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第12章 戻ってから四度目の儀式

第325話 母娘の攻防と浮気者

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扉を開けて入って来た実母のジェンマと数人の召使い。
待ち構えていたのはシーラと専任の召使い10人。
ジェンマとシーラは既に魅力全開だ。

「シーラ、会いたかったわ」
「お母様、わたしも会いたかった」
「立派になったわ。しかも勇者となって城を守ったとか」
「ええ、その事だけど・・・」

そして2人の口撃は同時だった。
「あなた達の婚姻は認めないわ」
「私の言う事を聞いてお母様」

片方は結婚を破棄させる命令。
片方は命令に従うようにする命令。

「「・・・」」

(この子、まさか生みの親に力を使っているのかしら)
(まさかお母様も魅力を使えるのかしら)

互いに力を使い同じ事を考えていた。
「まず、話しを聞こうかしら」
「そうね。お母様に納得してもらいます」

お互いの返事を聞いて、自らの力を防いでいる事を確認する母娘だった。
基本的に魅力効果の対象は正面で目を合わせる必要が有る。
しかるに、召使い達は両側の壁に配置していた。

母娘は相手の顔を見つめて話を進めた。実際は召使い達の説明だ。
ジェンマも召使いからシーラに質問させるが、最初のやり取りでお互いの考えを理解してしまった2人だ。

「ふふふ、シーラ。まさか母である我を力で虜にしようと考えていたとはなぁ」
「ふふふ、お母様こそ。実の娘を虜にしようとしたなんて、信じられないわ」

ジェンマの一族は魅力などの魔眼持ちが多い。
後天性で発生する能力だが、数代前の一族がノタルム国王と婚姻して魅力で虜にしようとしたが、当代国王が魅力の効果を無効にする魔導具を所持していた為、周りの臣下が異変に気づき未遂に終わる。
ジェンマの場合も対策を取った為、何事も無くシーラが誕生した。

シーラは常時発動する魔眼封じの魔導具を装着していたが婚約者によって当時の思惑は未遂に終わり、魔眼封じの魔導具の偽物を装着して城内の者達を魅力で支配した。
実の娘や妹に支配されているとも知らず、幸せな支配者生活を続けている王族だ。

魔眼封じの魔導具は装着者及び外部からの魅力を防ぐ効果が有るが、複製品をさらに魔法陣を付与して調整した物が、現在シーラが装備している魔導具だ。
具体的に通常は魔眼封じだが、シーラの魔素に反応して魅力解放する仕様になっている。(エルヴィーノ作)

睨み合う2人は無言だった。
「「・・・」」
「「ふふふっ」」
しかし、ジェンマから妥協案が放たれた。

「シーラ。とりあえずこのままで話しをしようじゃない」
「そう、ですね。お母様」

魅力の体勢を取りつつ相手の話を聞いて出方を考えると認識したシーラだ。
そして召使い同士のやり取りが始まる。

ジェンマの召使いからは角無しとの婚姻に反対する意見で、シーラの召使いからはシーラから毎日聞いている婚約者の偉大さを多少大げさに説明した。
エルヴィーノから秘匿する指示は、ジャンドール王に勝った事。
エルフ国の事、オスクロ・アルマドゥラを使える事。
試練の敵の内容も伏せる様に指示してあった。

改めて聞く内容は報告書よりも驚く事ばかりだったジェンマだ。
事実、簡潔で箇条書きにされた文ばかりだったので、真実味が無かったのだ。
例えば、他国の国王である。
具体的な聖魔法王国アルモニアに獣王国バリエンテと国名が出ると立ち上がって驚くジェンマだった。

「馬鹿な! 例えイディオタだとしても、その二つの国の王ですってぇぇぇぇ!」
族長ともなれば、戦闘種族であるクエルノ族が大国の名を知らない訳が無い。
実際は噂話と、吟遊詩人の作った地図を見ただけだが自国と同様の国土を持つ国を二つも治める者が婚約者となるのだ。

「お前達、それは本当なのか!?」
問いただしたシーラ付きの召使いが答える。
「はい、ジェンマ様。我らも姫様と一緒にモンドリアン様の国へ行きましたが、とても素晴らしい国でした」

自分達が異国を訪問した体験談を細かく説明する召使い達。
「それにエルフ国とも深い関係を持っているわ、お母様」
「何ですってぇぇぇぇ!」

自分達の種族とは対照的な存在として、同様の長寿種であることから知識と癒しに優れた一族と聞いている種族だ。
もっとも力ではクエルノ族が一番と思っている。
「お母様、この事はお父様から極秘にせよと言われてます」
婚約者の事を自慢したかったが口止めされていた事を思いだし、父王を引っ張り出して釘を刺したシーラだ。

「国王がそのように言われたのぉ!?」
ジェンマは腕組みして長考に入った。
報告書とはまるで違う内容に驚き、どのように対処すれば良いのか解らなくなったからだ。

一番衝撃だったのは2人で巨大な龍を召喚したと言う内容では無く、2人でそれぞれが守護する神龍を召喚して、敵対する同族反乱軍を殲滅して勝利したと言う話しだ。
また種族の掟である試練だが、”巨大な戦利品”が謁見の間に飾ってあると言う。

それを聞いてジェンマ達は思い浮かべた。
以前とは違い謁見の間には幕でさえぎられた場所が設置してあり、そこから異様な魔素の気配を感じていた事を。

そして重要な事をシーラの口から教えられる。
「お母様。私は初めてですが・・・第五婦人になります」
「何ですってえぇぇ!」
バッと席を立ち憤るジェンマだ。
プルプルと震え込み上げる怒りを堪えているようだった。

