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「やばい! 仕事! って、痛たた……」

窓から差し込む光の入り方で、いつもより寝てしまった事に気が付く。
時計を探したところで、人がいることに驚く。
食堂の誰かが起こしにきたのかと思ったけど、それは違っていて。


「おはよう、ノア」
「おは……よう」

朝から見たくない顔を見て、ここが食堂の二階でないことを確認した僕は痛む腰を摩った。

「ノアは急な発情で休むと俺が伝えてくるから、勤務先を教えてくれ。まだ発情フェロモンが漏れてるから、この部屋から出るなよ。この部屋の周りにはフェロモン遮断の結界を張ったからな」
「勤めてるのは霊峰の麓亭だけど……」
「わかった。俺はこれから任務に向かうが、昼はパンを買ってきたから、好きなのを食べろ。夜には戻る」
レーゼルは部屋の片隅にあるテーブルセットをちらりと見る。テーブルの上には紙袋が置かれている。

「討伐は何日くらいかかる?」
「半月はかかるだろうな……災害級の魔獣だからな。徐々に弱らせないと俺達がやられる。今回は翼があるタイプじゃないのが救いだ」
「でもどうやって追跡するの? 一ヶ所には留まってないよね?」
「俺は集中すれば魔力の流れが分かる。それに魔力を覚えれば、逃げられても居場所は特定出来る。災害級の魔獣は魔力も特徴的だからすぐ分かる」
「そ、そう……」

そういえば、レーゼルは特級魔法師だった……。
何でもないように普通の人の不可能を可能にしてしまう。


通常、大きな都市には外壁もあるし、外壁がない街や村にも魔獣よけの結界が張られているので、街にいる限りは魔獣の心配はしなくていいのが、この世界の事情だったりする。


「ああ。そうだ。勤務先に来月には仕事を辞めるって伝えろよ」
「は?」
「俺と結婚するんだから、当然だろ? 俺は王都に住んでるからな。ノアも当然俺と暮らすんだから、この街での仕事は続けられないだろ」
「はああ!? なんでそんな話になるんだ! 僕は貴方とは結婚なんてしない!」
「運命のフェロモンを知ったんだ。離れることなんて出来やしない。諦めろ」
「レーゼルが! 諦めて!」
「吸って」
「え?」

ベッドの横に立っていたレーゼルがベッドに座り、僕を抱き寄せて頭を大きな手で包むと、自分の首筋に僕の鼻先を寄せた。

「その手には乗らないから!」
「ほら、ノアのための香りだ。存分に味わえ」
「んー!!」


フェロモンで惑わされないように息を止めるけど、長くは続かなくて、結局最後にはレーゼルのフェロモンでくったりしてしまうのだった。
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