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第7章 レース編

第185話 イグレシアからアレグリア2

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アルモニアの国境を越えてバリアンテ最初の町、ビクカラを目指す選手達は全員が悩んでいた。
それは時間だ。
次のビクカラには12:30着の予定で進んでいるが、ニナルには上限速度で誰も速度低下魔法を使わずに到着してカミラが±0だったのだ。
先行する2人は少し早くて減点、当たり前だがカミラよりも後ろは少し遅くて減点だった。
ローガンにブオは魔法を使い追い上げて、カミラを目安にすれば良いがリアムとフリオは悩んでいたが同じような事を思い付く。

それは徐々に後退しカミラと並ぶのだ。
全員の意識はカミラが基準となる速さ(全機同じ速度だが)で、縦一列で飛行しているのでその場所が重要だと考えていた。
後続者も同じだったがローガンにブオは違った。
特にブオだ。
何故なら足が遅いからだ。
カミラよりも大分前に行かないと足で差が付いてしまうからだ。

だからと言って速度低下魔法は使わない。
誰かが使用すれば、撃った者と狙われた者の仲間達が一斉に使いだすだろうし結果は乱戦になると全員が理解していた。
だから今まで通り最終地点直前までは魔弾を温存する事となる。

ニナルから国境を越えて海沿いをひたすら飛び、海の景色を見ていると陸地の景色が変わって来るのが解る。
南国のバリアンテに入ると草木の種類が変わり荒地が見えだすのだ。
そして見えてくるのがビクカラだ。
バリアンテで最初の町ビクカラは大陸から流れてくる大河を挟み栄えている港町だが、リベルタよりも規模は小さい。
そして第二検問所は町外れに作られていた。

リアム、フリオ・カデラ、ネル、カミラ、カニーチェ、バスティアン、ビエルナスがほぼ横一列で到着する。
わずかに送れてローガンとブオだ。
結局、差は縮まらず、気合を入れて走り出す2人だ。
機体置き場から設置場所までは500mだが、ここでも全員がカミラを意識している。
前後2分以内は原点にはならないので、全員がカミラの速さに合わせていた。
そして残り5mで加速する男達。
考える事は同じだ。

到着順位は(7,ネル+1)、(8,カニーチェ+1)、(4,リアム+1)、(3,フリオ・カデラ+1)、(5,バスティアン+1)、(2,カミラ±0)、(9,ビエルナス+1)、(1,ローガン+2)、(6,ブオ+2)の順だが、重要なのは時間だ。

スタンプは並んでいればテンポよく押して時間はかからない。
この街での減点は(7,ネル+1+1)、(8,カニーチェ+1+1)、(4,リアム+1+1)、(3,フリオ・カデラ+1+1)、(5,バスティアン+1+1)、(2,カミラ±0+1)、(9,ビエルナス+1+1)、(1,ローガン+2±0)、(6,ブオ+2±0)だ。

先行していた者が全員減点で、ローガンとブオが一番近い時間だったのだ。
そして暫定でカミラが1位で全員が2位だ。
こうなると分からなくなってきた選手達。
ローガンとブオ以外は早すぎたのだ。
しかし、頭では理解しても身体が勝手に動いてしまうのは仕方が有るまい。
喜んでいるローガンとブオを無視して飛んで行く一同だった。

ビクカラは12:30。
第三検問所の港町リベルタは15:10だ。
これは意図的に中途半端な時間にしてある。
レースを面白くするためにマルソ殿と考えた事で、勿論選手たちは秘密だ。
たとえばカニーチェとブオだと差は開く一方だろう。

それでは面白く無いのだ。
ハラハラドキドキするような展開を楽しんでもらえているモノだと信じているエルヴィーノとマルソだった。
ビクカラの順位及び減点での暫定順位がエマスコで送られた。

一瞬だが教会関係者が沸き立った。が、不謹慎だと自覚したのか静かになる。
一方エルフ国の兵士達は盛り上がっていた。
現時点での暫定で同列だが一位を飛行しているのが自分たちの仲間だからだ。
フリオとカミラもエルフだが片や見習いで片やメイドと全く知らない者達なのでエルフの兵士達には仲間意識が余り無かった。

