上 下
221 / 430
第8章 魔王国編

第221話 先輩と後輩

しおりを挟む
「所で王よ。また妻を娶ったのですかな?」
シーラ嬢を見て質問したシオンだ。
若い嫁と思ったのか、新しい嫁との子だと思ったのだ。
何故ならば三兄弟とは全く似て良いからである。
「んっ、そ、そうだ」
子供たちの前では多少恥ずかしそうにするジャンドール王。

だが、その事に食いついた者が1人居た。
「クエルノ族は一夫多妻なのですか?」
「そうでは無い。たまたまだ」
「ではたまたま、何人妻が居るのですか?」
「・・・四人だ」
どうやらその事は余り触れられたく無い話しの様だ。
四兄弟にシオンが腕組みし溜息を付いている。
そう、実は四兄弟全員の母親が違う事を知ったエルヴィーノは思わず叫んでしまった。
「せ、先輩!」
”ああぁ?” って顔で全員がエルヴィーノを見た。

「どういう事だ?」
「俺は今三人の妻が居るのは、さっき説明しただろ? 色々と気苦労が多くてさぁ、相談できる者も居ないし。でもこれからは”先輩”に聞けば良いかな?」
喜んで話すエルヴィーノと困惑のジャンドール王だ。だが
「それは止めた方が良いだろう」
長兄のデセオだ。
「我も止めた方が良いと思う」
「俺も」
「私も」
「我も」
次兄、末弟、シーラ嬢にシオンも同意してきた。
「えっ、一体どういう事だ?」

「国王は大変忙しいので、奥様達を構っている時間が無いのだ」
何故かシオンが説明してくれた。
200年近く前に謀反で城を出たが、今この場では一番事情を知っているのはシオンだった。

(やはり俺の様に色んなタイプの女なのかなぁ。まぁこの国の場合は力有きだからロリやパウリナの様な事は無いだろう。ましてロザリーの様な事をこのジャンドール王がされたとは考えたくないし)

妄想の中でどんなクエルノ族の女性なのか興味津々のエルヴィーノだった。
(ああ、でも政略結婚っぽいなぁ。構っていないとは余り愛し合っていないと言う事か? まぁ他人の家庭に口を挟むのは止そう)

「では先輩として一言だけ」
1人で問題提議し自己完結してしまったエルヴィーノに急に喜怒哀楽の表情が無く真剣な顔つきになったジャンドール王が最後の口撃を放って来た。

「モンドリアンよ。娘のシーラを頼む」
(げっ、何とか躱して切り抜けようと思っていたのにっクソッ)
「シーラを頼むモンドリアン」
「お前に託そうモンドリアンよ」
「2人ならお似合いだな」
続けて三兄弟がかぶせて来た。
シーラ嬢は真っ赤な顔になり俯いている。
「陛下。どういう事ですかな?」
シオンには教えてなかったので説明する。
「流石は陛下ですな。お二人のお子様が三兄弟を力で越えるまで我は死ぬことは許されませんな、はあっはっはっはっ」
何故か爺やのポジションを自己申告するシオンに戸惑う一同。

改めて確認する事が有った。
「確認だけど、シオンは貰っていいな」
「我は既に陛下へ忠誠を誓った身。何処に居てもご命令とあらば、どのような指令でも完遂いたして御覧に差し上げましょうぞ」
周りを無視してジャンドール王にも発した事の無い忠誠を誓うシオンに呆れ顔で告げる。
「シオンよ。お前は一族を代表してモンドリアンに付いて行け」
「はっ」
元の主から最後の指示が下された。
「ところでシオンの部下で使える者を五人選出してくれ」
「陛下、その者達は何か条件が必要ですかな?」
「ああ、食事に興味のある者、物を売る事に興味の有る者、武術に秀でて説明上手な者、力よりも口が上手な者に、女の管理が出来る者を選んで欲しい」
最後の候補者に非常に興味を示す者が1人居たが意識して無視した。

「俺が帰って来るまで牢屋に入れて置いてくれ」
「陛下。帰ってくるとは、何処いづこかへ向かわれるのですか?」
「ああ、急に召喚されたから国の者達も騒いでいるだろうし、一度戻って又来るよ」
「お供致します」
間髪入れずにシオンが跪き、お伺いを立てている。
「まぁ急ぐこととは有るまい。せめて明日の朝にでも戻れば良いだろう」
「おお、流石は国王」
「我もその方が良いと思う」
「我も」
シオンに長兄次兄と、うなづくブスカドールに「俺もだ」とアルコンも同意してきた。

(はぁ、2泊も無断外泊なんて、どんな言い訳を用意しよう・・・)
心では葛藤し周りの雰囲気で合意してしまったエルヴィーノだ。
「国王、我らは宴の準備があるので一度席を外す」
「うむ」
父王の同意を得て4兄弟が席を立った。
去り際にシーラ嬢が無言でエルヴィーノを見ていたが目がキラキラしていた。
応接室に残ったのはエルヴィーノとレボル・シオンにアルコンとジャンドール王だ。
改めてレボル・シオンにアルコンを説明しお互いを知ってもらう。

