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第12章 戻ってから四度目の儀式
第349話 大魔王杯闘技大会その後7
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“ごめんなさい”
この言葉から、これ程の精神的な攻撃を受けるとは夢にも思っていなかったピラタであった。
ノタルム国の王城の一室で、エルヴィーノとファルソに、従者のシオンに連れられて正装でやって来た闘技大会優勝者のピラタだった。
廊下でもシオンから相手の言葉を受け入れると何度も約束されるが、もはや上の空だったピラタ。
部屋に入ると剣を交えた時とは打って変わって女性らしい姿を目の当たりにして、既に恐慌に似た状態で舞上がってしまうピラタだ。
「あ、あのぉ・・・お、俺、いやわ、私は・・・」
自分の部下の不甲斐なさにゲンナリするシオンと、全てを知るエルヴィーノが更なる重度の病を予感したのもこの時だった。
「ふふふ、お久しぶりですね」
「は、はい!!」
ファルソの声を聞き、更に舞上がるピラタ。
「今日は私に何かお話が有ると聞いていますが、一体どのようなお話でしょうか?」
面倒な事は早く終わらせたいファルソは、無駄話をせずに相手から”お決まりの言葉”を言わせて終わりにしたいのだ。
「はい、わ、わ、わたしは・・・」
真っ赤な顔で天井を見ながらドモるピラタの背中を大きく叩くシオンだ。
「しっかりしろ、ピラタ!!」
「はい、ファルソさん、惚れました。付き合ってください!!」
返事は間髪入れずに帰って来た。
「ごめんなさい・・・私、愛している人が居るの。貴男の申し出は受け取れません。そもそも聖騎士としての立場が・・・それに両国の関係性も・・・やっぱり周りの反対も有るし・・・」
「・・・はい、そうですか・・・解かりました・・・」
次々と断りの理由を並べたファルソ。
シオンはある程度想定していたのだろう。
しっかりしろと励ましている。
そんな2人を、特にピラタを見ていられなかったエルヴィーノだ。
「じゃ俺達は次の予定があるから行くな、後は頼んだぞ」
「は、お任せください」
硬直したピラタは部屋を出て行くファルソを目で追いかけた。
(ああああああぁぁぁ、ファルソちゃぁぁぁぁぁぁん!!)
「ピラタよ、我と陛下の前で誓った事を忘れた訳ではないだろうな」
ガックリと肩を落とし、座り込むピラタが苦悶の表情で声を絞り出し答えた。
「・・・はい・・・」
「ならば行くぞ。我らには成すべき事があるのだからな」
ピラタの襟を掴みズルズルと引きずられて行くピラタ。
誰がどう見ても闘技大会優勝者には見えないだろう。
※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez
暫らくしてシオンからエマスコが有った。
(陛下、ピラタの件ですが、あれ以来寝込んでしまいまして何か良い方法は無いでしょうか)
知るか!!
そう心で叫び、考える振りをする。
(そう言えば他の四天王は何かしてやらないのか?)
全て下調べを終わらせたシオンが即座に返信してきた。
(実は、今度はアルモニア人と結婚したいなどと言い出しまして・・・)
(それで?)
(一時の迷いから生じる物だと言い聞かせたのですが・・・)
(俺に何をして欲しいんだ?)
(いえ、そのような事は・・・ただ、思っていたよりも重傷なので一度陛下に見て頂きたいと思いまして)
失恋の重傷者を見て何をどうしろと言うのか理解出来ないエルヴィーノだ。
(解かった。連絡する)
(は、お待ちしております)
そうは言ったものの、経験の無い事には対処できないので経験者を探す事にした。
それは失恋を克服する手段だ。
とは言え、失恋の相談を妻達には出来る訳も無く、当事者は災いがのど元を過ぎたのですっかり元気になっている。
後エルヴィーノの男友達的な存在を1人ずつ思い出しながらブツブツと独り言を言いながら検討してみた。
リカルドは・・・駄目だ、リリオ一筋だからな。
親衛隊は・・・あいつ等は女っ気が無い。
ガンソは・・・無いだろうなぁ・・・
・・・
・・・
あっトラバオンはどうだ!? イヤ恋愛相談だぞぉ? 娼館の主に聞くのかぁ?
