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第7章 レース編

第193話 若返りの魔法陣

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そんな感じでナタリーの厳しい監視の元、伯爵家はその日を迎える。
メイド達は泣きながら手を振り兵士達も見送っていた。
それはナタリーが見えなくなるまでだった。

「フリオ、ロザリー様に報告して来い」
「ハイ」
1人だけ屋敷に戻しグンデリックが話し出す。

「みんなワシの話しを良く聴け。ナタリーとは今生の別れだ。もう二度と会う事は無い」
「「ざわざわ」」
「そんな、聞いて無いわ」
アメリアがグンデリックに詰め寄る。
「聞けぃ。誰が一番辛いと思う?」
「それは・・・」
「いいか、二度とナタリーの話しは禁止だ。良いな」

昨晩、グンデリックに秘蔵の酒を持って訪れたナタリーは打ち明けた。
「あなたには、本当にイロイロとお世話になったわ」
「あぁ、古い付き合いだしなぁ」
「・・・あの子の事、頼みますね」
「フリオの事は心配するな」
「違うわ、アメリアの事よ」
「えっああ、フリオは良いのかよ」
「心配しないで。考えて有るわ」
そして二度と会えない事も話す。
「湿っぽくなるのも嫌だし行くわ。じゃ明日からお願いしますね」
「あぁ」


※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


ゲレミオの事務所に訪れたナタリーはネブリナとカリマにゲレミオの店に案内される。
初めて見る如何わしい道具に多少関心が有ったが、記憶に留めてゲレミオの食事店に向った。
ナタリーは各国に出向くので美味しい料理も食べている。
しかし、自国でこれ程美味しい料理を食べられる事に驚いた。

「だけど、あなた達本当に楽しそうね」
「えっそうかなぁ?」
「その理由も明日になれば分かりますよ」

若返った事は本人に魔法を使うまでは秘密だと指示してあるからだ。
これはエルヴィーノから”お世話になった”ナタリーの恩返し共にナタリーとフリオを驚かせようとした企画だった。
(簡単に魔法で若返ったら有難味が無いからでしょう?) とネブリナとカリマは密かに思っていた。

ゲレミオの宿で、久しぶりに1人で就寝のナタリー。
(明日は儀式だと聞いているけど、いったい何をするのかしら)
過去を振り返りながら次第に思考はフリオで一杯になるナタリーだった。
翌朝、習慣のせいか早く起きてしまうナタリー。
宿でする事も無いのでゲレミオの事務所へ向かった。
事務所の建物はセゴリダッドの部屋だけ人が居た。
仕事上、夜も待機している者が居るからだ。
挨拶を済ませ部屋を見回すと、身支度して掃除を始めた。
基本的に男しかいないので、余り清潔とは言えない空間が気に入らなかったのだろう。

事務所にはセゴリダッド、ベルデボラ、コメルベビーダに支店長の執務室と応接室が有り、テキパキと片付けて行くナタリーだった。
ネブリナとカリマが来た時は、既に大半が綺麗になっており、見違えるような部屋に驚いた2人だった。

「どうなっているの、これは?」
「誰が掃除したの?」
ナタリーが早くから掃除をしていた事が判明した。
「ナタリー、掃除なんて良かったのに」
「これは私の性分ですから、散らかっていると体が動いてしまうのです」
「「あは、はははっ」」
そんな事は一切考えた事の無い2人が笑って誤魔化した。
「さっそくだけど王宮に向うから用意してください」
「はい」

ネブリナとカリマにナタリーが王宮に到着すると、ロザリーとフリオが待ち構えていた。
「おはようナタリー。どうだったかしら、久しぶりの1人寝は」
「ハイ、とても寂しかったです」
そう言ってフリオを見た。
「僕もだよ!」
「あらあら、朝から熱々ぶりの2人だ事」
そんな2人を冷やかすロザリーだが、お構いなしにデレまくる2人だ。
そこに親衛隊のミシェルが現れて6人を案内してくれた。

案内されたのは王宮の地下に有る一室だった。
待ち構えていたのはブリンクス王、エルヴィーノ、親衛隊長のジャックだった。
王の前に跪くナタリーとフリオ。

「ナタリーよ。その方、フリオの求婚を承諾したと聞いたが間違いないか?」
「ハイ」
「フリオよ。ナタリーはお前とかなりの歳の差が有るが理解しているのか?」
「ハイ」
「おまえ達の気持ちは分かった。フリオの願いも叶えてやるが、ワシ等から改めて2人に褒美を与えよう」

するとネブリナとカリマがナタリーだけを別室に連れて行き、しばらくすると白い貫頭衣に着替えたナタリーが現れた。
フリオには”全てを良く見ておくように”とロザリーから言い聞かされていた。
部屋の中心にネブリナとカリマが手術台を持って来て、その上に寝そべったナタリー。

