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「ユーリ、生徒会長はお前と婚約を結ぼうと動き出してるらしいぞ」
「えっ!?」
「真偽は確かめた方が良いと思うけど、もし事実だった場合、ユーリは逃げられないかもね」
うちみたいな男爵家では、公爵家からの婚約の申し込みを断ることなんて出来ない。
何より、家族は婚約を喜びそうで複雑だ。
外堀から埋められている。
昨日の今日で、あまりにも早い行動に呆気に取られる。
「嫌だ……」
だからと言ってもう動き出しているなら、婚約を白紙にするのも無理だよなと思ったら、ぞくりと寒気が走った。
何が何でもものにしようとするその意思に怯む。
その強い決意がどこから来るのか、僕には見当も付かなかった。
「ああ。もちろん」
昼食に誘いに来た会長に婚約の事を聞いたら、これである。
「もちろん申し込ませてもらった。ユーリにも数日以内に伝えられるだろうから、色良い返事を期待してる」
「僕が! 断れないとわかってての所業でしょうか! もう信じられない」
「ユーリがまだ誰とも婚約していなくて良かった。まあもししていても破棄させるが」
「ナチュラルに潰そうとするのやめて下さい」
出かけていた涙も引っ込んで、僕は脱力した。
恋人同士ですらないのに、いきなり婚約者だ。混乱もする。
付き合う付き合わないのやりとりは何だったのか。強硬手段に出てるじゃないか。
「会長のお相手が僕なんかでいいんですか?」
「なんかじゃなくて、お前がいい。ユーリじゃないとダメだ」
「会長のご両親は反対されないんですか? 勝手に申し込んで大丈夫なのかと」
「昨日の夕に連絡して今日の朝には許可を得ている。勝手じゃないさ」
なんて素早いのでしょう。感心してる場合じゃないな。
「僕は嫌なんです。婚約は受け入れるしかないのかもしれませんが、もし結婚しても仮面夫夫になりますよ? それでもいいんですか?」
「愛してもらえるように……愛し合えるように努力するから大丈夫だ」
「それでも僕が愛せなかったら?」
「なぜ頑なに拒むのかわからないけど、俺が愛しているからユーリはただ愛されればいい」
「一方通行な愛ですね」
あんまり拒むのも記憶があると言ってるようなものなのかもしれないとふと気が付く。でも無理なものは無理だ。
記憶があるとバレて、その上で会長を受け入れてしまったら、それは前世を肯定することになってしまう。それだけは有り得ない。きっと自分の事が許せなくなるだろう。
記憶があると知られて、懐かしむように前世を語られても、穏やかに受け止めることも出来ないだろう。
僕は前世に傷付いている。それが問題なんだ。会長がそれに気が付いていないことも。
「そうかもしれないな。だけどユーリを手離すことはもう出来ない。俺はユーリを必ず幸せにする」
「生徒会長、その言葉に偽りはありませんか?」
「ない。全力を尽くす」
近くで話を聞いていたルネとケネスが気が付けばすぐそばに立っていた。
「ユーリ、僕達は今のところ生徒会長にならユーリを任せてもいいんじゃないかと思ってるけど、ユーリはどう?」
「会長に対する苦手意識はそう簡単になくならない……かな。今のところオーラは平気なんだけど」
「苦手意識? オーラ?」
「ユーリは生徒会長のオーラが怖くて苦手らしいですよ。でも平気になったの? けど、苦手意識は消えないんだね」
ルネが会長の疑問に答えつつ、僕を見た。
「そうなのか。なるべく優しく接するから慣れてくれ」
「強引なところも嫌いですからね?」
「それくらいにしておけ」
ケネスが笑いながら窘める。僕はまだ言い足りないけど、あんまり貶すのも確かに得策ではないかもしれない。
「さて、食堂に向かいましょう。時間がなくなってしまいます」