しかしまぁ他に相談する奴も居ないしなぁ・・・
思い立ったら即行動で、イグレシアに転移するエルヴィーノだ。
ブルデールの事務所に訪れて責任者を呼び出すアルモニア国国王であり、ブルデールの影の支配者だ。
しかし、ほとんどの関係者はエルヴィーノの事を知らない。
この様な緊急時の為に合言葉を作ってある。
事務所でその合言葉を関係者の誰かに伝えれば責任者を直接呼び出せるのだ。
「あぁ、そこの君、”夜の鍵を持って来た”から頼む」
「・・・は、はい。しばらくお待ちください」
しずしずと優雅に奥の部屋に入って行った女性だ。
すると、バンッと扉が開き勢い良く駆けだして走って来る男が目の前に跪いた。
「へ、陛下。わざわざお越し下さるとは、このトラバオンに何か御用名があっての事と・・・」
堅苦しいし、長いので割って入るエルヴィーノだ。
「トラバオン、お前に相談したい事がある」
「・・・はっ、では奥の部屋にお越しください」
※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez
今回はコンシャ抜きの男同士で相談したいと言うと、ニヤニヤと含み笑いするトラバオンだ。
(おい、お前が考えている事とは違うからな!)
心で叫ぶが面倒な言い訳はしないのだった。
一通り説明をして、同じゲレミオの仲間で有ればとトラバオンが極意を語った。
「女の事を忘れさせてくれるのは女ですぜ陛下。新しい女をあてがってやるのが手っ取り早いと思いますが・・・何なら店の女達に相手させましょうか? 直ぐに忘れさせてくれる技巧派を用意しますぜ」
「・・・」
一考し、事前にピラタの事情を話した。
魔族とは言わないが異種族で人族に恋し、ファルソの容姿を教えると二つ返事でトラバオンが任せてくれと言い出した。
「良いでしょう。陛下が気に掛けるほどの男であれば、女で立ち直らせるのが我が役目です。至急手配しますので大船に乗ったつもりでお待ちください」
トラバオンに言わせるところの娼館で女をあてがい、自信を取り戻させると言うのだ。
それも、いつまで居ても構わないし、より取り見取り選び放題だと言うではないか!!
(クソッ! 羨ましいぞぉ! 何で俺がそんな手配を・・・)
ピラタの失恋=大魔王闘技大会優勝=ファルソ=フォーレ=ロリ=自分と、原因を遡れば自分に辿り着くので溜息をついてノタルム国に転移するエルヴィーノだった。
※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez
ノタルム国に戻ったエルヴィーノは、シオンと共にピラタの住まう部屋に向った。
乱雑に散らかっている部屋の小さな窓の前に椅子を置き、腰かけて項垂れている病人の様に見えるのが、あの勇ましかった男だとは思えない程の変わりようだった。
「ピラタ・・・」
「・・・」
「陛下、申し訳ありません」
「しょうがない。シオン、ピラタは施設に入れるから俺に一任してくれ」
「は、して施設とは?」
「今は公言出来ないが、ピラタが回復して以前の様な覇気が戻れば教えよう」
「は、期待しております」
そしてエルヴィーノは変化の魔法を使った。
「陛下、我らの種族特徴である角を隠すのは・・・」
「詮索はするな」
「は、申し訳ありません」
そしてピラタに首輪を付けた。
「陛下、その首輪は・・・まさか隷属の・・・」
「これはサント・マヒアが付与されていてオスクロ・マヒアを抑える効果がある。シオンも牢屋で使っていただろぅ?」
「あれですか。しかし今のピラタに必要でしょうか?」
「勿論だ。施設で必要だと判断したから付けている訳だ」
「は、陛下の御心のままに」
シオンに手伝ってもらいながら着替えさせるほどピラタには覇気が無く、転移の準備を行なった。
その無気力感が予想よりもひどかったので、トラバオンに現地での付き人を2人用意するように手配した。
