欲しいのはただ君一人

hina

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「そうか。まだ手がかりもないか」
「うん。なかなか難しいよ」
「湊の歌は心に響く。番が日本人ならそのうち気がつくさ」
「前世は同じ国の人だったから、今世もそうなんじゃないかと決めつけて日本語で歌ってるけど、そのうち英語でも曲書こうかな」
「そこらへんは俺には分からないが」
「そうだね。俺にも」

個室のイタリアンでワインを飲みながら、色々な話をする。
俺達兄弟は二人とも酒が強い。
俺は兄の言葉に笑って、またグラスをあおった。

「兄さんは百合さんとどうなの?」
「うちは相変わらずだよ。無理矢理結ばされた縁だ。努力はするけど、それだけかな」
「兄は兄で難しいか」
「だな。お前は掴めよ。家に振り回される必要はない」
「うん。見つけ出したい」
「月白は俺に任せろ」
「頼りにしてます」


もう少し踏み込んだ曲を書いてみてもいいかもしれない。
まずは気分を変えようかな。
一週間くらい、旅にでも出ようか。


──兄との食事は実りの多いものだった。





「予約した月白です。お世話になります」
「ようこそ月白様。お部屋は205号室です。息子がペンション内をご案内致しますので少々お待ちください」
「はい」


「月白様! ご案内……って、え?」

どうして? 発情期は終わったばかりなのに。
あの身体の変化が僕の身にまた起こる。

「お母さん、僕……!」
「この匂い、律のフェロモン!? それに月白様からも……!」
「どうやら、俺達運命の番らしいですね……かなりキツい……」
「こちらからすぐの自宅に発情期用の部屋がありますので、大変申し訳ないのですが、どうかそちらへ」
「分かりました。連れて行って下さい」
「はい。夫に伝えて参りますので少しだけお待ちください」
母がフロントの中にいる父の元へ行く。

立っているのがツラくてしゃがみ込んだ僕は靴をはくその男性を見た。
黒い帽子にマスクをつけていて、顔がよく分からない。
でも背が凄く高くて、背格好がモデルみたい。

艶っぽい低い声は耳に心地よい。

月白様が僕に手を伸ばす。抱き抱えてくれるらしい。

母が戻ってきて、僕達は自宅へ向かった。
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