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第14章 Sin fin

第421話 家族旅行3

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イスラ国内では来るべき日に備えて宮廷料理の見直しと、街の美観に全力をもって対処していた。
何度も試食を重ねて今までに無い自国の料理の数々が完成し王宮の試食会では絶賛されていた。
街中も国民の協力を要請し、道に落ちているゴミを無くし、共同便所を増やし、手が付けられない場所は塀で隠して美観を保った。
そのせいか、以前とは見違える様に綺麗な街になっていた。


そしてロザリーと息子たちが観光にやってくる日がきた。
ボノスは少年王としての立ち振る舞いを何度も指導され練習してきた。
当日、エルヴィーノには予定表が渡された。
それはフロルには前日にエマスコで送られていた物だ。
ロザリーの訪問日は決まっていたが、他の妻たちの訪問日程だ。

(一度に全員で来れば楽なのに・・・)
エルヴィーノは心で愚痴を呟く。

妻たちは自尊心が強い。
よっぽどの事が無ければ、自分が一番でいたいのだ。
初めての国を訪れるのであれば、国を代表して個々に訪問する事で全員が同意したらしい。
順番は例によって妻たちの序列だ。
つまり、ロザリー、メルヴィ、ロリ、パウリナ、シーラの順だ。
そして日程は先行の妻が帰った翌日に次の妻がやってくるのだ。
滞在期間は二泊で、それが五回続くのだ。
戦慄を覚えるフロルとボノスだ。
即座に王宮や警備の者達にその旨が伝わる。
初代女王からは、魔剣王の妻たちは全て魔法を使えない種族だったが、黒龍王の妻は全て絶世の美女と同時に魔法使いなので敬意を表して対応する様に命令された。

基本的には同じ予定で全員を”おもてなし”する計画だ。
フロルは自らの自尊心の為。
ボノスは自国の威信をかけて。
それは重臣たちも同様だった。
三度の食事から夜の宴会の内容まで綿密な打ち合わせに練習を重ね、街中の店に至るまで指導が入り夜遅くまで行われていた。


ロザリーと事前に相談して決めたのが転移場所だ。
フロルの部屋に作ってあったが、家族旅行と言え皇太子たちの表敬訪問となるので、外から街に入った方が良いと決めたのだ。
そして急遽作った転移場所だ。
城下町の外に小さな家の形をした転移室を作らせた。
実際に転移してくるのは護衛も含めて数人だ。

フロルとボノスから提案があった。
それは国内でエルフを見たものは居ないので”大変な事”になるから、兵を使って城まで護衛させると提案してきたのだ。
(確かにそうかもな。人族だし・・・)
「解った。兵士を使って塀を作ってくれ。二列作って間を歩いて登城するから」

そんなやり取りを経て当日を迎えたのだ。
転移小屋の前には、フロルとボノスに重臣数名とおびただして兵士が待機していた。
噂が噂を呼び、同盟国や友好国の関係者も多く参列していた。



約束の時間に扉が開いた。
すると、辺りから”どよめき”が起こる。

今回訪問するのはロザリーとエアハルトにスフィーダだが、同行するのはナタリアとフリオだ。
付き添いにはアメリアの意見も有ったが、ゲレミオとして国を見る仕事を与えたのでナタリアになった。
客観的に自分以外にイスラを見た意見を知りたかったエルヴィーノだ。
そうなると護衛の騎士は見習いだがフリオになる。
エルフ王からは念のためフリオに魔法が付与された防具と武器が貸し与えられた。
思わぬ旅行となった二人は密かに喜んでいたと聞いた。

勿論息子たち二人を国外に出すためにはエルフ王の許可が必要だ。
なにせ一人は皇太子なのだから。
事前に若返らせた”エルフ五人組”を黒髪黒目に変化させて旅人としてイスラに潜入させてある。
有事の際にはナタリアが連絡して即座に駆け付ける為だ。
万全を期して迎えた訪問に子供たちは喜んでいた。

「ようこそイスラへ」
「フロルさん、ボノスさん、二日間ですがお世話になりますわ」
「はい、お姉さま」

「さぁ兄者、スフィーダ。参ろうか」
「あぁ、ボノス」
「うん」


街の大通りを兵士が二列になって道を作っている。
兵士は外向きだ。
その兵士越しにイスラ国民が騒ぎ立てながら見ている。
何故なら黄金色に輝く髪をなびかせて歩く白い肌の美しい女性は、男女問わず国民の視線が釘付けだからだ。
今回は若い女性からエアハルトにフリオの人気があるようだ。
“若干一名”が不機嫌なのは放置しておいた。

旅と言っても移動は転移なので、街中を歩いただけだ。
歩きながら街の説明と質問を繰り返しながら、後程改めて散策すると話している。

イスラの王宮は二階建てで高さは無いが、それなりに広い。
中庭もあり、離宮も有るが内心は、もっと高く作るべきだったと後悔しているフロルだ。

「素敵な宮殿ね」
「ありがとうございます、お姉さま」
ロザリーの一言で幾分安堵したフロルだ。
事実、異国の建築様式に装飾や草花は、旅を実感させていたからだ。
エアハルトとスフィーダも同様のようだ。
スフィーダに至っては幼いし初めての外国で、何もかもが新鮮だった。


宮殿に着くと少年王ガルダが緊張感のある挨拶をもらい、やさしく受け答えされて、”舞い上がっている” ガルダだ。
何しろ事前にボノスからは絶世の美女だと聞かされていたからだ。
一目で心を奪われたガルダは、終始耳が真っ赤だった。
そんなガルダをフロルとボノスが挟んで対応している。

国内外の関係者がロザリーとエアハルトの前で挨拶を済ますだけで、それなりの時間が掛かってしまったので、昼食をはさんで街中に観光へ出る。
そして夜は、準備していた祝宴だ。
男性だけや女性だけの踊りを見ながら異国の食文化を楽しむロザリー達だ。

夜の宮殿も松明の輝きで照らされ幻想的に見えていたようだ。

楽しい初日が予定通りに終わり、安堵するフロルに呼びかけた。
「今日はロザリーと寝るから後は頼む」
事前にロザリーから聞いてはいたが、本人から”これから浮気してくる”と言われると無性に腹が立ち嫉妬の炎が沸き立ったフロルだ。
有無を言わさず舌を要求された後で良い放された一言だ。
「浮気ものめぇ、私の宮殿で堂々と浮気するなんて絶対に許さないわ。私の番がきたら覚悟しなさいよ!!」

(・・・浮気じゃないし)
だが心の声は口には出さないエルヴィーノだ。
黙ってそそくさと消え去るのみなのだ。


子供たちが寝静まった後、封印された淫獣が目覚める。
「知らないと思ってここで浮気してたのね!! 今日は朝までだからね」
「子供たちが起きるから声出すなよ」
「解ってる。だからずっとこうよ・・・」

互いの声が漏れないように口と口を合わせて放さないのだ。
(これを朝まで続けるのかぁ)
その夜は、がっしりと抱きしめて腰だけが動いていたと言う。

隣の部屋では地元の女性人気が高かった見習い騎士が、嫉妬の炎を燃やす淫獣に貪り食われていた。




まだ初日です。
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