そんなこんなで、ようやくイグレシアに”人族”として連れて来たピラタだ。
見た目は貧弱そうな”人族”のオッサンだ。
とある娼館の前でトラバオンが待ち構えていた。
「ようこそ、お待ちしておりました」
ここでは陛下とは言わないトラバオンだ。
流石に時と場合に応じた言葉を選んでくれている。
今は日中で表通りでは無いが人通りも多いから、如何わしい店の前で固有名称は厳禁である。
ピラタを引き連れて店の中に入るエルヴィーノは、内心ドキドキしていた。
何故なら初めてだからだ。
自分の組織が運営していようか、変化で別人になろうとも”妻達”にばれるのが怖くて利用する事が無かったのだ。
「お前の為に、心の傷を癒してくれる”人族”を用意したぞ、この中からお前の好みを選べ」
目の前に立っているのは、魅力的な体型で赤毛の長髪女性と、同じく魅力的な体型で黒髪の長髪女性に、小柄だが割と魅力的な体型で可愛らしい赤毛で短髪の女性だった。
痩せこけたピラタの瞳は1人を凝視し、ゆっくりと指をさした。
(やっぱりな)
エルヴィーノはトラバオンの顔を見た。
(バッチリです陛下)
トラバオンも頷いた。
トラバオンは事前情報通り、娼館に居る女の中で小柄で赤毛を探して髪を切らせ”オッサンが失恋して再起不能になっているから心と体を癒せ”と特別手当を出す条件で選ばれた女を、見事に指名したピラタだった。
「よし、ではファルよ。後は頼んだぞ」
「はい、ピラタ様、ファルと申します。お部屋へどうぞ」
「ファ、ファル?」
「はい、私の名前です」
ファルを凝視するピラタの思考は別の人物と目の前の女性が同じ様に見えニッコリと微笑み、ファルに手を引かれながら奥の部屋に消えて行った。
「おい、名前まで似すぎだろぉ」
「勿論偽名ですが、まぁ顔は全く違うでしょうから宜しいのでは?」
「まぁ、確かにそうだな。ファルに期待しよう。ピラタが早期に回復したらファルにも恩恵を与えよう」
「は、畏まりました」
全く持って、実に羨ましい限りだがファルの連日に及ぶ”癒し効果”のお蔭で、日に日にピラタの容姿も以前のように覇気の有る強面のピラタに変わって行ったのだった。
だが、そうなると想定していた問題も発生する事となった。
※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez
(陛下、ピラタの件でご相談したい事が有ります)
又かっ!!
エルヴィーノは解っていたとはいえ心で呟いた。
ピラタの心の病は30日程で完治したと聞いた。
体力も、更に30日程で以前の様に回復したと聞く。
そして更に30日経っても、まだ娼館に通っていると報告を受けていた。
最近は娼館では無くずっと外出して遊んでいるとトラバオンから何時まで利用するのか決めて欲しいと報告と催促が有り、いくらゲレミオの仲間だとしても既に全快しているので金銭を取る様にしたいと訴えて来ているのだ。
シオンからも以前のピラタに戻ったと感謝され具体的な治療方法を効かれたが、個人の恥ずかしい情報は伏せた方が良いと説明すると納得してくれたのだ。
改めてシオンと2人で休日のピラタの部屋に訪れたエルヴィーノだ。
「わざわざこの様なむさ苦しい所にお越しいただき申し訳ありません陛下」
以前来た時とは、見違えるように綺麗で整頓された部屋だった。
「お前も部屋も以前のように戻った訳だな」
「は、お恥ずかしい限りです」
「それで、又何か有ったのか?」
「はい、闘技大会で優勝した褒美を頂きたく存じまして・・・」
「ああ、”あれ”はダメだったじゃないか」
「いえ、ファルソ殿では無く・・・ファルを我が妻と迎えたく陛下に許可を頂きたく存じます」
良く見ると未だに角無しで”首輪”を付けて生活している様だ。
エルヴィーノもすっかりと忘れていたが、本人は”ファル”に夢中らしい。
☆
羨ましい、羨ましい、ピラタが羨ましい!!
