正しています。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

君への想い

暁エネル
BL
20歳まで生きられないと言われた 病弱な少年が大人になり 一目見てあこがれた人に懸命にアプローチを試みる ちょっぴり悲しい話です

「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、新しい婚約者が最高すぎた。

古森きり
恋愛
SNSで見かけるいわゆる『女性向けザマア』のマンガを見ながら「こんな典型的な横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で貧乏令嬢になったら典型的な横取り女の被害に遭う。 まあ、婚約者が前世と同じ性別なので無理~と思ってたから別にこのまま独身でいいや~と呑気に思っていた俺だが、新しい婚約者は心が男の俺も惚れちゃう超エリートイケメン。 ああ、俺……この人の子どもなら産みたい、かも。 ノベプラに読み直しナッシング書き溜め中。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ベリカフェ、魔法iらんどに掲載予定。

処理中です...