(まさか、そんな、でも、もしかして)
横になってナタリーは考えていた。
ナタリーはロザリーからブリンクス王が若返りの秘術を使った事を聞いている。

中心にナタリーだけとなり、他の者は壁まで下がる。
そしてエルヴィーノがナタリーの側に行き話しかけた。

「もう、分かっているよな?」
「・・・ハイ、宜しくお願いします」
「ああ、なるべくフリオに近づける様にするよ」

そして集中する。
ザクッと300歳の若返りだ。
端数は誤魔化そう。
実際エルフの10年20年の違いは分からないから、本人が何歳だと言えば通用するだろう。

「では、これよりスプレモ・デセオ・マ究極魔法ヒアを使用します」
静まり返る部屋。
「我が声を聞け、空間と時空の存在よ。精紳と時の流れよ。波乱に満ちた記憶を留め、この肉体を在りし日の元へ戻せ。若返れ! スプレモ・デセオ・プリメロ!」

七色の光が魔法陣から発し、対象者を七色の光が包み込む。
それはとても眩しくて直視出来ない程だ。
徐々に光は終息しナタリーが姿を現す。

「終わったよ、起きて見て」
そう告げると上半身を起こしたナタリーにフリオとロザリーが駆け寄った。
「本当にナタリーなの?」
「素敵よ、ナタリー。私が知る昔のあなたよりも、遥かに若いわ」
自分の手を見たり顔を触ってみたりして確認していると、ミシェルが姿見の鏡を持って来た。
「これはっ!」
一目見て理解したナタリー。
先ほどの中年女性とは違い若くて美しい姿に我に返り礼を告げる。
「エルヴィーノ様、私などに究極の魔法を使って頂きありがとうございます」
「ああ、解かったから交代してくれ」
ナタリーが立ち上がり、エルヴィーノが代わりに台に寝そべった。
大量の魔素消費は立って居るだけでも辛いのだ。

改めて王の前に立つナタリーとフリオ。
「どうだナタリー」
「ハイ、私などに勿体ない褒美です」
「では、正式にはフリオが成人してからだが今は婚約としよう。双方良いか?」
「「ハイ」」
「ではナタリーよ。まずは名を変えねばならん。そうだのぉナタリアはどうだ?」
「はい、ブリンクス王から下賜された名を頂戴いたします」
「ふむ、ではナタリアよ。正式にゲレミオに入り、ネブリナとカリマから詳しく聞くが良い」
「ハイ、畏まりました」
「フリオよ。お前に一部始終を見せたのは、お前を信用しての事。この事は我らエルフでも、わずかな者しか知らない極秘事項だ。その事を決して忘れずにな。親兄弟も一切他言無用だぞ」
「ハイ、仰せのままに」

無事に儀式も済んで、一度別々に戻る。
今日はゲレミオで再度説明を聞いて、翌朝伯爵家へ向かう予定だ。
ゲレミオの一室ではオセアノ、プライヤ、イスラ、ネブリナ、カリマに新人でナタリアの6人が顔を合わせて、オセアノが説明した。

「おめでとう”ナタリア”」
「ありがとうございます」
「改めて話そう。我らの種族でもブリンクス王含めて7人しか居ない仲間が我々だ」
「えっと言うと、皆さんも若返りを?!」
「そうです。私達5人は、死ぬ寸前の老齢だった所、あのお方に見いだされて今に至ります」
「死ぬ寸前だなんて、私よりも随分と高齢だったのですね。失礼いたしました」
ナタリアの生真面目な態度を見てネブリナが気さくに問いかけてカリマが愚痴を言う。
「気にしなくていいのよ。私達はもう仲間ですからねぇ」
「そうそう、一応エルフだけど本音はこの5人としか話せないのよねぇ」

クスクスと笑いながら質問する”ナタリア”。
「では皆さんも名前を変えられたのですね」
「ああ、ブリンクス王に付けてもらったよ」
「そうですか。では若返った者は王の管轄なのですね?」
「それは違う。我らの主は1人だけだ」
「ブリンクス王では無いと?」
「王も承諾しておられる」
「ではエルヴィーノさんですか?」
ドキッとした一同。

「そっそれは、改めて指示が有るまで保留だ」
「そうですか」
「一応ナタリアへの指示は頂いてあるので伝えよう」
「ハイ」
「では賜った言葉を伝えます。今後は伯爵家に王家からの執行としてメイド長補佐を頼む。また、定期的にゲレミオに訪れて会議などに出て欲しい。掃除も頼む。細かな事は5人と決めて欲しい。以上だ」
「要するに従来の職務とゲレミオの掃除などが加わると言う認識で宜しいですか?」
「そのようですね」







改名ナタリーからナタリアになりました。
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