心身共にファルの虜になってしまったか!
この言葉から、これ程の精神的な攻撃を受けるとは夢にも思っていなかったピラタであった。
ノタルム国の王城の一室で、エルヴィーノとファルソに、従者のシオンに連れられて正装でやって来た闘技大会優勝者のピラタだった。
廊下でもシオンから相手の言葉を受け入れると何度も約束されるが、もはや上の空だったピラタ。
部屋に入ると剣を交えた時とは打って変わって女性らしい姿を目の当たりにして、既に恐慌に似た状態で舞上がってしまうピラタだ。
「あ、あのぉ・・・お、俺、いやわ、私は・・・」
自分の部下の不甲斐なさにゲンナリするシオンと、全てを知るエルヴィーノが更なる重度の病を予感したのもこの時だった。
「ふふふ、お久しぶりですね」
「は、はい!!」
ファルソの声を聞き、更に舞上がるピラタ。
「今日は私に何かお話が有ると聞いていますが、一体どのようなお話でしょうか?」
面倒な事は早く終わらせたいファルソは、無駄話をせずに相手から”お決まりの言葉”を言わせて終わりにしたいのだ。
「はい、わ、わ、わたしは・・・」
真っ赤な顔で天井を見ながらドモるピラタの背中を大きく叩くシオンだ。
「しっかりしろ、ピラタ!!」
「はい、ファルソさん、惚れました。付き合ってください!!」
返事は間髪入れずに帰って来た。
「ごめんなさい・・・私、愛している人が居るの。貴男の申し出は受け取れません。そもそも聖騎士としての立場が・・・それに両国の関係性も・・・やっぱり周りの反対も有るし・・・」
「・・・はい、そうですか・・・解かりました・・・」
次々と断りの理由を並べたファルソ。
シオンはある程度想定していたのだろう。
しっかりしろと励ましている。
そんな2人を、特にピラタを見ていられなかったエルヴィーノだ。
「じゃ俺達は次の予定があるから行くな、後は頼んだぞ」
「は、お任せください」
硬直したピラタは部屋を出て行くファルソを目で追いかけた。
(ああああああぁぁぁ、ファルソちゃぁぁぁぁぁぁん!!)
「ピラタよ、我と陛下の前で誓った事を忘れた訳ではないだろうな」
ガックリと肩を落とし、座り込むピラタが苦悶の表情で声を絞り出し答えた。
「・・・はい・・・」
「ならば行くぞ。我らには成すべき事があるのだからな」
ピラタの襟を掴みズルズルと引きずられて行くピラタ。
誰がどう見ても闘技大会優勝者には見えないだろう。
※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez
暫らくしてシオンからエマスコが有った。
(陛下、ピラタの件ですが、あれ以来寝込んでしまいまして何か良い方法は無いでしょうか)
知るか!!
そう心で叫び、考える振りをする。
(そう言えば他の四天王は何かしてやらないのか?)
全て下調べを終わらせたシオンが即座に返信してきた。
(実は、今度はアルモニア人と結婚したいなどと言い出しまして・・・)
(それで?)
(一時の迷いから生じる物だと言い聞かせたのですが・・・)
(俺に何をして欲しいんだ?)
(いえ、そのような事は・・・ただ、思っていたよりも重傷なので一度陛下に見て頂きたいと思いまして)
失恋の重傷者を見て何をどうしろと言うのか理解出来ないエルヴィーノだ。
(解かった。連絡する)
(は、お待ちしております)
そうは言ったものの、経験の無い事には対処できないので経験者を探す事にした。
それは失恋を克服する手段だ。
とは言え、失恋の相談を妻達には出来る訳も無く、当事者は災いがのど元を過ぎたのですっかり元気になっている。
後エルヴィーノの男友達的な存在を1人ずつ思い出しながらブツブツと独り言を言いながら検討してみた。
リカルドは・・・駄目だ、リリオ一筋だからな。
親衛隊は・・・あいつ等は女っ気が無い。
ガンソは・・・無いだろうなぁ・・・
・・・
・・・
あっトラバオンはどうだ!? イヤ恋愛相談だぞぉ? 娼館の主に聞くのかぁ?
