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◇
「何だか外が騒がしいですね。どうしたんだろう」
「王立騎士団と宮廷魔法師のレーゼル様もこの街に滞在されるらしい。みんな見に行ってるよ」
今日も食堂で働いている僕に、常連のおじさんがそう教えてくれる。
「王立騎士団……レーゼル様? って誰? ですか」
「え、レーゼル様を知らないのかい?」
「はい」
「四年前、十八歳の若さで特級魔法師になった天才魔法師だよ」
「え、特級魔法師!? 特級なんて実在するんですか!?」
「するんだよ、これが。だから凄いんだ」
「へー。会ってみたいですね。あ、お水無くなりそうですね。注ぎましょうか?」
「お、悪いな」
今は凄い人より、生活の安定!
……でもそんな人達がこんな国の外れの小さな街に何の用だろう。
◇
「はぁ……」
あったまった! 湯冷めしないうちに帰ろうっと。
公衆浴場から出た僕は真っ暗な夜道を急いだ。
身体は湯冷めするどころか段々と暑くなってきて、鼻腔を香木っぽい上品な良い香りが擽っている。
何か変だと思った時、ドクンと心臓が脈打った。
香りの元だと思われる間近に立っている青年を見た瞬間、時が止まったかのような錯覚に囚われた。
顎のあたりまである黒髪に青い瞳。精悍な顔立ちは美しく、高い身長に長い手足がすらりとした印象を与えている。
纏う雰囲気はαのそれで、僕はこの状態が発情なんだと気が付く。
「抑制剤……」
舌で溶かすタイプのものをいつも持ち歩いている。
それを取り出して口に入れる。
「お前は……俺の、運命?」
「運命、なんて……」
こんな攻略対象者はいなかったはずだ。攻略対象者にいてもおかしくなさそうな美形だけど、一体誰……?
「いや、今はそれより。俺の泊まってる宿に行くぞ。このままにしておけない」
「抑制剤も、服用したし、僕、帰ります。離して下さい」
はあはあ息を切らしながら、触れてくる大きな手を払い除ける。
αの手は借りたくない。
「抑制剤で治まると思うのか? 運命だぞ」
「運命なんて、出会いたくなかった」
「そうだな。それには同意する。運命なんて呪いのようなものだ」
「じゃあ、離して……」
「けれど、出会ったら離れられない。だから、正しく呪いだ」
肩を抱かれ、手を取られた次の瞬間、目の前の景色が変わっていた。
転移、術……!?
「何だか外が騒がしいですね。どうしたんだろう」
「王立騎士団と宮廷魔法師のレーゼル様もこの街に滞在されるらしい。みんな見に行ってるよ」
今日も食堂で働いている僕に、常連のおじさんがそう教えてくれる。
「王立騎士団……レーゼル様? って誰? ですか」
「え、レーゼル様を知らないのかい?」
「はい」
「四年前、十八歳の若さで特級魔法師になった天才魔法師だよ」
「え、特級魔法師!? 特級なんて実在するんですか!?」
「するんだよ、これが。だから凄いんだ」
「へー。会ってみたいですね。あ、お水無くなりそうですね。注ぎましょうか?」
「お、悪いな」
今は凄い人より、生活の安定!
……でもそんな人達がこんな国の外れの小さな街に何の用だろう。
◇
「はぁ……」
あったまった! 湯冷めしないうちに帰ろうっと。
公衆浴場から出た僕は真っ暗な夜道を急いだ。
身体は湯冷めするどころか段々と暑くなってきて、鼻腔を香木っぽい上品な良い香りが擽っている。
何か変だと思った時、ドクンと心臓が脈打った。
香りの元だと思われる間近に立っている青年を見た瞬間、時が止まったかのような錯覚に囚われた。
顎のあたりまである黒髪に青い瞳。精悍な顔立ちは美しく、高い身長に長い手足がすらりとした印象を与えている。
纏う雰囲気はαのそれで、僕はこの状態が発情なんだと気が付く。
「抑制剤……」
舌で溶かすタイプのものをいつも持ち歩いている。
それを取り出して口に入れる。
「お前は……俺の、運命?」
「運命、なんて……」
こんな攻略対象者はいなかったはずだ。攻略対象者にいてもおかしくなさそうな美形だけど、一体誰……?
「いや、今はそれより。俺の泊まってる宿に行くぞ。このままにしておけない」
「抑制剤も、服用したし、僕、帰ります。離して下さい」
はあはあ息を切らしながら、触れてくる大きな手を払い除ける。
αの手は借りたくない。
「抑制剤で治まると思うのか? 運命だぞ」
「運命なんて、出会いたくなかった」
「そうだな。それには同意する。運命なんて呪いのようなものだ」
「じゃあ、離して……」
「けれど、出会ったら離れられない。だから、正しく呪いだ」
肩を抱かれ、手を取られた次の瞬間、目の前の景色が変わっていた。
転移、術……!?
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