上 下
263 / 430
第9章 魔王国編2

第263話 召還

しおりを挟む
流れる軽快な音楽に、軽やかな異国の踊りを楽しみながら歓迎会の会場に運ばれてくる料理を楽しむマルソとアブリル達教会関係者一行。
一部のクエルノ族を除けば城外の緊張は誰にも知らされていない事だった。
そんな中ジャンドール王が説明した。

「マルソ殿、明朝婿殿が面白い仕掛けをしているそうなので、楽しみにして欲しい」
「ほぉ国王が?」

酒精の量も増え良い気分のジャンドール王が、多少大げさに自慢しだした。
エルヴィーノが絡んでする事に興味を見せるマルソとアブリルだ。
根ほり葉ほり聞いてくる2人をヒラヒラと交わしながらも話したくて、もどかしいジャンドール王は口止めされていた。

「マルソ夫婦は召還魔法で顕現した龍を見たことが無いから絶対に驚くぜ」
「我らも見たことが無いのだがな」
「事前に知っているかどうかだよ。心の準備が違うだろ?」

エルヴィーノの悪ふざけに乗って、時期教祖と大司教の驚いた顔を見たいためだけに協力する共犯者だ。
当然だがシオンや他の者達にも教えていない。
これは事前にジャンドール王と三兄弟にエルヴィーノとシーラで決めたことだが、自国内の者だけで今回の内乱を鎮めてこそ意味があると、ジャンドール王の意向を汲んでの事だ。

シオンと四天王はエルヴィーノの配下で、ゲレミオは非戦闘組織として説明してあるからだ。
シオンに命令した最強部隊はノタルムでのゲレミオが安定してからだと修正してある。


※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


夜半に宴で盛り上がる城から魔獸に乗った兵士が敵の陣営に走っていった。
「将軍!城から書状が届いております」
受け取った書状を読む反乱軍を指揮する将軍は、苦笑いしなから叫んだ。
「皆者、決戦は明朝だ!」

その書状には相手を挑発する内容が書かれてあった。
”よくぞ我に楯突いたものよイディオタ共。愚か者のお前達には勿体ないが、我が秘術をもって滅ぼしてくれる。明日の朝を楽しみに待っておれ”

夜半にエルヴィーノは大事な事を思い出していた。
それは召還魔法で使用する呪文の単語だ。
フィドキアは“オスクロドラゴン“で、ラソンは“サントドラゴン“だからインスティントは“フエゴドラゴン“で良いのか確認しなければならない。

(インスティントォ、聞こえるか?)
(どうしたモンドリアン)
念話で説明すると
(詠唱の最後は“リャーマドラゴン“だ)
聞いて良かったと安心するが注意された。
(今回は特別だからな。本来はシーラが成人してからのはずだったが、お前達には”借り”があるからな。一度だけ召還に応じてあげよう)

なんだかんだと言いながらノリノリのインスティントだ。
念話のトーンが違い、明らかに浮かれているのが解るのだ。
そんな可愛い一面をみせるインスティントと念話を終えてシーラに説明した。

「本当に!私がインスティント様を召還できるの?」
「ああ、特別に許可して貰ったよ」
抱きついてきたシーラの霊峰が押しつけられ、舌を吸われると条件反射で相棒が起動した。
「明日は早いからな」と忠告しても何のその。
「大丈夫よ」
欲情の目で睨まれて補食されるようにベッドに引きずり込まれるエルヴィーノでした。


※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


翌朝、慌ただしくする城内は対応に追われていた。
マルソ達に気付かれぬ様に昨夜から兵を集めて城に待機させていたのだ。
軽い食事をとり雑談をしながら本日の予定を説明する。
この時点で三兄弟は居ない。
ノタルム側はジャンドール王と一部の高官が相手をしていた。
これから一戦始まるとはつゆ知らず、具体的な教会建設候補地など難しい調整が有るからだ。そして・・・

「所でお二方に観て頂きたい戦いが有るのだが宜しいかな?」
全員が見守る中、ジャンドール王からマルソ夫妻に投げられた質問だ。
「それは昨夜の続きですかな?」
暗にエルヴィーノが絡んでいることを確認したのだ。
「ふむ、出来れば全員一緒に観戦されると良いが」
「良いでしょう。期待して宜しいかな?」
「もちろんだ。一生忘れられない思い出となることだろうからな」