所が兵士長のローガンが1位で先行していると聞きつけた者達が騒ぎ出し、王宮はその話で盛り上がっていた。
親衛隊のジャックからブリンクス王に報告されたが「そうか」とだけだったと言うが、口元がほころんでいたのをジャックが見ていたのだ。
騒いでいる兵士達に「満更でも無いご様子」と付け加えられたと言う。

ここで教会関係者やエルフ達の間で、終始ニコヤカになる者とイラつく者、我関せずと無視する者、ガッカリする物など面白い人間模様が見られたと言う。
ガッカリは様々だがニコヤカな者とイラつく者は分かりやすい。
意外に我関せずに無視して居る者が結果的に当てるのかも知れないが、親衛隊は良く見ていた。

ジャックを筆頭にこのレースの発案者が誰なのか知っている者は、そんなエルフ達を眺めながら楽しんでいた。
極秘だがジャックに指示しエルフ王も券を入手しているのだ。
全ての者が楽しめる様にと、妻達の要望のお蔭だ。

ビクカラを後にした選手たちは一路港街リベルタを目指して海沿いを飛行している。
ビクカラ同様に大河を挟んで栄えた港町だ。
南国のバリアンテは荒地が多いのだが暫くすると砂漠地帯が見えてくる。
荒地と砂漠は遠目からだと境目が解らないがリベルタを過ぎて西は広大な砂漠地帯だと言う。
まるで大河で遮っているかの様だ。
だが、この河はかなり氾濫するらしく川幅が異常に広い。
だから橋は無く船で渡ると言う。
東側の街は割と地盤がしっかりしているそうだが、西側の砂漠地帯に出きた町は徐々に建て直して遠ざかっているそうだ。

海沿いを飛行する選手たちは快適だった。
途中ビクカラでもらった軽食を食べながらの飛行だ。
だが、昨日今日と先頭を飛行する者は違う事を考えていた。
数日前、リアムとネルは、それぞれの妻と大会委員会長マルソにエルヴィーノから呼び出しを受けていた。
それは重要な議題が有ったからだ。

「コースは部下に何度も飛ばせて確認してあるが、もしも、万が一に魔物が襲って来た時の場合を想定します」
マルソ殿の説明だ。

「空中飛行だから問題無いのでは?」
「確かに一般の魔物は心配無用だろう。しかし、魔物の中には飛行する物も現に存在するし、両国でも存在が確認されている」
リアムとマルソの会話にネルが入る。
「それで、我々にどうしろと?」
「ふむ、そのような事態にならない様にアルモニアの"警備隊"が上空から警護しているから駆けつけるが、それでも選手たちの安全を第一とし、2人で護衛に回って欲しい」

当然と言える説明にうなづく2人だ。
バリアンテには龍戦隊の事は極秘なので警備隊と説明して有る。
空中とはいえ戦闘となれば2人が長けているだろう。
バスティアンとローガンは剣も盾も無いのだから。
女性や未成年も参加しているので襲われる事自体、龍戦隊を使い未然に防ぐようにしてある。
龍戦隊は選手達の近くを並走する部隊と、上空から警護する部隊に、広域を飛行し魔物を警戒する部隊を同時飛行させる。
その事も含めて2人には事情を説明しておいたのだ。

建前は3ヵ国同盟に些細な問題も起こしたくないのだが、もはや総合売上の”あの数字”を見てしまった以上、今後も開催し各国でのレースも検討されている。
その1回目で魔物の襲撃や事故などは、決してあってはならない事なのだ。
昨日はリアムがその事を思い出していたが、今はネルが思いだし周りや遥か上空を見ていた。
そんな2人の心配をよそにフリオ・カデラとカミラは目を輝かせていた。

海はエルフ国も周りを囲まれているし砂浜も有る。
だが、大きさがけた違いだ。
一面の青い海と真っ白な砂浜が永遠と続いている。
空の青さに白い雲。
良く知っている物ばかりだが、それ以外視界に無いのだ。
上限高度からでも全て”砂浜”が見えるのだ。
「すごい・・・」
「素敵・・・」
2人は景色に見とれていた。

遠くには蜃気楼のように街が見えてきた。
第三検問所の港町リベルタの到着時刻は15:10。
選手たちの順位はどのように変わるのだろうか?






なんか、旅ってる?
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