しかしまぁ他に相談する奴も居ないしなぁ・・・
思い立ったら即行動で、イグレシアに転移するエルヴィーノだ。
ブルデールの事務所に訪れて責任者を呼び出すアルモニア国国王であり、ブルデールの影の支配者だ。
しかし、ほとんどの関係者はエルヴィーノの事を知らない。
この様な緊急時の為に合言葉を作ってある。
事務所でその合言葉を関係者の誰かに伝えれば責任者を直接呼び出せるのだ。
「あぁ、そこの君、”夜の鍵を持って来た”から頼む」
「・・・は、はい。しばらくお待ちください」
しずしずと優雅に奥の部屋に入って行った女性だ。
すると、バンッと扉が開き勢い良く駆けだして走って来る男が目の前に跪いた。
「へ、陛下。わざわざお越し下さるとは、このトラバオンに何か御用名があっての事と・・・」
堅苦しいし、長いので割って入るエルヴィーノだ。
「トラバオン、お前に相談したい事がある」
「・・・はっ、では奥の部屋にお越しください」
※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez
今回はコンシャ抜きの男同士で相談したいと言うと、ニヤニヤと含み笑いするトラバオンだ。
(おい、お前が考えている事とは違うからな!)
心で叫ぶが面倒な言い訳はしないのだった。
一通り説明をして、同じゲレミオの仲間で有ればとトラバオンが極意を語った。
「女の事を忘れさせてくれるのは女ですぜ陛下。新しい女をあてがってやるのが手っ取り早いと思いますが・・・何なら店の女達に相手させましょうか? 直ぐに忘れさせてくれる技巧派を用意しますぜ」
「・・・」
一考し、事前にピラタの事情を話した。
魔族とは言わないが異種族で人族に恋し、ファルソの容姿を教えると二つ返事でトラバオンが任せてくれと言い出した。
「良いでしょう。陛下が気に掛けるほどの男であれば、女で立ち直らせるのが我が役目です。至急手配しますので大船に乗ったつもりでお待ちください」
トラバオンに言わせるところの娼館で女をあてがい、自信を取り戻させると言うのだ。
それも、いつまで居ても構わないし、より取り見取り選び放題だと言うではないか!!
(クソッ! 羨ましいぞぉ! 何で俺がそんな手配を・・・)
ピラタの失恋=大魔王闘技大会優勝=ファルソ=フォーレ=ロリ=自分と、原因を遡れば自分に辿り着くので溜息をついてノタルム国に転移するエルヴィーノだった。
※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez
ノタルム国に戻ったエルヴィーノは、シオンと共にピラタの住まう部屋に向った。
乱雑に散らかっている部屋の小さな窓の前に椅子を置き、腰かけて項垂れている病人の様に見えるのが、あの勇ましかった男だとは思えない程の変わりようだった。
「ピラタ・・・」
「・・・」
「陛下、申し訳ありません」
「しょうがない。シオン、ピラタは施設に入れるから俺に一任してくれ」
「は、して施設とは?」
「今は公言出来ないが、ピラタが回復して以前の様な覇気が戻れば教えよう」
「は、期待しております」
そしてエルヴィーノは変化の魔法を使った。
「陛下、我らの種族特徴である角を隠すのは・・・」
「詮索はするな」
「は、申し訳ありません」
そしてピラタに首輪を付けた。
「陛下、その首輪は・・・まさか隷属の・・・」
「これはサント・マヒアが付与されていてオスクロ・マヒアを抑える効果がある。シオンも牢屋で使っていただろぅ?」
「あれですか。しかし今のピラタに必要でしょうか?」
「勿論だ。施設で必要だと判断したから付けている訳だ」
「は、陛下の御心のままに」
シオンに手伝ってもらいながら着替えさせるほどピラタには覇気が無く、転移の準備を行なった。
その無気力感が予想よりもひどかったので、トラバオンに現地での付き人を2人用意するように手配した。
そんなこんなで、ようやくイグレシアに”人族”として連れて来たピラタだ。
見た目は貧弱そうな”人族”のオッサンだ。
