珊瑚の恋

hina

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「な、何故ですか? 私、何か青様の気に障る事をしてしまいましたか? 最近塞ぎ込んでいたのは、私が原因ですか?」
「違うんだ。桜のせいじゃない。ただ危険な目にはあわせたくないんだ」
「危険な目?」

話が見えなくて青様を見上げる。
ふと青様の部屋の中を見ると、分厚い本や沢山の書類が机や床に散らばっていた。
綺麗好きな青様らしくない。



「取り敢えず、入ってくれ」
「はい」

私の部屋も青様の部屋も三階建ての海星家本邸の三階にある。
見晴らしが良く、庭の向こうに帝都の様子も見られる和室だ。

青様の部屋に入り、何個もあるクッションに埋もれる。
ふと近くにあった書類を見てみると、この近辺のまじないの術者や薬屋のリストだった。
ペンで線が引かれていたり、文字が書き込まれている。



「桜、信じられないような話かもしれないが聞いてくれ」
「は、はい」
肩に両手を置かれ、引き締まった表情をする青様を前に唾を呑む。

「数百年前、海星家の若い男性がある薬を飲んだんだ」
「ある薬?」
「そう。不老不死の薬らしい」
「不老不死!? そんなものが実在するんですか?」
私の問いかけに青様が頷く。

「その薬は、その男性の子孫に呪いを残した」
「呪い?」
「ああ。身体が病気にも怪我にも強くなり、老いが緩やかになって、寿命が長く延びる」
「ん? それが呪い?」
良いことのようにも思えるけど……。
「愛する伴侶がいても先立たれるんだ。呪いじゃないか。それに、それだけじゃない」
「それだけじゃないって」
「ここからが重要なんだ。その呪いが発動するのが成人した間近の時で、その時に一時的に正気を失い、珊瑚族の血肉を欲するようになるらしい」
「血肉……」
「桜を、食べてしまうかもしれない」
「え」

思わず絶句する。青様はこんな事を抱え込んでいたのか。

「血肉を欲するって、摂取出来なかったらどうなるのですか?」
「その時は耐え切れず、自害するらしい」
「自害……」
「ああ。調べてみたら、元々不老不死の薬の調合は凄く難しいらしいんだ。材料に珊瑚族の妖の瞳が使われていて、調合に失敗したのに気が付かずに服用してしまうと、変に作用してしまうらしい。そして子孫に呪いのような副作用が出た……。それでも、不老不死にならなかったことに感謝するべきなのかもしれない」
「私がこの家を出たら青様の命が危ないなら、私はこの家に残ります!」
「そう言うような気はしてたよ……」

青様が震える腕で私をふわっと抱きしめた。久しぶりの抱擁に涙が出てくる。

「もう時間がない。副作用を消す薬や術、方法がないかも調べてみたんだが、解決策は見つかっていない。ただ、特殊な薬を売る薬屋の情報は掴んだから、そこに行ってみようと思う。私も本当は桜と離れたくない。だけど、危険な目にもあわせたくない。正気を失うとしても、桜を傷付けてしまったらと考えたら、それこそ気が気じゃないない。私は自分を責め続けるだろう。呪いの話は父から聞いたんだ。父も成人の時に苦しんだらしい。珊瑚族が隠れて暮らす意味も今ならわかる。桜、まじないの術者は私が父に内緒で手配するから、いざという時は迷わず逃げて欲しい」
「青様……」
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