シオンが城を離れた後に入って来たアルコンだ。
お互いに噂話しでは聞いていたが会うのは初めてで、敵対関係が無かった事が救いだった。
アルコンは主に国外の諜報が中心だ。
シオンは国の内政や武力の柱だった為、国外の諜報は携わって無かった。
種族も違うので適材適所といった所か。

エルヴィーノの従者となったシオンはダークエルフ一族の話しを聞いて「陛下のしもべとして是非協力させてほしい」とアルコンに迫った。
当のアルコンもジャンドール王に取り入り、間諜の仕事をこなして自らの目的エルヴィーノと同じを成しえようとしていたのだ。

アルコンの考えは広大なノタルム国には幾つかの島が点在する。
功績を上げて、そのどれかを貰い受け新しいダークエルフの国にする考えだった。
勿論この考えはジャンドール王に説明し、世界に2種族しか存在しないオスクロ・マヒアを使うダークエルフに小さな島を与える事はさほど難しくも無かったが、見知らぬ一行である20人足らずに何の成果も無く物だけを与えるつもりは当然無い。
そこで、国内のゴタゴタも有るが国外の情報収集が芳しく無かったのでアルコンと取引をしたジャンドール王だ。

「国外の情報を集め報告せよ。成果を上げる事が出来れば我が領土の中に有る島を1つやろう。そこをお前達の国として認める事も許可しよう」

一件聞くと、物凄い好条件だが、そんな甘い話がある訳が無い。
「その条件とは?」
恐る恐る聞くアルコンが確かめた。
「世界中、全ての国の情報だ」
(世界と来たか。参ったなぁ)
しかし、考える猶予も無く即答を余儀なくされる。

ノタルム国の近隣から調査し、徐々に範囲を広めある程度の信用と調査結果を出してから、北と西に範囲を広めていった際に、懐かしの故郷へ立ち寄ったのが今回のエルヴィーノが召喚される事件の始まりだった。
その事を目の前で話すアルコンに「そっか、俺と同じ考えだったんだ」嬉しそうにお互いを見つめる2人にトンデモナイ事を言いだす魔王だった。

「モンドリアンが”我が提案”を受け入れてれるならアルコンとの約束は無しで、島を分けても構わないが・・・あぁ、アルコンの仕事は今までのままだぞ」
2人の足元を見て、姑息な条件を出してきたジャンドール王。
「モンドリアン!」
それはもう、まるで子供の様に欲しい、欲しい、欲しいって顔をしているアルコンに呆れたエルヴィーノだ。
「その話は一旦帰って母さんや一族と相談してからで良いですか?」
「何故だ。お前が王だぞ」
即答が欲しいジャンドール王は納得がいかなかった。

「確かに俺はアルモニアとバリエンテの国王を兼任しているけどダークエルフの国として言えば、俺の母さんが正当な女王だ。だから母さんに相談するのが筋だと思うが?」

腕組みして考えるオッサン3人。
「ところでさぁ、その島は何処に有るの? どの位の大きさ?説明するのに具体的な条件や場所も出来れば見ておきたいなぁ」
「確かに一理ありますぞ国王。口だけより見せて頂いた方が陛下もその気になるやもしれませんからな」
続けて言い放つシオンの内容はどちら側にもとれる内容だが、単に陛下の”昼の国が見たい”と言う欲望だった。

「仕方が無い、ちょっと行ってみるか」
「「「おおっ」」」
一緒に喜んだエルヴィーノだが一仕事済ませたいと思い提案した。
「ジャンドール王。その前に城に小部屋を1つ用意して欲しい」
島へ移動する気になっていたのに横槍が入ってブスッとする国王が問いただす。
「一体何に使うのだ?」
「転移魔法陣を設置しようと思うけど」
「何ぃ、魔法陣を作れるのか?」
魔法陣を自分で作れる事に驚いた”魔王”だ。
「ああ、出来るよ」
すると従者のシオンが褒めちぎる。

「流石は陛下ですなぁ。ノタルム国では剣技と魔導は個人の得手不得手で別れていましてな、剣技を得意とする者は率先して戦いの先頭に立ち、魔導を得意とする者は後方支援と戦略を重視しております。さしずめ陛下は魔導派ですかな? 陛下で有れば何が出来ても驚きませんぞぉ」

自国では我こそが最強と自負していたが力の差を見せつけられて、何とか血族にしたいとする国王が褒めちぎる。
「いや、シオンよ。モンドリアンは剣技も凄いぞ」
「ほおっ」
「我が剣と腕を一瞬で切り落とす才を持っておる」
「おおおっ」
「しかも、一瞬で繋ぎ合わせる治癒魔法も使えるぞ」
「なんと、流石は陛下。御見それしました」
多少大げさに驚いているシオンだが、アルコンは絶句していた。






(腕を切ったのは口止めしないと不味いな)と思っていたエルヴィーノ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...