とある娼館の前でトラバオンが待ち構えていた。
「ようこそ、お待ちしておりました」
ここでは陛下とは言わないトラバオンだ。
流石に時と場合に応じた言葉を選んでくれている。
今は日中で表通りでは無いが人通りも多いから、如何わしい店の前で固有名称は厳禁である。
ピラタを引き連れて店の中に入るエルヴィーノは、内心ドキドキしていた。
何故なら初めてだからだ。
自分の組織が運営していようか、変化で別人になろうとも”妻達”にばれるのが怖くて利用する事が無かったのだ。
「お前の為に、心の傷を癒してくれる”人族”を用意したぞ、この中からお前の好みを選べ」
目の前に立っているのは、魅力的な体型で赤毛の長髪女性と、同じく魅力的な体型で黒髪の長髪女性に、小柄だが割と魅力的な体型で可愛らしい赤毛で短髪の女性だった。
痩せこけたピラタの瞳は1人を凝視し、ゆっくりと指をさした。
(やっぱりな)
エルヴィーノはトラバオンの顔を見た。
(バッチリです陛下)
トラバオンも頷いた。
トラバオンは事前情報通り、娼館に居る女の中で小柄で赤毛を探して髪を切らせ”オッサンが失恋して再起不能になっているから心と体を癒せ”と特別手当を出す条件で選ばれた女を、見事に指名したピラタだった。
「よし、ではファルよ。後は頼んだぞ」
「はい、ピラタ様、ファルと申します。お部屋へどうぞ」
「ファ、ファル?」
「はい、私の名前です」
ファルを凝視するピラタの思考は別の人物と目の前の女性が同じ様に見えニッコリと微笑み、ファルに手を引かれながら奥の部屋に消えて行った。
「おい、名前まで似すぎだろぉ」
「勿論偽名ですが、まぁ顔は全く違うでしょうから宜しいのでは?」
「まぁ、確かにそうだな。ファルに期待しよう。ピラタが早期に回復したらファルにも恩恵を与えよう」
「は、畏まりました」
全く持って、実に羨ましい限りだがファルの連日に及ぶ”癒し効果”のお蔭で、日に日にピラタの容姿も以前のように覇気の有る強面のピラタに変わって行ったのだった。
だが、そうなると想定していた問題も発生する事となった。
※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez
(陛下、ピラタの件でご相談したい事が有ります)
又かっ!!
エルヴィーノは解っていたとはいえ心で呟いた。
ピラタの心の病は30日程で完治したと聞いた。
体力も、更に30日程で以前の様に回復したと聞く。
そして更に30日経っても、まだ娼館に通っていると報告を受けていた。
最近は娼館では無くずっと外出して遊んでいるとトラバオンから何時まで利用するのか決めて欲しいと報告と催促が有り、いくらゲレミオの仲間だとしても既に全快しているので金銭を取る様にしたいと訴えて来ているのだ。
シオンからも以前のピラタに戻ったと感謝され具体的な治療方法を効かれたが、個人の恥ずかしい情報は伏せた方が良いと説明すると納得してくれたのだ。
改めてシオンと2人で休日のピラタの部屋に訪れたエルヴィーノだ。
「わざわざこの様なむさ苦しい所にお越しいただき申し訳ありません陛下」
以前来た時とは、見違えるように綺麗で整頓された部屋だった。
「お前も部屋も以前のように戻った訳だな」
「は、お恥ずかしい限りです」
「それで、又何か有ったのか?」
「はい、闘技大会で優勝した褒美を頂きたく存じまして・・・」
「ああ、”あれ”はダメだったじゃないか」
「いえ、ファルソ殿では無く・・・ファルを我が妻と迎えたく陛下に許可を頂きたく存じます」
良く見ると未だに角無しで”首輪”を付けて生活している様だ。
エルヴィーノもすっかりと忘れていたが、本人は”ファル”に夢中らしい。
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羨ましい、羨ましい、ピラタが羨ましい!!
心身共にファルの虜になってしまったか!
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