上 下
332 / 430
第12章 戻ってから四度目の儀式

第331話 シーラの記念日

しおりを挟む
とうとうその時がやって来た。
十二分に準備を済ませて待ち望んだ一族と婚約者の女。
覚悟を決めて、この行事がいち早く過ぎ去る事を祈る男。


(やっと私の番が回って来たわ)


昨夜は今夜の戦闘に備えて英気を養うために、あえて夫となる男を姉嫁達淫獣の中に放り込んだ。
それは餓えた魔獣の中に餌を投げたような錯覚を覚えるほど姉嫁達の目がぎらついた事を覚えている。


(ふふふっ、お姉様達は少しくらい寝かせてくれたかしら)


心の中では”今夜は寝かせない”と決心し、巨大な鏡の前でこれから始まる式典の準備をしているシーラと、周りを忙しく駆けまわっている召使いの女達。

シーラが用意した婚姻の衣装はリャーマ・デ・ラ・エクスプロシオン爆炎魔闘鎧・アルマドゥラを彷彿とさせるような真っ赤に燃えているように錯覚さえしてしまうような花嫁衣装だ。

派手な花嫁に引き換えてエルヴィーノの衣装は黒一色だ。
実に地味だが、逆にそれが気に入っている夫だった。



2人が誓う場所はノタルム国の王城に急遽作った神殿様式だ。
と言っても飾りつけを変えた程度の物だ。
普段は国王との謁見の場に使われている。

一番格式の有る場所で費用も抑えられるのでジャンドール王の許可を貰ってある。
実際問題として、アルモニア教が認可されたのはよいが教会や大聖堂が直ぐに完成するはずも無いので急場を凌ぐ案として無理やりに改装したのだ。


そこまでしたのには理由が有った。
それはシーラの強い願望が芽生えた為だ。


先妻たちと仲良くなるにつれ、交流の機会が増え会話も多岐にわたる。
その中で自然にシーラが目にするのは、それぞれの子供達だ。
既に少年になっている子たちに、まだ幼い女の子。
産まれたばかりの子供達にヨチヨチ歩きの双子を身近にすれば、自分が”持っていない存在”を欲しくなるのは必然と言っても良いだろう。

そんな訳で試練も終わり、一族の見栄や外聞よりも自分の幸せ(先妻たちの同列に立つための気持ちが強い)の為に式典を急がせたのは、当然の如く誰にも言えない秘密だ。



※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez



既に式場には沢山の招待客で賑わっていた。

会場を二分する片方にはノタルム国のお歴々に親族や貴族、将軍、名の有る強者つわものが並んでいた。

もう片方には、エルフ国メディテッラネウスからロザリーと数名。
聖魔法王国アルモニアからロリと親衛隊が数名。
獣王国バリエンテからパウリナとネル殿と数名。
そしてエルヴィーノの親族とアルコン達数名だ。
ゲレミオからも数人出席している。
例外で従者のレボル・シオンも席を並べている。


主役の2人が入場する前に、2人の説明がされた。
新婦の偉業は何と言っても全身アルマドゥラ魔闘鎧の発現と勇者と言う称号だ。
新郎は二大国の現役国王につきる。
打合せで他の事は無しにした。
要はシーラを目立たせるためだ。

そして、2人でドラゴンを召喚し強敵を滅殺。
これは説明がかなり盛り付けてあったと後から聞いたエルヴィーノ。

そしてシーラの試練。
これが一番効果的だったようだ。
やはり、説明よりも現物だ。
クエルノ族の強者達も、現物を目の前にして唸っている者ばかりだったと言う。
会場の一角に特設展示場を作り、祀られている”誰かさんの巨大な鱗”だ。
物欲しそうに見ている者や、うやうやしく拝んで居る者に、うっとりとして見惚れている者までいたと言う。



因みに今回の司祭はリアム殿だ。
大司教のフェブレロ殿と大司教補佐のマルソ殿は既に一度”お願い”したので、リアム殿の番となった。
それが理由か解らないが”悪友”のネル殿が来ているのが心配の種だが、大事な国儀で恥を掻くような行動は慎む様にと影の支配者アンドレアからキツク言われているので多少安心しているエルヴィーノだ。

余談だが、リアム殿からは”もう後が居ないからな”と釘を刺されたエルヴィーノ。
全く持って心外だと憤る新郎だ。
何度も何度も説明しているのに、まるで自分が沢山妻を欲しているように思われるのが腹立たしいのだ。

そんなエルヴィーノの気持ちは誰にも理解されず本日の式典は始まって行く。

会場にどよめきが走り、静寂が支配する。
その無音の中を2人がゆっくりと歩く。
幾つもの視線を集め”司祭殿”の前に辿り着く。

司祭殿の長い説明の後に2人に同意を求められ、誓いの行為を求められた。


(この時をどれだけ待ち望んだ事か。さぁお姉様、よぉぉぉく見ているが良いわ)


シーラはパウリナからその時の事を自慢げに聞かされたのだ。
何度も何度も。
その度に必ず自分がそれ以上の事をしてやると心に誓っていた。

城の外に取り付けた大きな鐘の説明も抜かり無い。
“どれだけ長い間誓っているのか示す”鐘だ。

誓いの口付けが始まった。
エルヴィーノの背中には一族と妻達が並んでいる。
そしてシーラは肩越しに薄目を開けて姉嫁達を見ていた。

新婦の両腕はガッシリと新郎を抱きしめて戦闘状態だった。

小さな声で神父殿が囁いた。
「あぁ国王よ、余り長いと招待客がじれるぞ」

(そんな事は解かってるし、俺だってもう止めたいけど離してくれないんだよおォォ)

心で叫ぶが伝わらないのが虚しいエルヴィーノだ。

無情にも鐘の音だけがゆっくりと聞こえ、自らの背中に痛いほどの視線の矢が刺さっている事も理解しているが、これも試練と諦めて妻達に新たな”お仕置きの元”を作ってしまった事を認識し諦めた。


(あの子・・・)
(ええ、私達に当て付けね)
(私の時より長いなんて許せない)
(・・・本当に退屈しないわねぇ)


(ふふっ、パウリナお姉様があんなに怖い顔して睨んでいるなんて・・・もう私が一番長いわよねぇ・・・)


シーラの欲求は四人の姉嫁の顔を見れば満たされていた。
流石のメルヴィも公衆の面前で夫が他の女と唇を重ね、舌を吸う行為がこれほどまでに長いとは想像して無かった。

四人の嫉妬心は同じだった。
((((この気持ち、次の機会にお仕置きで晴らすわ。覚悟しなさい、エルヴィーノォ))))

取りあえずは目的の1つの目的を果たしたシーラは満足だった。
姉嫁達の嫉妬の眼差しで睨まれていたが、欲望が満たされた気分だった。





嫁達の争いに巻き込まれる哀れな夫
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

ちょっとエッチな執事の体調管理

mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。 住んでいるのはそこらへんのマンション。 変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。 「はぁ…疲れた」 連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。 (エレベーターのあるマンションに引っ越したい) そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。 「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」 「はい?どちら様で…?」 「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」 (あぁ…!) 今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。 「え、私当たったの?この私が?」 「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」 尿・便表現あり アダルトな表現あり

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

処理中です...