食事を終え全員で移動したのは、敵陣が見える城の西側のテラスだ。
城壁の外には既に兵士が待機しており、臨戦態勢を取っていた。
城壁の上にも沢山の兵士が待機しており、周りを見渡せば他のテラスにも高官や文官とおぼしき者達が待機していた。
クエルノ族達には早朝にジャンドール王の秘術で反乱軍を成敗するので刮目して観よと指示を出していた。

あくまでも、今回の騒動はジャンドール王が解決した事にしなければならない。
エルヴィーノは”まだ”親族では無いし、インスティントを認識させる必要があるからだ。
そのあたりも心得ているので上手に誤魔化そうと思っている。

エルヴィーノとシーラはジャンドール王達よりも高台のテラスで待機していた。
「シーラ。呪文は覚えたか?」
「ええ、ばっちりよ」
ベッタリと寄り添って来るシーラと清々しい朝の景色を楽しんでいた。
これから大量虐殺が始まるというのにだ。
そして、打ち合わせ通りデセオから合図の旗が振られた。
全て準備完了。

いつでも初めてくれと言う合図だ。
エルヴィーノはバオス・ホステ音声調整魔法を最大にして叫んだ。

「反逆者達よ、良く聞け。我はジャンドール王により召喚されし大魔王である。我が妃となるシーラと共に召喚する神龍を持って、この城に敵意を向ける者達に絶望と死を与えよう」

言葉は少ないが、重要なのはジャンドール王により召還された大魔王は、妃となるシーラと共に敵対者に対して容赦しないという事だ。
城壁の兵士達に見守られながら2人は片腕を相手の腰に回し、もう片腕を天に掲げ叫ぶ。

「デスセンディエンテ・インボカシオン・オスクロドラゴン!」
「デスセンディエンテ・インボカシオン・リャーマドラゴン!」
「凄い、これほどとは。魔素が一気に無くなったよぉ!」

初めての召還で一度に大量の魔素を消費したシーラがフラフラになっていた。
城壁の兵士達が空に指をさして叫んでいる姿を見て、ジャンドール王が周りの者達に教えると一斉に空を見上げた。
反乱軍にもエルヴィーノの声は届いており、エルヴィーノを見知っていた将軍達は鼻で笑っていた。
が、次の瞬間目を疑うような光景が見えた。

城の上空に二つの巨大な魔法陣が顕現したのだ。
そして、勢いよく魔法陣ら飛び出してくる二体の巨大な龍。
一体は見るからに凶暴そうな印象の漆黒の体躯で、もう一体は体が燃えている。
その灼熱は城で観戦している者達にも感じられるほどの熱量だ。
二体の龍が咆哮を轟かせながら城の上空を旋回している。
実は身体に炎を纏うと攻撃力が上がるのだが、そんな事をしなくてもよいが、それだけ調子に乗っている事が離れた場所で観ている龍人モノ達にも解る程だ。

マルソとアブリルは二体の神龍を唖然として観ていた。
それはジャンドール王も同様だった。
まさかこれほど巨大だとは想像しなかったのだ。
教会関係者やシオン達も同様で、城壁にいた兵士達は初めて見る巨大な龍に歓喜し、城下町の国民は様々な憶測が飛び交っていた。
インスティントは楽しくてたまらない様で耳からは雄叫びしか聞こえないが、無意識に話しているのか念話が筒抜けだった。
フィドキアに対する問いかけだが、フィドキアは黙っているようだ。

一方の反乱軍は、どよめいていた。
城まではかなりの距離が有るが、城の上空を旋回する龍の大きさはそれほど巨大だった。
志気の低下を恐れた将軍は威勢を張った。

「クッ虚仮威こけおどしだ!魔物風情に何が出来るか!全軍突撃ぃぃぃぃ!」
一斉に城に向かって駆け出す反乱軍。
魔物に跨がる者、自らの翼で空を駆る者、あまたのクエルノ族がこれから訪れる恐怖を目の当たりにする事となる。





次回、殲滅。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

ちょっとエッチな執事の体調管理

mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。 住んでいるのはそこらへんのマンション。 変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。 「はぁ…疲れた」 連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。 (エレベーターのあるマンションに引っ越したい) そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。 「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」 「はい?どちら様で…?」 「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」 (あぁ…!) 今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。 「え、私当たったの?この私が?」 「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」 尿・便表現あり アダルトな表現あり

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

処理中です...