ルネの言葉に従って、僕は寄りかかっていた廊下の壁から離れた。
「えっ!?」
「真偽は確かめた方が良いと思うけど、もし事実だった場合、ユーリは逃げられないかもね」
うちみたいな男爵家では、公爵家からの婚約の申し込みを断ることなんて出来ない。
何より、家族は婚約を喜びそうで複雑だ。
外堀から埋められている。
昨日の今日で、あまりにも早い行動に呆気に取られる。
「嫌だ……」
だからと言ってもう動き出しているなら、婚約を白紙にするのも無理だよなと思ったら、ぞくりと寒気が走った。
何が何でもものにしようとするその意思に怯む。
その強い決意がどこから来るのか、僕には見当も付かなかった。
「ああ。もちろん」
昼食に誘いに来た会長に婚約の事を聞いたら、これである。
「もちろん申し込ませてもらった。ユーリにも数日以内に伝えられるだろうから、色良い返事を期待してる」
「僕が! 断れないとわかってての所業でしょうか! もう信じられない」
「ユーリがまだ誰とも婚約していなくて良かった。まあもししていても破棄させるが」
「ナチュラルに潰そうとするのやめて下さい」
出かけていた涙も引っ込んで、僕は脱力した。
恋人同士ですらないのに、いきなり婚約者だ。混乱もする。
付き合う付き合わないのやりとりは何だったのか。強硬手段に出てるじゃないか。
「会長のお相手が僕なんかでいいんですか?」
「なんかじゃなくて、お前がいい。ユーリじゃないとダメだ」
「会長のご両親は反対されないんですか? 勝手に申し込んで大丈夫なのかと」
「昨日の夕に連絡して今日の朝には許可を得ている。勝手じゃないさ」
なんて素早いのでしょう。感心してる場合じゃないな。
「僕は嫌なんです。婚約は受け入れるしかないのかもしれませんが、もし結婚しても仮面夫夫になりますよ? それでもいいんですか?」
「愛してもらえるように……愛し合えるように努力するから大丈夫だ」
「それでも僕が愛せなかったら?」
「なぜ頑なに拒むのかわからないけど、俺が愛しているからユーリはただ愛されればいい」
「一方通行な愛ですね」
あんまり拒むのも記憶があると言ってるようなものなのかもしれないとふと気が付く。でも無理なものは無理だ。
記憶があるとバレて、その上で会長を受け入れてしまったら、それは前世を肯定することになってしまう。それだけは有り得ない。きっと自分の事が許せなくなるだろう。
記憶があると知られて、懐かしむように前世を語られても、穏やかに受け止めることも出来ないだろう。
僕は前世に傷付いている。それが問題なんだ。会長がそれに気が付いていないことも。
「そうかもしれないな。だけどユーリを手離すことはもう出来ない。俺はユーリを必ず幸せにする」
「生徒会長、その言葉に偽りはありませんか?」
「ない。全力を尽くす」
近くで話を聞いていたルネとケネスが気が付けばすぐそばに立っていた。
「ユーリ、僕達は今のところ生徒会長にならユーリを任せてもいいんじゃないかと思ってるけど、ユーリはどう?」
「会長に対する苦手意識はそう簡単になくならない……かな。今のところオーラは平気なんだけど」
「苦手意識? オーラ?」
「ユーリは生徒会長のオーラが怖くて苦手らしいですよ。でも平気になったの? けど、苦手意識は消えないんだね」
ルネが会長の疑問に答えつつ、僕を見た。
「そうなのか。なるべく優しく接するから慣れてくれ」
「強引なところも嫌いですからね?」
「それくらいにしておけ」
ケネスが笑いながら窘める。僕はまだ言い足りないけど、あんまり貶すのも確かに得策ではないかもしれない。
「さて、食堂に向かいましょう。時間がなくなってしまいます」
ルネの言葉に従って、僕は寄りかかっていた廊下の壁から離れた。
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