上 下
151 / 430
第6章 棘城編2

第151話 ネル殿の隊員発掘の旅

しおりを挟む
「まぁ、急いではおらん。候補者が決まれば連絡するか次回来た時でも教えて欲しい」

ネル殿はそう言ったが種族長達は気が気では無かった。
何故なら国中を回って候補者を探していると先代獣王からの告知だからだ。
昔は”飛ぶ者とう者”などと言って自分達の方が崇高だと考えていたが最近は違っていた。
特に棘の森の件である。
アベス族からも賞金目当てで力の有る者が大勢出向いたが誰1人帰っては来なかったのだ。

そこに見知らぬ”人族”がやって来て巨大な龍を召喚したと言う。
その巨大な龍が棘の森を消滅させ、あっという間に城と街を作ったと聞いている。
一部の族長達は現地に行って、その素晴らしい街や城に圧倒されたのだ。

それに宙を浮く乗り物まで存在して街中を回り獣人達を乗せて運んでいる姿を見て、アベス族としては新しい獣王に近づき加護を得たいと考え、要望の有った城壁の警護に沢山の種族を送り込んでいた。
そんな中でアベス族からも龍に乗る者を排出したいと思うのは致し方ない事だ。

「ところでモンドラゴン様。今夜はどちらでお泊りでしょうか?」
「今日はお前達に会うのが一番重要な事だったので特に考えてはおらん」

事実、獣王国は雨が余り振らないので昼夜の温度差はあるが野宿も一般的だ。
街道は昔と違って強力な魔物もほとんど出ない。
魔物の生息している地域に近づかなければ危険は無いのだ。

「それでしたら、どうぞこの街にお泊り下さい」
「しかしプテオサウラ達が居るからな」
「龍達は餌を与え、外でも構わないのではないですか?」

1人の族長の言葉に激昂するネル殿。
バッと立ち上がり吠えた。

「愚か者め! 彼らは我が友。何より我らの言葉を理解して会話が出来るのだぞ。少なくとも我らよりは格上の種族だと知れ! そのような態度では先ほどの話しも無かったことにする」

激昂するネル殿に平謝りするアベス族達。
「「「もっ、申し訳ありません」」」
「無知な我らをお許しくださいモンドラゴン様」
黙って考えるネル殿だ。

「先ほどは我がお前達にお願いして、これからこの国の未来を作ると言ったお前達がそれでは困るではないか。我とお前達の付き合いも長いから良いが、黒龍王がこの事を聞いたら何と言うかのぉ」
「ヒィ! それだけはどうかご容赦ください」

族長全員では無いが、魅力に取りつかれた者は慌てふためいて懇願してきた。

「ではプテオサウラ達にも屋根の有る寝床を用意してくれ。それと食べる物は肉だが隊員達に詳しく聞いて欲しい」
「「「ハハァ」」」

半分の族長が部屋を出て食事の準備に宿とプテオサウラ達の対応に追われる。
もう直ぐ夕暮れだが今日はここで泊まることにしたネル殿は、後で族長たちのお願いに困ってしまうのだった。

プテオサウラ達の寝床は、急な事も有り大きな倉庫に藁を敷いて対応した。
アギラ族の族長とプテオサウラ達の居る所へ戻って来ると、沢山の若いアベス族でごった返していた。

「コラ! お前達、ちょっと離れなさい」

騒ぎの中心にはプテオサウラ達と龍騎士隊を取り囲む様に話していた。
先代獣王で龍騎士隊隊長とこの街のおさでありアギラ族の族長が騒ぎの中心に歩いて行く。

「フィド、紹介しよう。彼はアベス族の中でも一番勇猛なアギラ族の族長だ」
グルルッ
「宜しくと言っているぞ。族長、彼はプテオサウラのリーダーでフィドし言う」

「初めまして。ご紹介いただいたアギラ族の族長です。本日は急な来訪でフィド様達の宿は簡素な物となりますが、次回来られる時まではご要望に沿った寝床を作りますので宜しくお願いします」

族長の丁寧な挨拶を見て若いアベス族が神妙に見ていた。
「また、お食事に付きましても出来るだけご要望の物をお出ししますので、言い付けてください」

言葉の通わぬプテオサウラに対する接し方を見て困惑する者と、言葉を理解していると副隊長カニーチェから聞いていた者達は感心していた。
そして、宴の為に各自が解散して用意する事となったアベス族。
どっしりと大地に座るネル殿が聞いてきた。

「みんなアベス族と話してどうだった?」

副隊長カニーチェが答えた。
「プテオサウラに興味津々と言った所ですかね。いろんな質問をされましたよ」
(若い者たちばかりだったからな、初めて見る我らに興味が有るのだろう)
フィドも答えてくれた。


※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


アギラ族の族長がアベントゥラを呼び出していた。

「息子よ、龍を見てどう思ったか?」
「はい、初めて聞きましたが我らの言葉を理解すると言われましたので驚きました」
「ふむ。私もそうだ。だからあのように接したのだ」
「やはりそうでしたか」
「で、どう思う?」
「どうとは?」
「アレに乗りたいか? と言う事だ」
「まさか、我らを乗せてくれる訳が有りません」
「何故そう思う」
「我らは飛べるのですよ」
「フム。お前は今来ている先代獣王程度かもな」
「何がですか!?」
「今回の訪問は国中を回って龍騎士隊候補者を探しているらしい」
「本当ですか!」
「あの黒龍王様の”指示だろう”一体何をお考えなのやら」