「絶対にダメよ。あなたが辛い思いをするに決まっているわ」
「何でよぉ。”私達”はうまくやっているわ」
「あなたと婚約者の事じゃないのよぉ」
「当然よ。他の奥様達とは凄く打ち解けているの。親友も出来たわ。勝手な想像しないで」
2人の言い合いは平行線のままでジェンマが用意していた言葉を唱えた。

「あなたがそこまで言うのなら・・・その婚約者に合わせてくれるかしら」
当然だが専任の召使いと想定していた内容だ。
「良いわよ。合わせるわ」
「フッ、良いのぉ? 会えば後悔する事になるわよぉ」

魅力で虜にし破談させる考えのジェンマだが、まんまと罠にハマったと聞いていたシーラと専任の召使い達だ。

シーラ専任の召使い達は魅力を何度も重ね掛けされている。
基本的にシーラとエルヴィーノの発言に対して絶対の忠誠だ。
だからある程度秘密の開示をしてある。

シーラの魅力が婚約者に対して効果の無い事や、毒や状態異常を起こす魔法なども無効にする事もだ。
もっとも、一族よりも高位の魅力を使う事は教えていない。
何故なら自分が魅了されているからだ。
これは自尊心で言わないのではなく、誰に何を話したのかを最愛の婚約者に隠さずに説明するからだ。
だから話したい鬱憤はベッドで発散しているシーラなのだ。


※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


これはメルヴィが戻って直ぐの事だ。

そこは長らく使っていなかった山の中腹にある小屋で、エルヴィーノはせっせと掃除をしていた。
その場所は初めてメルヴィと”1つになった”場所だ。

バリエンテでは安心してメルヴィと愛し合う事が出来ないと判断して、こっそりと準備を整えていた浮気男だ。
何故安心できないのか?
それは正妻に秘密の愛人が数人目を光らせているからだ。

ペンタガラマの旅館でも良いのだが・・・やはり、心にゆとりが欲しい。
とはいえ、ここはエルフ国メディテッラネウス。どこにエルフの目が光っているか定かでない。
まして、少し下れば別荘が有る。
最近ではアロンソが転移して来ていると聞いた。
エアハルトと稽古したりするのだろうが、誰が転移魔法を教えたのかは察しがついている。
例の黒い奴だ。

綺麗になった室内で色んな事を考えて後にする事にした。
どれだけ綺麗にしても数十年経っている小屋だ。
想い出はあるが今更使えないだろうと、考えを破棄してアルモニアの王都イグレシアに転移する。

向ったのは王都の絶景が見える丘公園内にある絶景の宿アルディリアだ。
リアム殿達も利用すると言う宿に交渉する為に来た。
絶景の宿アルディリアはペンタガラマの超高級旅館エスピナと提携してもらっているので、多少の便宜を図ってくれると思ったからだ。

別室で宿の主と話す事となった。
「これはこれは国王陛下。本日はいったいどのようなお話でしょうか?」
「あぁ、折り入って頼みたい事が有るのだが、聞いてもらいたい」
「ははぁ何なりとご用命ください」

エルヴィーノが説明した内容は専用の個室だ。
しかも母屋も他の客室からも、切り離した場所に新しく作って欲しいと言う内容だ。
そう、これは誰にも見られず宿に出入りできる離れの部屋だ。

そしてその部屋を国王専用にして欲しいと依頼する。
もっとも専用なので使用しなくとも費用は発生するが交渉次第だ。
景色を楽しむのではなく、誰からも見られなくする宿だ。

宿の主は、新しい試みに快く応じてくれた。
その分料金は必要だが、今の浮気者にとっては些細な事だった。
部屋の間取りは既存の豪華客室をそのまま採用し、食事の費用は別だ。
そして一番重要な部屋、転移室だ。
これでどこからでも疑われずに来れる。

「完璧だ!! 主、完成はいつになる?」
「そうですねぇ、60日程でしょうか」
「遅い! もっと早くならないか?」
「業者の者に聞いて見ましょう」

そんな訳で宿の主にもエマスコを渡した。
エルヴィーノとの交互送信専用だ。
鼻息も荒く、完成を待ちわびてメルヴィと一緒に来る日を楽しみにしていた。


※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


ある日、エマスコの着信が有った。

(国王陛下、”離れ”が完成いたしました。いつでもお越しください。絶景の宿アルディリア主より)

パッと見てポケットに押し込んだ。
本来ならば燃やして証拠隠滅したい所だが、今はカスティリオ・エスピナで獣人達の会議に出席中だ。
正妻に種族名を変えた愛人も近くに居る。
迂闊な行動は出来ないのだ。

何食わぬ顔をして会議を終わらせ一族の居住区に戻った。
便所に入り先程の手紙を焼却処分して宿の主に連絡する。

「今日行くから。宜しく」

そのまま家族と寛いでいるメルヴィに説明する。
戻って来たメルヴィは家族とベッタリだ。
何をそんなに話す事があるのか不思議な程、良く話をしている。

「みんな聞いてくれ、ちょっとメルヴィと一日二日出かけるから。要が有ればエマスコしてよ」
「なぁに? 急なのねぇ」
リーゼロッテから小言が入るが、昼は家族と夜は息子に取られる環境の中、安心できる環境が整ったのだ。
直ぐにでもメルヴィと一緒に向いたい心境なのだ。

エルヴィーノの心境はさて置き、メルヴィが近くに居る安心感で一杯の家族だ。
「直ぐ戻るとアロンソにも言っといて」
メルヴィの手を引き転移室へ急ぐエルヴィーノ。

「ねぇ何処に行くのぉ?」
「俺達が安心して愛を確かめ合えるところだよ」
自分がどんな顔でその言葉を発したのか解らないが、帰って来た言葉でメルヴィが理解したと判断した。





そしてふたりは転移した。
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