族長も勝手に黒竜王の考えだと妄想しアベントゥラも妄想していた。
それは自らがプテオサウラに騎乗し大空を駆け巡っている姿だ。

「アベントゥラよ、今すぐお前に頼みたい事が有る」
「はい、何でしょう」
「ストラシオ族で若手一番の弓使いと、アベス族で五指に入る綺麗処を連れて来てくれ。大至急だ」
「オヤジ、一体何をしたいのか説明したてくれ」
仕方なく簡単に答える族長。

「募集は遠距離攻撃に長けている者を優先しているそうだ」
「チッ」アベントゥラが悔しがる。
「綺麗処はモンドラゴン様に見せるのだ」
「まさかオヤジ」
「まぁ聞け。今、全ての部族や種族の族長達が一番欲しい物を知っているか?」

首を捻るアベントゥラ。

「金? 魔石か?」
「愚か者め。黒龍王の子種だ」
「おぉぉ!」
「理解したか。既にご懐妊の噂が出ているからな。これで黒龍王の力を我らの一族に混ぜる事が出来ると思っているのは我らの種族だけでは無いと言う事だ」
「だったら妹に」
「馬鹿者。若すぎるだろ。我ら一族で無くともアベス族としてでも構わん。何としてでも子種をもらうのだ」
「しかしよう、噂に聞くと人族だろ?」
「だからお前はまだまだ子供なのだ。黒龍王の本当の名前を知っているか?」
「えぇっと、エル・・・何だっけ」
「愚か者め、では聖魔法王国アルモニアの国王の名を知っているか?」
「よその国の王様の名前なんか知る訳ないだろ!」
「ハァ・・・」

頭を抱えて落ち込む父親の族長。

「あの方の名は、エルヴィーノ・デ・モンドリアン様だ。広大な国土を統べるバリアンテの黒龍王にして、聖魔法王国アルモニアの国王でもらせられる。歴史の中では、この二大国家で争った事も有るが、両国を統べた者は未だかつて居ないのだぞ! それも何の争いも無くだ。これがどれだけ凄い事かお前には解らんのか!」

言われる事は理解するがピンと来ない息子に激昂する。
「えぇい、お前は言われた通りに準備しろ!」

宴会までの時間は少なく、それぞれの族長がアギラ族の族長と同じ考えで動いていた。
種族は違うがこちらの言葉を理解する龍族も同席出来る宴会場を仕立てあげ料理が作られて行く。
集まった族長達は、アベス族の威信を掛けて仲間から(出来れば自分の種族から) 龍騎士隊候補者を出したいと望む一方で、要望に応える為飛べない鳥ストラシオ族の者も呼び寄せた。
そして、これも全員が取った行動だが一族の綺麗処を集めていたので歓迎会場の裏手は異様な雰囲気になっていた。

宴会場として用意されたのは大きな倉庫のような建物だ。
三分の一はプテオサウラの食事場所で残りはアベス族と龍騎士隊の懇親を計る為の場所だ。
そして全体で食事を出来るようにしてある。
集まった一同は龍騎士隊隊長のネル殿の周りには族長などで、プテオサウラの近くに副隊長のカニーチェと隊員2人にアベス族の若手達だ。
カニーチェからプテオサウラの主食は生肉だが、串焼きのタレを使った焼肉も大好物だと教えて有り、プテオサウラ四体の前には大量の焼肉が香ばしい匂いを出していた。

(腹が減った!)
(早く食べさせろ)

目の前に御馳走を並べられ御預けされているプテオサウラ達がわめいている。

「族長達よ、肩ぐるしい挨拶は不要だ。皆好きに食べても良いか?」
そのように聞かれてダメとは言えず許可を出した。

「皆の者よ、今宵は好きなだけ喰って酔うが良い!」
ネル殿がそのように吠えるとフィド達は一斉に食べだした。

食事をしながら会話も弾み一息した所でアギラ族の族長が龍騎士隊隊長に話しかけた。

「モンドラゴン様、実は裏でアベス族の龍騎士隊候補を待機させて有りますが、一度会って頂けますか?」

ほろ酔い気分のネル殿は”ウム”と言って候補者を品定めする。
一通り聞いているが余り理解していない。
そして最後の候補者の説明になる。

「こちらがアベス族で一番の弓の使い手ストラシオ族の者でございます」
「ストラシオ族のボエロです」

飛べないアベス族のストラシオ族で大柄のボエロと言う男だった。
「ポエロよ、お前の弓の腕前を見せてくれ」

そう言ったネル殿の要望に応えるべく準備するボエロ。
的を置き、弓を構え撃つと難なく当たる。
試しに他のアベス族に撃たせてみると当たらなかった。
そこでカニーチェを呼び的を撃つように命じると、多少酔ってはいたが無事に当ててネル殿の威信を保ってくれた。










あとがき
何気にエルヴィーノの事を良く知っている族長達。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...